†45話†:永劫の回廊、三階の静寂
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「サダオミ。何をぼさっとしている。行くぞ」
透哩が立ち上がり、事務的な足取りで歩き出す。
「行ったことないのに案内しろって言われてもなぁ……。海里さん、悪いけど着いてきてもらってもいい?」
「……お前も大変だな。ああ、構わない。道案内を兼ねて同行しよう」
海里の苦笑混じりの快諾に、サダオミは救われたような心地でその後に続いた。
一行は、教室フロアの端にある白亜の昇降機へと乗り込んだ。
重力から解き放たれるような浮遊感とともに、リフトは一気に高度を上げていく。
「アセンドなんだって? 天界っていちいち名前が覚えにくいんだよ。
にしても……どこまで上がるんだよ、これ」
サダオミが落ち着かない様子で手すりを握る。
リフトが止まった先に広がっていたのは、天空を横切るガラス張りの通路、永劫の回廊だった。
「でました、なんたらコリドー……
うわ……すごいな、ここ」
眼下には第一圏域の街並みがミニチュアのように広がっている。
「あ、あそこ……。ひなのアパートだ」
サダオミは足を止め、ガラスに顔を寄せた。
豆粒のように小さく見える、年季の入ったアパート。
「ひなは昔から頑なにあのアパートなんだよ。
私は寮も良いと思うんだけどな……」
「あ、でも気持ちはわかるよ。居心地良いんだよ。ひなの家」
サダオミの言葉に、海里がやれやれと溜息をつく。
そんな二人のやりとりを透哩は静かに見守っていた。
一行は回廊を抜け、さらに進む。
水のせせらぎが静寂を際立たせる黙考の噴水庭園を通り抜け、一行はついに重厚な造りの天枢寮へと足を踏み入れた。
残念ながらこのタイミングでは他の生徒に会うことは出来なかったらしく、
一行はその足ですぐに二階へと移動する。
二階の踊り場で、海里が足を止めた。
「私の部屋はここだ。……サダオミ、困ったら私を……いや、何かあれば……小波が隣なんだから、聞けばいいか。じゃあな」
「あ、海里……」
唯一の緩衝材だった海里が扉の向こうへ消え、廊下にはサダオミと透哩の二人だけが残された。
「ふむ」
「えーと……」
「いくぞ、こっちだ」
三階へと続く最後の階段。
一段ごとに聖域に近づくような、そんな気配がサダオミを支配していく。
三階の廊下は、最高級の絨毯が足音を完全に吸い込んでいた。
「……ここだ。カードキーは失くすな。再発行の手間を私にかけさせるなよ」
透哩が差し出したカードを、サダオミは緊張した面持ちで受け取る。
「わ、分かってるって。……自分の部屋か。なんか、変な感じだな」
「……」
透哩は答えず、隣の部屋――首席専用室の重い扉を解錠した。
最高級寮の壁は厚く、本来なら隣の物音など聞こえるはずもない。
だが、透哩の耳には隣室で「うおぉ、広い!!」とベッドに飛び込むサダオミの浮かれた心音までが、鮮明に届いていた。
「……騒がしい奴だ」
自室に入った透哩が、誰に聞こえるでもなく、わずかに口角を上げた。




