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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす


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20/27

Box.20 13歳の約束

『ヒカル、話したいことがあるんだ』



『…ルドが起きたらごめんね』

「いいよ。そんなことでこいつは怒らないよ」



『えっと…』

『そう、ヒカルは…何歳まで生きるの?』

「何それ?」「普通の人と同じなら80歳とかじゃない?」

「リブもそんなとこでしょ」

『んーとね。私、死なないんだ』

「は?」「—Particle—で治っちゃうから、って話?」

『そうなんだけど』

『…私の能力って、怪我が治るでしょ』

「だよね」腕を再生してたこともあった。

『死にそうなケガをしても、元に戻るの。完璧に』

『だからきっと、病気でも歳を取っても、私が死んだら元に戻るんだと思う』

『多分、死なないことが私の能力の本質なの』

「不死ってこと?」リブは頷く。


 僕が知っている彼女の能力、—Particle—は自身を粒子化、自身の組成を変える能力だ。体を剣に変えたり、あらゆる攻撃を無効化して再生することができる。その能力が世界の最高峰にランクされていることは、この間知った。だけど、確かにParticleはすごいけれど、これだけで能力者の頂点として、そこまで畏怖の対象になるような能力とは思えなかった。リブの言葉が真実なら…不死の能力、それがSSSランクの答え。


『死なないって、便利そうかな?』

「どうだろう。考えたこともないけど、不死の能力なんて、欲しがるやつは多いだろうね」

『ヒカルは欲しい?』

「んー。正直言っていらない、かな」

『私もいらない』

「はっきり言うなぁ」

『いらない理由があるの』



『…私ね、毎日、いつもいつも忘れちゃいけないこと、思い出してる』

『私ね、マイカちゃんと暮らしてるの』

 知ってる。いつも起こしてもらってるでしょ。

『私ね、孤児だったんだって』

 知ってる。だからマイカさんが預かってる。

『私ね、カレーが好きなの』

 知ってる。でもカレーでなくても、何でもいけるクチだ。

『私ね、かなちゃんが親友なの』

 知ってる。2人は姉妹みたいだ。

『私ね、マイカちゃんとケンカしたことがあるの』

 知ってる。家を壊したんでしょ?

『私ね、優しい皆が大好きなの…って』

 君が優しいから、優しくしてもらえるんだ。


 今のを、毎日思い出してる?


 言葉を紡ぐリブは、必死に何かを思い出そうとしているように見えた。…僕は気付いてしまった。彼女の記憶には奥行きが無い。まるで誰かがリブを語っているのをそのまま書き写したような、薄っぺらい記憶。続くリブの言葉は、果たしてその通りだった。


『さっき、記憶がないって言ったでしょ?私ね…10歳より前の記憶がないの』

『―Particle―って使いすぎると、記憶が消えちゃうみたいなの』

『だからきっと、昔のこと忘れちゃってるんだ』


 記憶を失う。統合すべき記憶の箱が欠けてしまう。Particleのエラーみたいだ。でも、そうだとしたら。


「リブは永遠に生きる?」

『…死ねないからね』

「失くした記憶が戻ったことは?」

『……ないと思う』


「ひょっとして、君は思い出を失いながら、永遠に生きていかないといけない」

『………そ。正解。さすが』

『どう思う?』

 なんだその最悪の組み合わせは?自分を支えてくれる人も思い出も失い続けて、終わらない道を歩かされる、それがこの子の人生だって?

「いや、何というか…」


『怖いでしょ?』

 僕を見るリブは、今にも泣きそうだった。

『私は、すごく怖いの』


「…分かるよ」



『……私ね、…ヒカルのことが好きなの』

 …知ってた、と思う。リブの青い目から涙がこぼれた。唇が震えている。


『すごく。すごく大事なことだから毎日、想ってる…でも、きっとこの気持ちも…いつかきっと忘れちゃう』


『忘れて、忘れたまま、おばあちゃんになって…それでも死ねなくて……私は誰も覚えてなくて!…一人で生きていくなんて、私は嫌なの』


 泣きじゃくるリブを見て、好きだと言ってくれた嬉しさより、悲しさが溢れてきた。


『ごめんね、困るよね』

「そんなことないよ」


『…今日、楽しかったね』

「そうだね」

『私、楽しかった。…忘れたくないよ』

「僕が忘れない」

「君が忘れても、また君に伝えるよ」

『…ありがとう、ヒカル』



『ヒカル…ねえ、いつか私を殺してくれる?』



 心臓が跳ねた気がした。

「……それは、いつの話?」

『ヒカルが死んじゃうまでに』

『ヒカルが死んじゃったら、きっと私は死にたくなっても、死ねなくなる』

「…僕が死ぬまで一緒にいるって?」

『それも、いいね』『100年でいい?』

 ようやく、泣いているリブが、にっと笑ってくれた。夢でも見ているのか、ルドの耳がぴくっと動く。


『君の、消滅の力』

『この力なら私を消せる』

『その時が来たら、お願い』

「…消滅の力」

『それが—Trash Box—の能力』 


 君が名前をくれた僕の力。

 でも、君が名付けた僕の能力で、君を殺す日が来る?



『あー泣いたからかな。眠くなってきちゃった』

 リブはあくびをしながら膝の上に頭をのせてきた。ルドは体を震わせて、リブのお腹の上に移動して、また丸まって寝てしまった。



『私たちが、最初に会った時』

 リブはルドを撫でながら話す。僕は少し考えた。箱庭で初めて会った日、リブが仁王立ちして〈君がヒカルくんだね〉と言った、あの日。


「うん、覚えてるよ。君は剣で襲ってきた」

『あれはマイカちゃんに言われてたの!』

「分かってるよ」

『……あの時』『私の腕は無くなってたんだ』

「……え?」すぐ治ってたと思ってた。

『ごまかしてたし、後でちゃんと治したけど』

『でも、その時ヒカルなら私を消せる、って思ったんだ』

「まさか、それで僕に興味を持ったわけ?」

『…違うよ』リブはぷくっと膨れる。

『いいよ。覚えてなくても』『でもそれじゃ、私に教えられないね』

 リブは特に気を悪くした様子もなく、星を見上げたまま微笑む。


『……君が誰よりも優しかったから』

『……君ならいいかな、って』

 リブは笑って、ルドを撫でる。ルドが眠そうに鳴いて、また丸くなる。


挿絵(By みてみん)


 しばらく沈黙が続いた。ただ、何かが満ちていくような、不思議な静けさだった。

『あーいたいた。帰るよ、ヒカル…とリブ?…何してんのあんた達?』

 マイカさんに見つかった。不思議と気まずさは感じなかった。

『べっつにー』『はい、ヒカル』ゆっくり起き上がったリブからルドを渡された。

『約束してただけ』

 

 

 そのままマイカさんの車に乗り込み、帰路に就いた。後部座席の僕とリブの間にいるルドを二人で撫でながら。


 寮の自室の前までリブが送りに来た。もうずいぶん遅くなっている。

『おやすみ、ヒカル』

「おやすみ」

『…ヒカル…』


 リブが手を伸ばし、何か言いかけたその時、けたたましい警報音が箱庭中に響き渡る

 <Code-A-02、Code-A-02,準一級警戒警報です。箱庭に居住の方は速やかに自室に戻ってください。箱庭に居住の方は速やかに自室に戻ってください。…Sメンバーは直ちに所定の集合場所へ参集してください。繰り返します…Code-A-02、Code-A-02…>


 リブは一瞬寂しそうな表情になったが、すぐにキッと目線を空に向ける。伸ばしかけた手を握り締めて、言った。

『…ヒカル、私、行かなきゃ』『また、月曜日迎えに来るね』

『ルドも、またね』

 ルドを一撫でして、リブは駆け出して行った。


 自動ドアが閉まり、赤い文字が表示され、ロックされたことを告げる。ルドと二人になった部屋で、僕はさっきまでそこにいた優しい少女の残像を追いかけていた。


『いつか私を殺してくれる?』

 そうあの子に思わせる、得体の知れない何かがいる。それはこの警報と無関係ではないように思えた。


「こんな扉なら、消してしまえるのに」

 僕はこの扉を消してしまわなかったことを、リブを追いかけなかったことを、ずっと後悔することになる。



 

 そして月曜日。リブは迎えに来なかった。


25話まで連日更新中!

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