Box.25 決意
火曜日にもう一回―Eternal―を使ってもらって、かなちゃんの記憶が私に移植された。主にルドを再生するときの話だった。
『記憶がないな、って思うことあったけど、まさか本当とはね。もう無茶しちゃダメよ。ヒカルくんにお礼言っときなさいよ』とかなちゃんには言われた。
梓が言うには『もう既に私と叶で記憶がズレてるから、もうこれ以上誰かの記憶を重ねない方がいい』らしい。そして『ものすごいしっかりした記憶の軸ができてるのが、良かったと思うよ』だそうだ。
つまり三週間分の記憶喪失と、ヒカルが三週間前に来たことが奇跡的にかみ合った、ということらしい。
私が記憶を失ったのは、Singularity-00 At-Randomの討伐のときにマイカちゃんを庇ったから、と聞いた。緊急放送の後の記憶はないけど、詳細は伝えられないそうだ。どうやら編音たちを経由して記憶を戻すのがダメらしい。
リブⅡである私は元のリブと同じような記憶を持っている。元のリブはヒカルのことが大好きだった。それは間違いない。でも私はどうだろう?ヒカルの記憶だけでは、そこにあったはずの私の感情まで反映されていない。つまり、…はっきり言うと、私がいつ彼を好きになったのか分からないのだ。
人間一人分の人格を支えるくらいの強固な記憶を持てるくらい、大事にされていたんだと思うけど、彼からもらった記憶をひっくり返しても、そうなっている理由が分からない。よくヒカルは泣いてたような気がするけど、気になったのはそのくらいだ。
うーん。これは困った。多分クラスの皆は私を元のリブだと思って接するだろう。でもそこにある感情は以前と少し違っている。
幸い今日は1日休んでいいとマイカちゃんに言われたから、ゆっくり休もう。また明日だ。
翌日水曜日、朝早く起きてしまったので食堂へ行く。勝手に特盛にセットされている朝ご飯を綺麗に食べてから学校へ向かう。バスに乗って教室に着いた。体はいつも通り完璧に再生しているようだ。特に支障はない。
自分のIDカードを見る。私の席は一ノ瀬、自分で決めた名前。ヒカルの一個後ろだ。…席に座ってみる。…何だかドキドキして落ち着かない。クーラーで冷えた机に頬をつける。ひんやりして気持ちいい。
退屈だ。そう思いながら髪を固めて机をとんとんする。
「…ヒカル早く来ないかな」
「……!?」
……自分の口から出た言葉にびっくりした。
————火曜日、僕はマイカさんに呼び出されていた。
「失礼します」
ノックして執務室に入る。中間試験や歓迎会のときにいたガタイのいい人もいる。
『やぁヒカル、わざわざありがとうね』
『今日はおっさんもいるから、学校じゃちょっとね』
『上司に対しておっさんはないな』
『本城太朗だ。話すのは初めてだな』握手を求められる。大きな手だ。
「よろしくお願いします。」
「すいません、マイカさんの上司の人とは思っていませんでした」
『オーラが足りないんでしょ?』
…無礼だ?
『まぁこの阿呆は置いておくが、改めて箱庭へようこそ。私はこの日本支部の支部長になる。施設のトップと思ってくれていい。この子の上司だ』
『皆、私のことはタローと呼んでいる。不本意ながら』
『…この子っていうなぁ~』
『私からすると、お前はいつまでも小さい子供だ』
『……小さいって言うなー!』
…いつも余裕そうなマイカさんが子供っぽいのは珍しい。
『あ、リブは今日の検査でも特に大きな問題はなさそうだから、明日から登校になるわ。ヒカル、またよろしくね』
「そうですか。良かったです」
『そのリブの話もあって、今日は君に来てもらった』
「僕もその話をしたかったです」
『ふむ。今回の件では、君がリブの回復の助けになったと聞いている』
『その点については、素直に感謝を伝えたい』
『元々、リブを君の傍に着けようとしたのは私の差配だったのだが、予想外な方向で、有益に働いた』
「僕の能力で、他のみんなを傷つけるより、リブの方が程度が軽く済む、って判断だったことは知っています。理解もできています」
「…でも…」
『…今回、何でリブが記憶喪失になってしまったか、でしょ?』
「…はい」
『詳細は機密なのよ。でも私が油断してた。リブは私を庇って粒子化能力を使いすぎた。それで記憶障害になってしまった』
『そのくらいが伝えられるギリギリね』
…やっぱり何かと戦っていたんだ。
『まさにギリギリだが…』
「リブは何と戦ってたんですか?」
『……』
タローさんがマイカさんを睨む。マイカさんは明後日の方に目線をそらした。
『そこが機密なのよ。あんた達学生には伝えられない』
「じゃあなんでリブは巻き込まれるんですか?」
ふぅ、と息を吐くマイカさん。
『納得できないのも分かるけどね』
『リブはね、Sナンバーだから。放送でも言ってたでしょ?Sナンバー集合って』
ほら、とマイカさんのIDカードを見せられた。S-004。
『リブはまだ仮免だからIDは普通だけど、非常時には一緒に行動することにしてる』
「Sナンバーってなんなんですか?」
『それも機密っちゃ機密なんだよねぇ』
『…だが我々は、お前の覚悟次第でその機密を話してもいいと思っている』
タローさんが口を開いた。
「覚悟?」
『そう、異能者の更なる領域、Singularityに踏み込む覚悟だ』
「Singularity?それが、Sナンバー?」
タローさんが頷くのを見てマイカさんは続ける。
『ほぼ、そうね。Singularityの能力基準は編音達が覗いてたランキングのSS以上。世界中に10人もいないSingularityの殆どのメンバーがSSSランク。ちなみに君は今SSランクで、そこの基準は満たしてる』
『…言っとくけど、最初からSSランクなんて破格中の破格だからね!』
『さらに年齢は15歳からだから、今だとリブみたいに仮免扱い』
『どう?』
「…何だか、先生たちが僕に最初から無茶をさせてるなって思ってたのが、ようやく合点がいきました」
SSランク。それだけ恐れられてたってことだったんだ。
「…僕がSingularityになればリブの助けになりますか」
『もちろん。というか、Singularityにならなければリブを助けることはできないよ』
そうか。そういうことなら、答えはもう決まっている。
「なら僕の返事は、なるかどうかではなく、何をすればSingularityってのになれるのか、です」
『ふっ…いいだろう』『入門を許可しよう。仮の仮、だがな』
『おっけー。これで今までこそこそヒカル君の能力評価してたのが、大っぴらにできるわ』
『君も能力の理解が深まるかもねー』『そこはきっと良い点』
『そう、能力はイメージだ。イメージを構築し能力を拡張していく』
『だが、まずは体力だ』『まずは1年、体を作ってもらおう』
…ですよね。
翌日、教室に入ると、珍しくリブが先に来ていた。窓を見ながら退屈そうに髪で人形劇?をしている。
「おはよう、リブ」声をかけると髪が飛びあがった。
『お、お、おはよう、ヒカル』ゆっくりこちらを振り返るリブ。
なんでそんな潰れたスライムみたいな表情なの?
「…僕さ、Singularityに入るよ」
『え?』
「君を守りたいんだ」
リブの髪がまた跳ね上がった。
25話まで毎日連載!これにてひと段落です。
ネタバレになりますが、中1編は本話で終了です。次回から中2に学年が上がります。
みてみんに画像upしているのを見られたらネタバレになるな、と最近思い始めました。別にいいか、と思っています。
初期プロットでは、リブの名前は漢字だったので名残が出てます。いや、もうどこから引っ張ってくるのか。こわ。
次回は金曜日更新です。…中一日。




