Box.24 記憶をたどり私に還りなさい
夜遅くだけど、編音さんと梓さんに病室まで来てもらった。梓さんが言うには、編音さんの能力がサポートに必要らしい。二人はたまたま一緒にいたらしく、すぐに連絡がついた。マイカさんが事情を話す。二人はリブの記憶障害について、気づいていなかったそうだ。
『へーあれもそうだったのかな』
『時々性格変わったかな、って思うこともあったけど、ちょっと入院してたりしてたから、そんなもんかなー、って思いながらそのうち慣れちゃった感じ?』
『あの子、もともとポーっとしてましたからね。でも、勉強したことすっかり忘れていたこともあったから、あれもそう?』
『それは、どうなんだろね』マイカさんは苦笑する。
『でも言われてみれば、記憶無くすたびに検査やらなにやらで、入院させてたわね』
『先生』梓さんが手を上げる。
『事情は分かりました。ですが、まずはこの間リブからもらった記憶を戻したいと思います。ルドちゃんの起動のために受け取った、元はリブの記憶なので、他人の記憶より問題になることは少ないでしょう』言いながらじっとこっちを見る。
『当然、それはルドちゃんとヒカル君も関わっている記憶』
ルドの記憶はリブを元にしたものなのか。でも僕の記憶の中のルドなんて、どこでリブは見たんだ?
『突然ヒカル君の記憶を注入しても、他の記憶と上手くつながらないかもしれない。なので接ぎ木の幹を先に植えておくイメージです』
『うん、いいと思う。でもなんで、そんなもんあの子が持ってんの?』
『あれ?リブがヒカル君の機密情報か資料映像を見たんじゃないかと思ってました』
『違うんですか?』
『もし機密なら共有しちゃダメだけど…。まぁそんな機密ないから、良いわ。今のリブに聞いても忘れちゃって分からないだろうしねぇ』
『いやーそれにしても、改めて聞くと面白いね、さすが梓だ。自己分析もしっかりしてる。後でその記憶移植についてレポートちょうだいね?』
『猫ちゃんのこと、叶も含めて全員まとめて不問にしてくれるんなら、いいですよ?』
口角を上げて、ずるい笑いをする梓さん。
『レポート次第で考えておくわ』こちらもずるい笑みを浮かべる。
4人全員でリブの病室に入る。
『あ、編音、梓!』
リブは笑顔を見せる。カナエさんと彼女ら3人は箱庭の古株らしいから、当然記憶はある。
『おっすー。聞いたよリブ、大変だったね』
『何か食べた?果物持ってきたけど』
『夕ご飯は食べたから大丈夫。二人ともお見舞いありがとう。夜遅いのに』
『そりゃ泣きそうな声でヒカルが呼んできたから、飛んでくるわー』
「いや、二人を呼んだのマイカさんでしょ?」
『いや、ヒカル泣いてたよ』泣いて…ません。いや、どうだったかな?
くすくす笑うリブに梓さんが告げる。
『説明は端折るけど、まず私の—Eternal—で、あなたから以前に受け取った、あなた自身の記憶を戻すわ』
『そこは問題ないはずだから、いい?』
『わかった。いいよ』
『じゃあおでこ出して』
前髪を上げて、額を出すリブ。
突き出された額に指をあてる梓さん。ゆっくりと目を閉じて唱える。
『—Eternal—』
二人の体が淡く光り、しばらくして収まっていく。
…終わった?
『どう?』
『ん…分かるよ。猫ちゃんの記憶と…』
『あなたの記憶』青い目がこちらを向いている。
マイカさんはリブの顔をつねったり、目を覗き込んだりしている。
『見かけに大きな変化はなさそうね。リブ、どの辺りまで思い出したの?』
『んー、そうだね。…ヒカル君をマイカちゃんとタローさんで迎えに行くってことは覚えてて、思い出したのは…ここみたいな病室にヒカル君を連れてきて、寝かしたところぐらいかな』
僕を連れてきたとき、か。名前ぐらいは思い出してくれたみたいだ。
『ルドの手を拾ったのも思い出した』
マイカさんが目配せをしてくる。僕が知っていることと矛盾はない。僕は頷いた。
『事前の予想通り、ここまでは問題なさそうね』
『本人の記憶ですからね』
『さて、ここからが本番』
『私の—Resonance—でアズとヒカルをつなぐの』編音さんが手を差し出してくる。
『3週間分でしかも自分の記憶だから。その中からリブの記憶の部分だけ抜こうとしても、私が自分で自分のをやってみても整理が難しいくらい』
『時間もかかるかもしれないねー』
『自分でやったときは、できるだけリブを強くイメージしたら、自然とリブに関係する記憶が集まってきたから、朝霧君もそうしてみたらいいと思う』
「わかった。やってみるよ」
『ほんじゃ、右手握ってみてー。アズは左手』
編音さんの手を握り、リブをイメージしようと彼女の方を見ると、マイカさんが両手でリブの目をふさいでいる。ウインクするマイカさん。変な気を使っているみたいだ。
『じゃあ接続するよ―Resonance―』
リブのことを強くイメージする。
…初対面で切りかかられたな。
…腕がなくなって言ってたけど、腕が直ってる時の光るリブは綺麗だったな。あれは治ってるふりだったって言ってた。
…学校に二人で行った。後ろの席がリブだって知った時は嬉しかった。
…ルカにやられた時、リブ怒ってたな。
…ルドを直すって、いつから思ってたんだろう。
…リブのドレス姿には思わず見とれてしまった。ちゃんと何か言えばよかった。
…リブの笑顔が好きだ。
…ちょっと拗ねたような、頬を膨らます仕草は小動物みたいで可愛い。
…ちょっと抜けてるのにお姉さんを気取るとこは、見てると、にやけてしまう。
…泣いてる君を見た時は、君を泣かせたくないと思った。
…僕は君に救われた。
…だから、今度は僕が君を救いたい。
…死にたい、いつか殺してほしいという君を、殺さずに救える方法があるかもしれない。一緒に探そう。
……ふと思い出した。『君の夢』って言ってた毛玉のことだ。ここに来てルドの話をしたのはあの夢の中だけだ。なんであの話をリブが知ってるんだろう。
『ん?ん〜〜?ん?んーーーー』
『アヤ、しゃべらないで。ヒカルくんの邪魔よ』
『…えっと情報量さすがに多いからさぁ…』
『…ん、もう終わったかな?じゃあアズに渡すよー』
『ん?んんんん?ん?うーーーーん』
『アズ、あんたもうるさいじゃん』
『んー。ちょっとね』
『OK、終わった。じゃあもう一回行くよ、リブ。―Eternal―』
今度は僕と編音さんも淡く光る。さっきより長く光は続き、やがて消えて行く。
「 終わった?」
リブは目をぱちくりしながら、自分の両手を交互に見ている。そして突然耳まで真っ赤になったと思ったら、『うぅぅ~~~』って言いながらシーツを頭まで被ってベッドの上で隠れてしまった。
『大丈夫?頭痛いの?』マイカさんが心配そうに聞く。
『大丈夫。ちょっと混乱してるだけ』
「リブ、辛かったら、記憶忘れてもらってもいいよ」
『…大丈夫だから、ヒカル。…ちょっとそっとしておいて』
ヒカル、と呼ばれたことにほっとして、皆で顔を見合わせた…ら、ここにも頭を抱えている人が二人。
『…言ってなかったけどね、ヒカル』
『記憶を中継した私も、記憶が残るから。当然アズの中にも保管されてる』
「…え?」
なんだって?…ということは、全部筒抜けになった、だって?…えぇ!?…もう何か、そう…殺してくれない?
「それ。消せないの?」
『私の中のはどうしょうもないかな』と編音さん。
『そのうち忘れるんじゃない?いや、忘れないかな』…頭ごと記憶を消そうか?
『私の中のは消せるけど、また記憶消えたら困るでしょ?私は記憶を固定できるけど、普通の人の記憶は修整されて消えていくから』
『なるほど、記憶のバックアップね。確かに良いかもね』
『梓、今後も定期的に頼めるかしら?』
『…レポートの評価次第ですね』
『はいはい。分かりました。満点にしとくわー』
「それ、定期的に記憶を渡すってことですよね」
『…私、恋愛小説って、大好きなの』
「えー」定期購読が決まった瞬間だった。
という感じで、私の記憶は殆ど無事に戻った気がする。何だか不思議な気分だ。確かにこの記憶は私のものだと思う。でも、もう一人の私が、映画を見ながらそのストーリーをなぞっているような感覚もある。リブⅡって感じだ。それで今の私が、以前の私に一個だけ思ったことがある。
「なに、この記憶。この私、ヒカルのこと好きすぎるんだけど。ぎゃーーー」
嫌じゃない。嫌じゃないんだけど、このまま受け入れてしまうのは恥ずかしい。明日からヒカルと顔を合わせられないよ。
25話まで毎日更新中。
ちょっと読みにくかったので、改行直しました。




