†46話†:天枢寮の洗礼
■
◆
「……すげぇ。隙間風が、ない」
第一圏域の特権、天枢寮3階。
サダオミは、あてがわれた自室のふかふかなベッドにダイブし、その感触に瞳を輝かせていた。
「ベッドが湿ってない……! 枕から土の匂いがしない……! これだよ、これ!文明ってだいじなもの!」
天界に来て以来、任務続きで野宿か、ひなのボロアパート(極寒)を転々としていたサダオミにとって、ここは文字通りの天国だった。
しかし、ふと我に返る。
「……待てよ。
透哩が隣だったよな。ってことは……」
サダオミは恐る恐る、増設されたという隣室との壁をノックしてみた。
コンコン。
重厚な音が返ってくる。
「……お、防音は完璧そうだな。これなら、隣に透哩がいてもプライベートは守られ――」
「なんだ? 用があるなら声を出せ」
壁の向こうから、隔壁を無視して、透哩の凛とした声が響いた。
「えぇ!? 地獄耳かよ!!」
「サダオミ。……用がないなら呼ぶな」
「あ、いや、なんかごめんね?」
サダオミは思い出した。
透哩は透哩だったと。
「……よし、わかった。俺にプライベートなんかなかった。
よし……よくねーよ!! 隣には細心の注意を払わないとな……」
気を取り直して、サダオミは室内を探索する。
そこで見つけたのは、広々とした大理石のバスルームだった。
「お風呂……! 湖で魚と競り合いながら体を洗わなくていいのか!」
感動のあまり、サダオミは無防備に上半身の服を脱いだ。
なんといってもお風呂だ。
こればかりは仕方がない。
ガチャッ。
背後の、廊下へ通じる扉が音もなく開いた。
「…………」
「…………」
そこに立っていたのは、銀髪を完璧な夜会巻きにまとめ、寸分の乱れもないメイド服に身を包んだ女性だった。
「……失礼しました。まさか入寮されていたとは知らず」
「…………誰よ」
サダオミは胸元を隠すことも忘れ、メイド服の女性を凝視する。
「天枢寮3階付管理人、リブラ・レクイエムと申します。
……主様(透哩)より、このフロアの管理を命じられております。
……お背中、お流ししましょうか?」
「いやいやいやいや」
「背中の皮膚状態も記録対象です」
「湖生活に戻る方がまだ安全だわ!」
「ご安心ください、作法は一通り心得ております」
「いや、許可しないよ?」
「許可、ですか?」
リブラの無機質な瞳が、一瞬だけ怪しく光った。
「……いずれ、貴方からいただく予定ですので。まずは予行演習です」
こうして、サダオミの「優雅な(地獄の)寮生活」は、入浴すら許されない波乱の幕開けとなったのである。




