偽り
[人のことを悪く言う人が考えていること]
ケミオは動画を取っていた。
「あなたが悪いわけじゃないんです」
訴えるように、スマホのカメラの言った。心穏やかに、相手の気持ちを汲み取るように、語りかけるように言葉を並べていく。
「その人は攻撃したいのではなく、弱みを隠したいからです。気にしなくていいですよ」言われいる君は何も悪くないよと心がら言葉と紡ぎあげるように言う。
ただ、その動画の伸び率はよくない。どれだけ、他人に寄り添っても、『言う通り』『ありがとう』などがはあるが、直接、質問してくる人間などいなかった。視聴率が上がっても、いいね!の数が30とかに留まっている。HSPの気質のケミオは深く処理しすぎるのかもしれないし、過度な刺激を受けてしまうのもケミオ自身の心と脳の疲労につながっているのかもしれない。全体的に、感情の反応が強いのも、HSPの特徴だ。仕方がない。これはHSPの人間にしか、分からないことなんだ。些細な刺激は禁物である。それを避けたいのに、動画はやめられない。『HSPじゃないんじゃない』とか、分からないなら視聴しないでくれと思う。『男がぬいぐるを部屋に置いてるとか気持ち悪すぎ』、『部屋汚いね』とか、思っていないコメントが来る。男がぬいぐるみを持っていて何が悪いのだろう。なのに直接、その人にコメントを返せない。部屋の汚いとか、ちゃんと部屋が片付いている。『こんな動画せいさくするより、まとも働け』とか余計なお世話だ。『甘えでは?』『気にしすぎでは?』とか、何も分かっていない人のコメントに振り回される。決して甘えではないし、気にしすぎるのはHSPだからだ。人より何倍も疲れるからだ。人混みが多いのが苦手なんだ。
部屋をノックする音がした。「何?」と返事をした。
「また、変な動画、取っての?夜ご飯だって。」
仕事から帰宅してきた姉のサキが入ってきた。変な動画って、ケミオは人の寄り添うために作っていることを自負していた。
「別に変な動画じゃないけど」
「自己満足のためでしょう。自分は間違っていないとかそういうのじゃないの。他者の評価ばかりをきにすると壊れるよ」
「そんなことない。」
ケミオは自信があった。自己満足ではない。求めている人がいる限り続けるのだ。
「で、ずっと部屋に引きこもって、他人と距離を置いてるの?」
「僕はHSPで繊細だから」
「繊細ね。ケミオがね…」
「なんだよ??」
サキの軽蔑してる目が嫌いだ。絶対ケミオを馬鹿にしているのだ。何度も説明してるのに、理解してくれない。街中の大勢でいる場所が苦手なんだ。近くに人が通ると目で追ってしまうし、隣の人の会話が小さな声だった自分の噂話をしてしまっているのではないのかと思ってしまうのだ。家に帰ってくるとぐったりしてしまうのだ。
「HSPとか、それって気質の問題だよね。そもそも自覚できないじゃない。無意識の中にあるものだから、意識的に思うことができないのでないのかなって思ってるだけ。」
「そんなことないし、人の目が気になって…」
サキが言葉を被せるように「分かった。全部、人の目を気にしてるとか、もういいから、ケミオために他人は生きてないから、気にするのはいいけど、なんかあなたの言葉は他者責任なのよ。自分は悪くありませんみたいな態度、やめてくれない。」
「他者責任なんてしていなけど、人混みの中にいると疲れるんだ」
「もういいよ。どうでもいい。そうやって自分自身をだまして、生活してもの、何も解決しないと思うけど。ケミオがそれでいいなら別に構わない。ご飯冷めるから、はやくリビングに来てね」
「だから…」
言いかけたが、サキはそのまま部屋を出て行った。解決はしている。人の役に立ってるだと自分に言い聞かせている自分がそこにいることにケミオは気づいてしまった。でも後戻りできない。
リビングのドアの隙間が少し開いていた。そこから、姉と母の声が聞こえてきた。
「HSPって言い聞かせてないと、ケミオは自分を満たせないじゃない。」
そんな姉のことが心にどっと響いてきた。
「だから、HSPという概念が依存しているのでしょう。HSPじゃないとケミオは困るでしょうね。ほっといてあげて」母の言葉がさらに刺さった。そうじゃないと思い込もうとするほど、反動を感じる。




