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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす


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18/27

Box.18 黒猫プロジェクト

 金曜日。中間テスト休み明け。授業は採点結果の暴露と反省会に終始した。それはそれとして、皆何だか様子がおかしい。リブが教科書を何度も同じページで開いたり閉じたりしている。隼翔は包帯の隙間から、ちらちらとこちらを窺ってくる。プリヤさんも、何か言いたそうにこちらを見て、目が合うと慌てて逸らす。…うん、いつも通りだ。理由は分かっている。マイカさんが全部ばらしているからだ。『週末はヒカルの歓迎会だから』じゃない。取り敢えず週末明けとくように言われたが、理由は聞かないことにした。

 

 休み時間。後ろの席で編音さんがスマホを取り出して、何かを見ている。

『……にひ』スマホの画面ではなさそうだけど…。

「アヤ、にやけてるよ」梓さんが横から覗き込む。

『!?な、なんでもない!』慌ててスマホを隠した編音さん。

『何それ?』

『何でもないって言ったでしょ!』

『あ、そんなこと言ったら、記憶覗いちゃうぞ~』

『あんた一人じゃ覗けないでしょ!?』他人の記憶、見れるんだ。

 ぼーっと様子を見ていると、僕はリブにつかまった。

『私も、あれ欲しい』

「え、スマホ?持ってるよね?」

よくスタンプなら送られてくる。

『……もういい』



『俺は……反省している』

 中間テストの反省会。大和君はぼやいていた。

『相手は教官とは言え、踏みつけられて動けないなど、情けないにもほどがある』

『羞恥のあまり、皆と目を合わせらなかった!』

『お前、それで起きへんかったんか?』

 帰りのヘリの間起きなかったのは、そういうことか。

『自問し、瞑想していたのだ』『だがな、干渉する能力同士は力が強い方が勝るらしいことが分かった』『これは収穫だ』

 どうも大和君の相手を軽くする力と、先生の押さえつける力で先生が勝った、ってことらしい。

『大和君、時々ワタシの通信聞いてなかったデショ?』

『ん?そうか?』

『今度から大和君だけ音量上げておきマス』

『そうか。では俺は耳掃除をしっかりしておこう!』

『頭の中に直接つなぐから、耳関係ないデス』



 委員長が教壇に立つ。マイカさんは『反省は各自レポートだしといて』と言い残して出ていった。

『はい、各自の自己評価シートに反省点書いて出して』

『反省点…トイレ…かな』隼翔がぼそっと呟く。

『私もトイレ、かな』編音さんも頷く。

『私は川があれば大丈夫です』プリヤさん、それでいいんですか?

『トイレ以外のこと、書いてくれるかな。トイレのことばかり反省してるクラスの代表やるの、私イヤよ?』

 教室に小さな笑いが起きる。委員長が呆れた顔でシートをまとめる。

『まぁ、初回にしてはみんな良かった、と思うけど』言いながら僕の方を見る。

『朝霧君、あなたは守りに入りすぎ。プリヤと私を守ろうとし過ぎ。そこは連係不足ね』

「……すみません」

『あと、とっさに名前で呼んだでしょ?』リブが横から口を挟む。『聞こえてたよ』

「えっと、…あれは急に委員長が跳んできたから…ごめん」

『まぁいいわよ、名前でも』『私もヒカル君って呼ぶわ』

 リブはにこにこと笑顔だ。ここは良いんだ?

 

 そんな調子で反省会はゆるく終わり、下校の時間になり解散になった。

『じゃあヒカル、また明日。16時から。迎えに行くね!』

 いつものようにひらひらと手を振るリブ。よかった。場所も時間も、何なら土曜か日曜かも知らされてないんだよね。明日寮で待っていればいいらしい。




 ————下校後、私たちは、あの計画のためにかなちゃんの部屋に集まった。

『じゃーん』『っていうようなものでもないんだけどさ』

『昨日は筋肉痛で動けない中、頑張ったのよ』『遊びにも行かずに、ね』

『…かなえ、えらい、えらい。っていうかすごいねー。生きてるみたいー。』

『生きてる、って言えるか分からないけど心臓は動いているし、呼吸はしているわ』


 クッションで作ったベッドの中で毛布がゆっくり上下に動く。生きている。覗いてみていたのは、左手が少し黒い…白猫?

「あれ、かなちゃん、ルドは黒猫だよ?」

『え?』

「ほら思い出してよ」同じ記憶はみんなが持っている。

 

『…確かにそうだわ。元々は腕が白い黒猫。預かった腕が白かったから、気にしてなかったわ。それで全身が白くなっちゃった?』人差し指をおでこに当てて、かなちゃんは言う。

『他の猫だった、ってことはないの?』むー。梓は失礼なことを言う。

「ヒカルが持ってたから、他の猫じゃないと思う」

『じゃあ、問題ないでしょ?気になるなら黒く染めたら?』なるほど。

「くろ…タコ?」

『タコスミかけちゃだめよー。色残るの服だけだから』カレーみたいに?


『それより記憶を入れてみたらどうなるか、の方が大事』『動くのかどうか』

『ごめん、ずっと作業に必死で、色のことなんて全然気にしてなかったわ。むしろ材料の組成ばかり気にして…』かなちゃんは申し訳なさそうだ。でも私には分かる。

「大丈夫、この子はルドだよ」「さ、梓、この子起こしてあげよ」

『記憶、入れてみよっか』梓が言う。

「うん、お願い」かなちゃんも頷く。

 


『…じゃあ行くよ。—Eternal—』


挿絵(By みてみん)


 梓がそっとルドの前脚に触れて、目を瞑る。猫の体に、淡い光が一瞬広がる。しばらく、何も起こらない。—————不意に、猫の耳がぴくっと動いた。

『……動いた?』

 目が開く。ぱちぱちする緑色の瞳。私が見たヒカルの記憶のままだ。

「ルド……?」

 目覚めた白猫は不思議そうに自分の白い脚をなめてみる。そして鳴いた。

『ふにゃーぉ』


『うわー、やったやった!』かなちゃんと編音がだきあってぴょんぴょん跳ねる。

『…成功みたいね』梓もほっとしている。


 全身を嘗め回した白猫は、伸びをするように体を伸ばし、バランスを崩してベッドから落ちそうになる。

『危ない!』

「えっ」

 白猫の体が、ふわっと浮いてゆっくりと床に降り立った。優雅に羽が風にそよぐように。

『え、浮いたぁ?』編音が大きな声を出す。


「…おいで、大丈夫だよ」私はルドを呼んでみた。

『にゃーお』ルドは一鳴きすると、私の方に跳んできた、いや飛んできた。

「君、すごいね」ひとしきり撫でまわした後、解放してあげたルドは、私の腕から飛び降り、そのまま部屋をぐるっと一周してテーブルに着地した。


『飛んでるー!?』かなちゃんも唖然としている。

 ヒカルの記憶ではもちろん飛んでなかった。でも私には、飛んでいるルドがすごく自然に思えた。まるで生まれたときから飛べるみたいに。きれいだ。


「多分…」「左脚の白い模様が、空を飛ぶ能力だったんだと思う」

『ルドって、<異能猫>だったってこと?梓、聞いたことある?』

『いえ、初めてよ』

「そうなんだ。珍しいんだね」


「そっか。君、飛びたかったんだね」

「飛べたら、逃げられたって」

「飛べたら、ヒカルを泣かせなくて済んだって」

「そう思ってたんだね」


 脚が不自由そうに見えたのは逆だったんだ。きっと飛ぼうとしてたんだ。

『…リブ。きっとそうだね』編音が鼻をすすっている

『死ぬ直前、ルドは願ったんだと思う』梓は眼鏡を取って目を拭いている。

『ルド、もう同じ目には合わないよ』かなちゃんも泣いている。


「お帰りルド。白猫かー。私の髪とおそろいだね」

 部屋の中を、元は黒かった白猫が、また飛び回る。


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