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極光の聖装戦姫  作者: スーチカー
第1章
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第7話「決戦のゆくえ」

「春菜、聞こえる! 残り時間は、あと五分よ!」

 福留未来の悲痛な宣告が、通信機越しに戦場へと響き渡る。

 十五分の活動限界。刻一刻と削られていく、命のタイムリミット。

 眼前にそびえ立つのは、有原剛蔵が街全体を呑み込み、鉄とコンクリートを呪力で練り上げた、全高百メートルを超える超巨大な異形の複合兵器であった。

 それはもはや兵器というより、街の死骸を繋ぎ合わせた巨大な絶望そのものだ。

「さあ……この『戦災』を、貴様の光でどこまで耐えられるかッ!!」

 有原の咆哮と共に、天を突くほどの質量を持った無数の凶刃と鉄の触手が、地平を埋め尽くす黒い津波となって襲い掛かる。

 少しでも掠れれば、白銀の装甲ごと肉体が微塵切りになるだろう。

 しかし、極光の戦姫の青い瞳に、もはや焦りは微塵もなかった。

「お姉ちゃん……来るよ。僕が全部、躱してみせる!」

「ええ。お願い、圭ッ!」

 二人の魂が、完全に同調(シンクロ)する。

 圭の完璧な導きが、春菜の網膜に絶対安全圏のルートを、青い光の線として鮮烈に描き出す。

 そして、その論理の極致に、春菜の天賦の才――『0.11秒』の直感が、寸分の狂いもなく重なり合ったッ!

 春菜は背部の「光の翼」を最大出力で展開した。

 極限まで圧縮された粒子が赤色の量子被膜となって爆発的に膨れ上がり、空間を灼く。

 超高速。

 いや、それはもはや瞬間移動に近い。

 春菜は降り注ぐ質量の津波を、残像すら残さぬスピードで、紙一重ですべて回避し続ける。

 右、左、そして垂直上昇。

 鉄の触手が空を切り、ビルを砕く轟音が響く中、白銀の軌跡だけが優雅に、かつ鋭く戦場を駆け抜けていく。

「な、なんてスピード……! 圭くんの演算に、春菜ちゃんが完全に追いついてる!」

 指令室でモニターを注視する森野あかりが、感嘆の声を漏らす。

 三日前、あれほど翻弄された有原の物量攻撃が、今の二人には止まって見える。

「フ……ハハハハハッ!! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、極光の戦士ッ!」

 有原は歓喜に身を震わせ、複合兵器の最頂部で両腕を広げた。

 彼の影が街全体を侵食するように広がり、巨大兵器の全エネルギーが一点、彼の頭上へと集約されていく。

 ビルが、車両が、鉄骨が、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように寄り集まり、長さ数十メートルに及ぶ漆黒の大剣が形成された。

 その時、有原は不敵な笑みを浮かべた。

「さあ、これで最後だ! すべてを磨り潰し、俺の戦災の糧となれッ!!」

 有原が大剣を天高く掲げ、大上段からすべてを断つ一撃を振り下ろす!

 大気が悲鳴を上げ、真空の断層が地上を割りながら春菜へと迫る。

「――終わらせる。ここでッ!!」

 春菜は残像のスピードに乗ったまま、黄金の聖剣(エクスカリバー)を真っ向から上段に構え、その出力を限界まで突破させた。

 極光の翼を逆噴射させる。翼から溢れ出す全ての光を、刀身へと強引に流し込んだ。

 黄金の光が膨張し、夜明けのような輝きが戦場を支配する。

「――っ、はあああああああッ!!」

 激突。 そして、一閃。

 空間が、完全に両断された。

 圧倒的な光の断層が、有原の誇る超巨大複合兵器を、豆腐のように真っ二つに切り裂いたのだ!

ドォォォォォォンッ!!

 爆発的な光の余波が、漆黒の質量を蒸発させていく。

 だが、有原はまだ折れない。

 兵器を両断され、足場を失いながらも、有原は死に物狂いの反撃を繰り出した。

 残された瓦礫の破片を集め、狂気のままに春菜へと弾丸のように放つ!


「ッ!!」

 春菜は、その一撃を、流れるような円の動きで華麗に受け流した。

 立浪との特訓が、彼女に力ではなく理を教えていた。

 距離を取る。

 背後の光の翼が、粒子を収束させ、刀身を鋭く白熱させる。

(……力任せの暴風じゃない)

 春菜は、あの日立浪に言われた言葉を、魂に刻み込むように反芻した。

「光の奔流を、お前の意志で縫い留めるのだ」

 溢れ出す極光を、力で振るうのではない。

 全てのエネルギーを、ただ一つの点へと凝縮し、世界を穿つ鋭い線へと昇華させる。

「これで……終わりよッ!!」

 春菜は聖剣を横ではなく、一点を目指して真っ直ぐに突き出した。

 渾身の、突き。

 それは、暴風を一点に縫い留めた、究極の収束攻撃。

 極光の刃が、有原剛蔵の分厚い胸を、迷いなく深々と貫いたッ!!

「……ッ、ごふっ……」

 有原の動きが、完全に止まった。

 彼の瞳から、濁った破壊の狂気が霧散し、かつての誇り高い軍人の、澄んだ光が戻ってくる。

「……見事だ、極光の戦士。」

 有原は、自身の胸を貫く光の剣に手を添え、満足げに微笑んだ。

「聞こえているか、立浪仁紀」

 指令室で、立浪がわずかに目を見開く。

「俺が特殊部隊にいた頃、あんたが育てた優秀な部下には、かつて世話になった……。直接教えを請うたことはないが、あんたの戦術論は俺の破壊の礎の一つだ。これほどの戦場、そして極上の獲物を育て上げ、俺に提供してくれたこと、礼を言おう……」

「有原……」

「……俺はここで、ようやく戦場を降りられる。……だが、気をつけろ。俺のような『災人』は、他にもいる。風、水、震、火、天、人を象徴する『災人』たちが、この国を狙っている。……この先には、本当の 絶望が待っているぞ」

 有原は血を吐きながらも、かつて自衛隊員だった頃の誇りを取り戻したかのように、静かに数字の羅列を口にした。

「……E239890、N490902度。これが俺のアジトだ」

 指令室の立浪が、ハッと目を見開く。

 それは、自衛隊員の中でもさらに特殊部隊に所属していた者でしか知り得ない極秘暗号式の座標であった。

「せいぜい、足掻いてみせろ。俺からすべてを奪った、この理不尽な世界でな……」

 それが、男の最後の言葉だった。

 有原の巨躯が、静かに、光の粒子となって空へと霧散していく。

 それはあまりにも静かな、そして誇りある最期であった。


「警告。活動限界時間、到達」

 無機質な電子音と共に、春菜の全身を覆っていた白銀の装甲が霧散する。

 限界を迎えた圭が、力なくその場に崩れ落ちた。

「圭ッ!」

 春菜は慌てて少年を抱きとめる。

「……お姉ちゃん。勝った、ね……」

「ええ。勝ったわ。よく頑張ったわね、圭」

 二人は泥と汗にまみれながら、互いの無事を確かめるように身体を抱きしめた。

 その身体から伝わる温もりが、今、生きているという何よりの証だった。

 土煙が晴れ、光が荒れ果てた戦場を照らし出す。

 強敵との死闘を制し、春菜は少年の温かな肩を抱き寄せながら、勝利と生存を噛み締めるように、静かに空を見上げた。

 血と硝煙に塗れた戦場は、こうして終わりを告げたのだ。


銃を捨てれば君を失う。 銃を握れば君に触れられない。

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