表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/27

Box.19 歓迎会

 土曜日。16時きっちりにリブがマイカさんと迎えに来た。


挿絵(By みてみん)


 いつもとは違う、黒いドレスのリブは白髪とのコントラストが映え、とてもきれいだった。思わず見とれていると『私のドレスはノーコメント?』とマイカさん。ドレス着ると婚期が遅れるとかでしたっけ?って言うと割とマジで殴られた。この人、バリアが展開しないギリギリの力加減をよく分かっている。『…君のジャケット、よく似合ってるよ』ありがとうございます。


 学生棟に着いた。ホールが、見たことのない姿になっていた。『どうぞ、ヒカル君は無料デスよ』受付をしていた楊に促されて中に入ると、普段は朝礼に使うだけの殺風景な部屋に、白い布が垂れて、テーブルには食べきれないほどの料理。窓には小さなライトが連なっている。

「……すごいな」

『でしょー!』編音が誇らしげに胸を張る。

『装飾は私担当だから。ドローン操作しただけなんけど、ね』

『料理は私が監修しました』プリヤがサリーの上に、いつもより一段豪華な刺繍の入った羽織を重ねている。『本場のカレーも用意しましたよ』『味付けもおいしくなるように—Fortune—をかけました』…え、大丈夫かそれ?確率0%は0%のままでしょ?


 部屋の隅で、大和君が早速皿に肉料理を積み上げている。

『これはいい催しだ、な』

「もう食べてるの、早すぎない?」まだ会は始まっていない。

『男は度胸、皿は積み上げてこそ。さぁ来い、ルカ、リブ』

『やったるわ!』

『望むところ!』男って言われたぞ?…まぁいいか。


 三人が並んで空いた皿を積み上げ始める横で、隼翔が壁際に立って、フードをいつもより浅く被っている。今日は珍しく、髪も少し整えてあるように見える。

『……今日はいい風だね』

「…そうだね」その風、箱庭の空調だけどね。

「あ、隼翔、今日の髪型、いいね」

『……っ』フードを慌てて深く被り直して目線をそらした。『よ…き日だから…ね』


 梓が眼鏡を直しながら、何も持たずにふらりと近づいてくる。

『写真係はいらないよ。私が全部覚えてるし、後でアヤに出力してもらうから』

「便利だね、—Eternal―だっけ?」

『そう。永遠。便利よ。だけど忘れたいことも覚えてるってのは、ちょっと困るでしょ?』

 意外な一言だった。梓はそれだけ言って、また料理の方へ歩いていく。


 入口の方で、編音と巧が二人で並んでいるのが見えた。

『……あ、ヒカルー』編音が手を振る。

『今日は楽しんでる?』隣の巧も手をあげる。

「なんか、こんなパーティー初めてだから、でも楽しいよ」

『僕らも久しぶりだからね。隼翔が来たとき以来かな。もう1年になるよ』

『以前は先輩たちが準備してくれてたけど、中等部からは私たちで色々考えるの』

『皆の能力使えば、色々出来るものだねー』

『そうだね』


「……君ら、なんか変わった?」なんだか空気が優しい。

『何が?』編音が首をかしげる横で、巧は何も言わずに視線を逸らした。



ざわめきの中、マイカさんがグラスを軽く叩く音が響く。既に顔が赤い。

『はーい、皆さん注目』


『本日は、朝霧光君の歓迎会にぃ~参加いただき~ありがとうございました!』

『ヒカルも少しは、ここにぃ慣れた、かな?』

「毎日驚くことばかりです」

『だよねぇ』『ここは異能者ための街、普通とは違うことも多いわ』


『さて、本日の開催の挨拶はこの人からしてもらいます』

『発表しまーす』グラスを片手にマイカさんが楽しそうに続ける。

『来月から、日本に正式赴任することになりました、漆原燐先生で~す!』

 会場が静かになる。壇上に上がってきたのは白タキシードの男。

『あ?』『あいつ、あん時の白コート!』ルカが敵意の入った反応をする。

「そうだ……あの人、確か」


 …Contra。


 会場がざわつく。

『……あの白コートだった人?』隼翔が小声で呟く。

『よろしく』ひらひらと手を振る、白タキシード。

『警戒しなくても、また君らをいじめに来たわけじゃないから、安心して』

『じゃあ乾杯の挨拶でもしてもらいましょうか』


『えっと、漆原燐です。試験の時は君たちの内、何人かとやりあいましたが、楽しかったです』

『授業は主に理科、物理とか化学とかを担当する予定です。』

『ヒカル君の歓迎会と発表が重なって申し訳ない』

『なので手短に挨拶は終わります』

『えー彼らお酒飲めないでしょう?では大人たちだけでも。ヒカル君の門出を祝って…乾杯!』



 ——————『嘘やん』ルカが小さく突っ込む。

『ルカ、リベンジの機会が早速来たな!』

 教室で『今度会ったら負けへん!』って言ってたな。どうするんだろ。



 ————歓談が続き、皿がほとんど空になった頃。

『ヒカル、ちょっとこっち来て』

 リブに手を引かれて、部屋の中央に出される。皆の視線が集まって、少し落ち着かない。

『今日のサプライズ』

「……何かあるの?」

『うん』


 リブが合図すると、叶さんが大きな白い箱を持ってくる。そういえば会場にいなかったような。テーブルに置かれた箱にはリボンがかかっている。中で、カリカリ何かが動く音がしている。

『開けてみて』


 ゆっくりとリボンをほどき、箱を開ける。中から勢いよく出てきた白い塊。ぐるっとホールを一周して、リブの腕の中に飛び込んだのは、白い猫だった。


挿絵(By みてみん)


「……っ」

 声が出ない。

『ふにゃ』

 白猫が、ヒカルを見て、首をかしげるように鳴く。それから、迷うことなくヒカルの腕の中に飛び込んできた。

「……ルド」

 毛並みは白い…でも間違いない、間違えない。この重み、この鳴き方、頬に触れる感触。


 僕は何も言えなかった。腕の中の温かさを確かめるように、何度もルドを撫でる。

「……っ、う」

 涙が止まらなかった。皆の前だということも、忘れていた。

『あらら』叶さんが苦笑いしながら、ハンカチを差し出す。

『やっぱり泣き虫さんだね』

 リブが笑う。からかうようで、それでいて優しい声だった。


 ルドが心配そうに、ヒカルの頬を舐める。それからふわりと宙に浮いて、皆の頭上を一周し、また腕の中に戻ってきた。

『うわー、また飛びました!』『さっきも見たけど、何度見てもすごいね』

『異能のある猫なんて、初めて見まシタ』

 会場が、歓声と拍手に包まれる。

 


 

 ぐるっと回ってルドは、次に編音さんと梓さんに捕まった。この隙に当然の疑問を聞いてみた。

『リブ、なんでルドが生きてるの?』

『かなちゃんが、ずっと作ってくれてたの』リブが答えた。

『…白くなっちゃったけどね』少し申し訳なさそうに、叶さんは言う。

『梓と編音も手伝ってくれて』

『残ってた前脚から直していったのよ』

『白い前脚。白かったからてっきりルドは白猫かと思っちゃって』

「前脚?」


 <じゃあ探してみるよ>

 誰かに言われてた気がする。どこでだっけ?


 




 ————教員テーブル

『あれ良かったんですか?』『どう見てもクローン…』

『まぁ何かしてるとは思っていたけど。今回は不問、目をつぶりましょう』

『彼の精神の安定にもつながるだろう』

『そうですね』

『空を飛んでいるのはまぁ、別に考えるとして…』『良かったわね、ヒカル』






 あの後、僕も挨拶をしたけど、何を言ったのか全然覚えていない。感謝の言葉は伝えたと思う。『片づけ終わったら送るから、ちょっと外でも見ながら待ってて』とのことで、夜も更けて、慌ただしく片付けが始まる中、眠ったルドを抱えたまま、バルコニーの噴水の縁に座ってぼんやりと空を見ていた。箱庭の人工の星空がちらちらと輝いている。



『ヒカル、お疲れ様』

『ルド寝ちゃった?』隣に座ったリブが、同じように空を見上げた。

「疲れたのかな。寝てるよ」

 皆にもみくちゃにされて、たくさんご飯をもらって、ルドは疲れただろう。それにしても

「ルドが白くなって飛べるようになるなんて」

「なんで飛べるようになったんだろう」

『ん?んー…。きっと<飛びたい>って思ったんじゃない?』

「飛びたい…か」

『そう、飛べたらよかったのに、って思った』

『白くなったのは、能力の目覚めかな。私も白いでしょ?私も能力のせいで白くなったみたいだから』

 指に通した髪に人工の月明かりが反射して、いつもより白く光って見える。

 

「白くなった、みたいって?」

『私、無いんだ昔の記憶。前は黒かったらしいよ。でも白い髪の自分しか知らないの』

「…え?」

『ルドと一緒だね』


 リプは僕の肩にそっと頭を預けてきた。ルドは二人の間で、小さく丸まって眠っている。


『ねぇ、あれは満月?』人工の空の中でひときわ輝く星を指さしてリブは聞いた。

「ちょっと過ぎてるかな」少し満月から過ぎた、下弦の月だ。

『そう、でもきれいだね』

「え?」

『ヒカル、話したいことがあるんだ』

 

 月を映した青い瞳が僕を見つめていた。


25話まで連日更新中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ