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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす


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23/27

Box.23 Live changes

『誰…?』

 誰だって?冗談を言っているようには見えない。まさか…。

「リブ、僕を覚えてないの?」

『…分からない。前も同じようなことがあったから、忘れてるのかも。君は最近こっちへ来た人?』


 言葉が出なかった。あの夜、リブが言っていたことが記憶を失うということがどういうものか、今それが目の前にある。


『ごめんね。お見舞いに来てくれたんだよね』

『お花ありがとう。白い…バラ?…綺麗ね』


「君の髪の色だって、マイカさんが持って行けって言ってたから」


『マイカちゃんは怪我とかしてなかった?』

 …マイカさんのことは覚えてるのか。


『前に喧嘩したときは怪我させちゃったから』

「話した感じだと怪我とかはなかったと思うよ」


 あの緊急警報の後に何があったのかは知らされていない。リブが入院したくらいだから、何かと対峙したんだろうと想像はつく。マイカさんも一緒だったと考えるのが自然だろうけど、特に変わった様子はなかった。


『君は…新しいクラスメートかな?覚えてなくてごめんね。名前聞いてもいい?』


「…ヒカル。アサギリヒカル」


『知ってると思うけど、私リブ。よろしくねって言うと…変かな?』

『ヒカル…くん、か。私、君と仲良かったのかな?』

「仲は良かった…のかな」


『そっか。じゃあ、また仲良くしてね。』

『うん…ちょっとマイカさんに君の目が覚めたって連絡してくるよ』

「ありがとう、ヒカルくん」


「〜〜〜っっつ!」

 病室から出て、僕は声にならない叫びを上げた。

 なんで、なんでこんなことに!

 

挿絵(By みてみん)


 こぶしを振り上げ、壁を殴りつけそうになった時に、ちょうどスマホが鳴った。

 マイカさんからだ。


「マイカさん?」

『あーヒカルくん、リブが目を覚ましたら連絡してって伝えようと思って』

「ちょうどさっき目を覚ましました」

『…何かあったの?』

「それが…記憶がなくなってるみたいなんです」

『……分かった。すぐそっち行くわ。少し待ってて』



 間もなくマイカさんが病室に来て、一言二言リブと話したあと、すぐそのまま検査に行った。

『ヒカル、小一時間待てる?』

「はい。待ってます」



 30分後、病室に帰ってきて、部屋の前で待っていた僕にマイカさんは告げた。

『体の方は大丈夫みたい。でも君は知ってるのかな?リブが昔から時々記憶をなくしてること』


「一昨日、リブから聞きました」


『そう。…正直に言うね。大体、3週間分くらいかな。今回は割と軽い方だけど、残念ながら君と関わった時期の記憶がごっそり失くなってる』

『名前くらいは聞き覚えがあるかも、って感じなんだけど、元々知ってたのかどうか分からない』


「もう戻らないんですか?」


『…今までは戻ったことがないわ』

『昔の記憶がないのも知ってるでしょ?あれももう何年も戻らないのよ』

『リブはね、あの娘が生まれたときから、一緒にいるんだけど、本当に昔のこと何も覚えてないの』


 絶望を告げられた。あぁそうか。僕の知っているリブはもういないのか。その事実が重くのしかかる。


『でもね、今回はちょっと考えがあるんだ』

「考え?」

『そう、今までは考えもつかなかった、というか出来なかったんだと思うけど』

『君の猫ちゃんを再生した時に、梓の能力を使って記憶を移植したって叶から聞いたわ。それを応用すれば、この3週間何があったか、ぐらいの記憶は戻してあげれるかもしれない』『でも所詮、他人の記憶になるから、元通りってことにはならないと思うんだけど』


『ちょっと機密になるから、私達上層部の記憶は渡せない』

『だから多分、この3週間の君の記憶が一番大事』

『君がどれだけあの子の想いに関わってきたか、それがどのくらいあの子を戻せるかの分水嶺、かな』

『どう、やってみる?』


「…ちょっと考えさせてください」

『いいよ。どのみち梓に聞いてみないといけないしね』


 僕の記憶…最後のリブの記憶は、彼女にとって辛い記憶だと思う。彼女の中の感情の底にたまった泥のようなものの発露だった。それを思い起こさせるのが幸せなんだろうか?


「マイカさん、リブとも話してみたいです」

『君が辛くないなら、いいよ』

「記憶がなくなるって聞かされた時に、そうなったら僕がまた伝える、って約束したんですよ」「でも辛い記憶ごと渡すのがいいのかは、分からないんです」

『リブに聞いてみな。多分、答えは君たちが出すべきだ。お姉さんではなく、ね』




 病室のドアをノックする。

『どうぞー』

「失礼します」

『あ、ヒカルくん…ごめんね、やっぱりまた私、記憶なくしてるんだね』

「マイカさんから聞いたの?」

『うん。大事なこと忘れてるよって。ご飯食べたかどうか、かな?あはは』

「それも、君にとっては大事なことだね」リブらしい。

「でも僕が話したいことはちょっと違う」

「…君はその今回失くした記憶を取り戻したいと思う?」

「これは僕のわがままな気持ちかもしれない。でも記憶を取り戻せないか、頑張ってみたいと思うんだ」


「元には戻らないかもしれないし、取り戻した中にはきっと君にとって辛い記憶がある」

「…それでも、君は元の自分に戻りたいと思う?」


 少し考えるかと思ったけど、リブの返事は即答だった。

『…戻りたい。大事なことなんでしょ?忘れたくないよ』

『きっと、前の私も、そう言ったでしょ』

 僕は頷く。あぁそうだ。リブはそういう答えを出す女の子だ。

「分かった。ありがとう」


 部屋の外でマイカさんは待っていた。

『リブはなんて言ってたの?』

「…忘れたくないって」

『そう。さっきの間に梓に連絡して聞いてみた』

『猫ちゃんでうまくいっただけで、人で試したことはないって。うまくいくかは分からないってさ』

『でも私は、ヒカルの記憶がベースなら、結構上手くいくんじゃないかと思うんだけどなぁ?』

『この3週間、大事な時間をたくさん過ごしたんでしょ?』

「僕の人生が変わるくらいには」

『良い返事だね』



『さて、善は急げだし、記憶なんて梓でなければ、だんだん曖昧にぼやけて忘れてしまうから、早速やりますかね』



 静かに頷く。どんなに悲しい記憶だったとしても、僕は君の想いに応えたいと思う。もし辛かったら、あとで謝るよ。いいよね、リブ?



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