†42話†:霜月鴉 ― 風紀委員裁定結果 ― ③
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「いいか、鴉。よく見てろ。……お前は『榊が死にそうだったから、とりあえず安全確保(不老不死)しました』って言ったよな。……それ、ただの『状況の凍結』だ」
「だってぇ! あんなに矢が刺さって、今にも死んじゃいそうだったんですよ!? 天使として、目の前の主人公を死なせるわけにいかないじゃないですかぁ!!」
「気持ちはわかるし、俺も多分そうしただろうとは思うよ……でも、その結果がこれだ。
死なねぇ身体のせいで、アイツが武士として一番やりたかった『命を賭けた殿』って舞台が、ただの『終わらない作業』に成り下がった。
……不本意だろうけど、それが詰みの原因だよ」
「じゃあ、どうしろって言うんですか。
絶対に詰む世界だったってことじゃないですか」
「そうだな」
「そんなぁ……」
「だから俺みたいなのがいるのかもな。
……願いってのはな、本人が口にしてる言葉が正解とは限らないんだよ。
状況が変われば、バージョンアップされるもんだ」
燃え盛る戦場の中、異様なほどに明るい『宴会会場』。
サダオミは、泥酔した武士たちの間を縫って、その中心に座る巨躯の男――榊 刻時の隣にどっかと腰を下ろした。
「……ぬ? 見ない顔だな。貴様も、この『中村屋』の団子を食いに来たか?」
榊が、血塗れの槍を杖代わりに、豪快に笑う。
「見ての通り、我ら、今まさに命を燃やし尽くす『至高の刻』にある! この槍で敵を穿ち、最後は桜の如く美しく散る……。これこそが武士の誉れ、至高の死に際よ! 貴様も、この戦場の華となりに来たか!」
サダオミは隣でガタガタと震えている鴉の首根っこを掴んだまま、無造作に団子の串を放り投げた。
「戦場の華ね……」
サダオミが、榊の横っ面に鋭い視線を突きつける。
「お前さ、さっきから『綺麗に散る』だの『死に際』だの言ってるけどさ。……本当は、死ぬのが怖いんじゃなくて、『こいつらがいない明日』が怖いだけなんじゃねーのか?」
「…………。……何を、抜かす」
榊の笑いが、わずかに止まった。
「お前がここで死ねば、確かに『綺麗な殿』として歴史に残るだろうよ。だが、残されたこいつらはどうなる? ……お前がいない世界で、誰と団子を食って、誰と笑うんだ?」
「それは……。武士の誉れとは、個人の情を超えた先に……」
「誉れだの何だの、後付けの理屈だろ。……お前、本当は『死にたい』んじゃなくて、『こいつらと笑ってる、この瞬間を終わらせたくない』だけなんだよ」
サダオミの「物理(正論)」が、榊の頑固な武士道にヒビを入れる。
沈黙が流れたその瞬間。
耐えきれなくなった鴉が、涙目で叫んだ。
「……そうです、そうです! サダオミさんの言う通りですよ! 榊様が死んじゃったら、僕、誰を推せばいいんですか! 死ぬところなんて見たくないです! 僕は……僕は、死なないでずっとここで宴会してればいいじゃないですかぁ!!」
「………………は?」
榊が、呆然と鴉を見た。
サダオミも、思わず天を仰ぐ。
「……おい鴉、お前。……解決策が極端すぎるだろ」
「だって! ここなら団子も美味しいし、皆も楽しそうだし! 榊様が死にたくない理由が『皆と離れたくない』なら、死なずにずっとここで宴会してれば、全部解決じゃないですかぁ!!」
あまりにも短絡的で、あまりにもバカ正直な、天使の暴論。
「戯言を抜かすな……」
だが。
榊の耳に仲間の笑い声が聞こえる。
声に向けた視線の先には、いつもの仲間の姿。
震える自分の掌をゆっくりと閉じる。
榊の瞳の中に、それまでなかった「光」が宿った。
「……宴を……。……永久に……?」
榊が、自らの手を見る。
心臓を貫かれても、数秒で元通りになるこの身体。
逃げ切る必要のない仲間たち。
そして、美味しい団子。
「……ふ。……ふはははは!! そうか! 左様か!! 我は、この時を止めたかったのだな!! 散る必要などない。この『最高潮』こそが、我の望んだ武士の極致よ!!」
榊の「願い」が、音を立てて書き換わった。
不老不死は、もはやバグではない。『永遠の宴』を実現するための、正しい神力へと定義が上書きされたのだ。
遠く、街道の脇。
一式が、最後から八本目の団子を網の上で転がした。
「……願いの整合性、確認。……論理汚染の消失を確認。……」
一拍。
「……任務完了、なう」




