Box.30 決戦の水曜日
X-day当日
『へー、それは面白いことになってるねー』
タブレットの向こうで、巧が言う。お前も誰かの喋り方が写っとるやんけ。
「ここしばらく教室が浮ついてて、敵わんわ」
『その元凶が、なんとも我関せずなのも、また一興』
『呼んだ?』元凶が返事したで?
「呼んどらん」…のに近づいてきたわ。
『あ、巧。久しぶり』
『やぁヒカル。誕生日おめでとう。君への皆からのプレゼント、何にするか考えてたんだけどね』
「あぁ、ありがとう、わざわざ」
「…わしは考えとらんわ」
『猫のご飯とか、君のプロテインとかもどうかと思ったんだけど…タペストリーにしたよ。ほら、ルカ』
「…ほれ」
『なんだ、ルカが渡してくれるの?』
「はよ取れ」
『わかったわかった』
『…開けてみるがよい』
『額縁はハヤトが選びまシタ』
『ありがとう。写真は…去年の中間試験のやつ?』
『この時より先に僕が一緒の写真がなかったからね。大和には悪いけど…』
『この時の写真では俺はずっと臥していたからな!』
横になっとる大和の周りに集まった11人。…確かに悪くない写真や。やけど…こん時から1年か。ヒカルには随分、差詰められた気ぃするわ。しゃくやけどなぁ。
これどうしようかな。家に飾るより教室に飾るほうがいいかも。なんて考えてると、ガラッと教室の引き戸が開いた。こういうとこレトロなんだよな。ここ。
『はいはい、みんな席について』
『私、今日眠いから、機嫌悪いよ』
普段からあまり寝てるようには見えないけどなぁ。
マイカさんが教室を見回して気付いた。
『…んー?あんにゃろ!人を寝不足にしといて、来てないじゃん』
あ、僕の後ろの席のアイツがいない。
『ちょっと、叶!一限自習!』
『はぁ、何言ってるんですかセンセイ!?』
『ちょっと、うちのコ、起こしてくる!』
『え…あー、あぁマジか。何してんのよ、あの子』
かなえさん、呆れすぎ。まぁ僕もどんなリアクションしたらいいのか分からない。多分、今日僕は祝われるんだろうけど…自分からアピールするのも違うし、怒るのも違うしなぁ。
「ルカどうしたらいいと思う?」
『わしが知るか!』『自分で考えや!』
んー。なんか男子からのお祝いはもう終わったっぽいし、皆でなんかする感じじゃないのかな?待つしかないよなぁ。ほんとリブは今日何をするつもりだったんだろう。
昼休み、梓さんに話しかけられた。
『リブ、結局来ないね』
「何か仕事でも入った?」この1年でも急に来なかったことはあった。
『それなら先生が知ってるでしょ』
『先週の記憶更新のときは、君のために何かやる気はあったみたいだったんだけど』『まぁ何もなかったら…叶が何か考えてくれるよ』
『え!?…なんで私なのよ』
『女子からのプレゼント。あなた持ってるでしょ?』
「え、あるの?嬉しいな」
『叶が週末に買い物行くから、女子からも何かあげる?って電話してきたのよ』『まぁ断る理由もないしね』
「断られてたら、辛いなぁ」
『梓…言わなくていいから』『じゃあヒカル君、はいこれ。女子からのプレゼントってことで』
カバンから紙袋を取り出して渡された。
『えっと疲労回復とか、筋肉痛とかに効く入浴剤。私も時々使ってるんだけど。ヒカル君とこの、猫ちゃんと一緒に使っても大丈夫なヤツにしといたわ』
「ありがとう。疲れが取れるのは助かる。大事に使わせてもらうよ」
『君も…よく頑張ってるからね』
『…自分の好きな入浴剤を贈る、か』
『なに?』
『なーんでもない』『選ぶの任せちゃったけど、悪くないと思うよ』
下校前ホームルーム。結局今日リブは来なかったけど、マイカさんに職員室に呼び出された。部屋に入るとマイカさんは頭を抱えている。まさか、リブに何かあったのか?
『ヒカル、悪いけど』…深刻そうだ。
「はい」
『この後、うちに来てくれる?』
「はい?」…違った。
『うちのバカが、恥ずかしくてヒカルを誘えないんだって』
「あぁ、そういう…」
一旦、家に帰り荷物を置き、服を着替える。
『ご飯は食べなくてもいいと思うよ。あ、そうそう。あの猫ちゃん連れてきても良いよ。そもそもしょっちゅうウチに来てるからね』だそうだ。
お前。夜いなくなると思ったら、そんなことしてたの?
ルドを抱きかかえたまま寮を出て、徒歩2分のマイカさんの家に向かう。
「こんばんわ、お邪魔します」
『鍵開けてるから入って入って』インターホンの向こうからマイカさんが応じた。
家の中から、バタバタバタバタと足音がする。敷地に入り、見るからに和装の家の玄関の引き戸を開けると、そこには目線を泳がせたリブが立っていた。
『お、おはよう、ヒカル』
「おはよう、じゃないよ。心配したよ?」
『ごめん』
頭をぽんぽんしたら、リブは頭を抑えたまま、リビングまで案内してくれた。
『ヒカル、いらっしゃい』
『何かこの子、朝からずっと、料理作ってたらしいわよ』
リブの顔がまた赤くなった。
マイカさん初出です。マイカ家が和テイストなのは、特に考えずに書いていたのですが、よく考えたら、じいちゃんのお家にそのまま住んでるんですよね。和装で当然でした。




