Box.25 決意
2026/8/20
50話作成時点で章立てしようとした時、本話が1章最終回というとこになりました。作成時点でそうしようと思ってなかったのもあるので、章最終回らしい引きと流れに修正しました。設定上の変更はありません。
火曜日にもう一回―Eternal―を使ってもらって、かなちゃんの記憶が私に移植された。主にルドを再生するときの話だった。
『記憶がないな、って思うことあったけど、まさか本当とはね。もう無茶しちゃダメよ。ヒカルくんにお礼言っときなさいよ』とかなちゃんには言われた。
梓が言うには『もう既に私と叶で記憶がズレてるから、もうこれ以上誰かの記憶を重ねない方がいい』らしい。そして『ものすごいしっかりした記憶の軸ができてるのが、良かったと思うよ』だそうだ。
つまり三週間分の記憶喪失と、ヒカルが三週間前に来たことが奇跡的にかみ合った、ということらしい。
私が記憶を失ったのは、Singularity-00 At-Randomの討伐のときにマイカちゃんを庇ったから、と聞いた。緊急放送の後の記憶はないけど、詳細は伝えられないそうだ。どうやら編音たちを経由して記憶を戻すのがダメらしい。
リブⅡである私は元のリブと同じような記憶を持っている。元のリブはヒカルのことが大好きだった。それは間違いない。でも私はどうだろう?ヒカルの記憶だけでは、そこにあったはずの私の感情まで反映されていない。つまり、…はっきり言うと、私がいつ彼を好きになったのか分からないのだ。
人間一人分の人格を支えるくらいの強固な記憶を持てるくらい、大事にされていたんだと思うけど、彼からもらった記憶をひっくり返しても、そうなっている理由が分からない。よくヒカルは泣いてたような気がするけど、気になったのはそのくらいだ。
うーん。これは困った。多分クラスの皆は私を元のリブだと思って接するだろう。でもそこにある感情は以前と少し違っている。
幸い今日は1日休んでいいとマイカちゃんに言われたから、ゆっくり休もう。また明日だ。
翌日水曜日、朝早く起きてしまったので食堂へ行く。勝手に特盛にセットされている朝ご飯を、綺麗に食べてから学校へ向かう。特盛の設定は記憶通り。機械はちゃんと、私を私と認識している。
バスに乗って学校へ。記憶のまま歩いて教室に着いた。体はいつも通り完璧に再生しているようだ。こちらも特に支障はない。
自分のIDカードを見る。私の席は一ノ瀬、自分で決めた名前。ヒカルの一個後ろだ。…席に座ってみる。…何だかドキドキして落ち着かない。クーラーで冷えた机に頬をつける。ひんやりして気持ちいい。
機械の私への認識は変わらないし、体も感覚も元に戻った。でも私は…。
時間が余ってるから、退屈だから、ぐるぐるいろんなことを考えちゃうんだ。そう思いながら、髪を固めて机をとんとんする。あー。
「…ヒカル早く来ないかな」
「……!?」
……自分の口から出た言葉にびっくりした。
————火曜日、僕はマイカさんに呼び出されていた。
「失礼します」
ノックして執務室に入る。中間試験や歓迎会のときにいたガタイのいいおじさんもいる。
『やぁヒカル、わざわざありがとうね』
『今日はおっさんもいるから、学校じゃちょっとね』
『上司に対しておっさんはないな』
『本城太朗、だ。直接話すのは初めてだな』
握手を求められる。大きな手だ。
「よろしくお願いします」
「すいません、マイカさんの上司の人とは思っていませんでした」
『それはタローのオーラが足りないんでしょ?』
…慇懃無礼だ。
『まぁこの阿呆は置いておくが、改めて箱庭へようこそ。私はこの日本支部の支部長になる。施設のトップと思ってくれていい。この子の上司だ』
『皆、私のことはタローと呼んでいる。不本意ながら』
『…この子っていうなぁ~』
『私からすると、お前はいつまでも小さい子供だ』
『……小さいって言うなー!』
…いつも余裕そうなマイカさんが子供っぽいのは珍しい。
『あ、忘れないうちに』
『リブは今日の検査でも特に大きな問題はなさそうだから、明日から登校になるわ』
『ヒカル、またよろしくね』
「そうですか。…良かったです」
『そのリブの話もあって、今日は君に来てもらった』
「僕もその話をしたかった、です」
『ふむ。今回の件では、君がリブの回復の助けになったと聞いている』
『その点については、素直に感謝を伝えたい』
『元々、リブを君の傍に着けようとしたのは私の差配だったのだが、予想外な方向で、有益に働いた』
「僕の能力で、他のみんなを傷つけるより、リブの方が程度が軽く済む、って判断だったことは知っています。そこは理解もできています」
「…でも…」
『…今回、何でリブが記憶喪失になってしまったか、は納得できない、でしょ?』
「…はい」
『悪いけど、詳細は機密なのよ。でも私が油断してた。リブは私を庇って粒子化能力を使いすぎた。それで記憶障害になってしまった』
『そのくらいが伝えられるギリギリね』
…やっぱり何かと戦っていたんだ。
『まさにギリギリだが…』
「リブは何と戦ってたんですか?」
『……』
タローさんがマイカさんを睨む。ギリギリのラインは踏み越えていたらしい。マイカさんは明後日の方に目線をそらした。
『そこが機密なのよ。あんた達学生には伝えられない』
「じゃあなんでリブは巻き込まれるんですか?」
ふぅ、と息を吐くマイカさん。
『納得できないのも分かるけどね』
『リブはね、Sナンバーだから。緊急放送でも言ってたでしょ?Sナンバー集合って』
ほら、とマイカさんのIDカードを見せられた。S-04。
『リブはまだ仮免だからIDは一般と同じだけど、非常時には一緒に行動することにしてる』
「Sナンバーってなんなんですか?」
『それも機密っちゃ機密なんだよねぇ』
『…だが我々は、お前の覚悟次第でその機密を話してもいいと思っている』
タローさんが口を開いた。
「覚悟?」
『そう、異能者の更なる領域、Singularityに踏み込む覚悟だ』
「Singularity?それが、Sナンバー?」
タローさんが頷くのを見てマイカさんは続ける。
『大体そうなる、かな』
『編音達が覗いてた、能力ランキングは知ってるわね?SSSランクは世界で数えるほどしかいないって』
「えぇ。中間試験の時に見ました」
『あれは、Contraっていう明らかな格上への対応力も見てたからね』
『で、Singularityの能力基準自体は、SS以上ってことにはなってるんだけど…』
『実際は殆どがSSSで占められている』
「つまり、SSSを目指せ、ってことですね」
『そゆこと』
『やる?』
「…何だか、先生たちが僕に最初から無茶をさせてるなって思ってたのが、ようやく合点がいきました。そこまで行ける、と思われてたんですね」
「それで僕は、あといくつランクを上げればいいんですか?」
Aだとすると3ランク、Bだとすると4ランク。
『………1個よ』
「…え?」
『…1個!ワンランク!』『あんた自己評価低すぎでしょ』
「僕SSなんですか?」
『そうだ。お前はSSランク。リブを除けば同学年のトップ評価になる』
『だからこんな話をしている』
『…言っとくけど、最初からSSランクなんて破格中の破格だからね!』
マジか。SSランク。そりゃ警戒されるわけだ。
「意外でしたが…」
「でも…僕がSingularityになれば、リブの助けになりますか?」
『もちろん。というか、Singularityぐらいでなければ、リブが危なくなるような事態であの子を助けることはできないわよ』
そうか。そうだよな。そういうことなら答えはもう決まっている。
「なら、SingularityになるためにSSSを目指します、が僕の返事です」
『ふっ…いいだろう』
『入門を許可しよう。仮免の仮免、だがな』
『おっけー。これで今まで、こそこそヒカル君の能力評価してたのが、大っぴらにできるわー』
『君も能力の理解が深まるかもねー』
『そう、能力はイメージだ。イメージを構築し能力を拡張していく』
『だが、まずは体力だ』
『まずは1年、体を作ってもらおう』
…ですよね。
翌日、教室に入ると、珍しくリブが先に来ていた。窓を見ながら退屈そうに髪で人形劇?をしている。
「おはよう、リブ」声をかけると髪が飛びあがった。
『お、お、おはよう、ヒカル』ゆっくりこちらを振り返るリブ。
なんでそんな潰れたスライムみたいな表情なの?
「…僕さ、Singularityに入るよ」
『え?』リブの髪がまた跳ね上がった。
「僕は……君を守りたいんだ!」
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みてみんに画像upしているのを見られたらネタバレになるな、と最近思い始めました。別にいいか、と思っています。
初期プロットでは、リブの名前は漢字だったので名残が出てます。いや、もうどこから引っ張ってくるのか。こわ。




