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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
334/339

†41話†:霜月鴉 ― 風紀委員執行猶予 ― ②


■【観測記録:秋津ノ国・不知火/下級天使】

■ 対象:霜月しもつき からす

■ 状況:戦場停滞/殿しんがり任務の永久化

・対象:さかき 刻時ときじ

・生存率:100.00%(最大値固定/ロールバック機能付与済)

・軍勢:家臣団 32名(不老不死の無断行使・状態固定済)


■ 原因:願いの「物理封鎖」化

・「散りたい(死)」という願いを、不老不死による「死の拒絶」で上書き。

・殿が突破不能となったことで、撤退すべき仲間が戦場へ回帰。

・「死なない軍勢」による反転攻勢が成立し、戦史のタイムラインが凍結。


■ 裁定:救出委員会への委託(風紀・消滅委員会との合同任務)

・任務条件の再定義不能。歴史の論理汚染が進行中。



 街道の脇、ひっそりと佇む『中村屋』の暖簾。


 そのすぐ側では、数分前に心臓を貫かれたはずの兵たちが、平然と笑いながら団子を口に運んでいた。


 彼らの鎧は血に塗れ、布地はズタズタだ。


 だが、その下の肌は、まるで何事もなかったかのように白く、滑らかに「巻き戻って」いる。


「なるほど、こういう感じか……

 で? セット先輩はなにしてるんですか?」


 サダオミは、手渡されたみたらし団子の串を眺めながら、隣で淡々と炭を熾している男を横目で見た。


「……なにって、潜伏任務なう、だ」


 一式は、その世界の文字で書かれた『中村屋』の看板に誇りを持つかのように、丁寧に団子を並べ直す。


「あ、今回は読める文字だ。

 ……中村屋って、先輩。……そのまんますぎません?」


「プロのこだわりってやつだ。

 いいから食べてみろ、なう」


 サダオミが一口齧る。


 甘辛い餡と絶妙な弾力の餅が、口の中に広がった。


「……ん。……。……ふつうに美味しいの、ずるくないですか?」

「琥珀ちゃんにスカウトされたこともあるからな」

「え、すご」


 サダオミは素直に感心したが、すぐに視線を「巻き戻り」を繰り返す武士たちへ戻した。


「……にしても、先輩とバッティングするとはな。……風紀と救出って、そんなに仕事被るんですか?」

「……消すと救う。……そう単純でもない。……全ては神の審議次第だ」


 一式は、客――不死身の軍団の一人が酒をこぼし、服が濡れた瞬間に「濡れていない状態」へ巻き戻るのを、冷徹な瞳で見届ける。


「……あー……例の、上が決める『帳尻合わせ』ってやつか」

「……違反者なら……消す。……それが俺の役目だ」


 一式は、団子の串を一本、ゴミ箱へ正確に放り投げた。


「で、セット先輩の経験上……今回は?」

「……完全に……アウトだ、なう」

「でしょうね……で、肝心のやらかし天使は」


 サダオミが呆れ果てて周囲を見渡す。


 一式が、無造作に焼き台の端を指差した。


「そこで団子食ってる、なう」


 視線の先。


 中村屋の特等席で、小柄な少年――第六圏域所属の下級天使、霜月 鴉が、口の周りをタレだらけにして咀嚼していた。


「ほいひいれす(美味しいです)……。中村様のみたらひ、神がかってまふ……!」


「……見るからにやらかしそー……」


 サダオミは額を押さえた。


 目の前の少年は、自分が今まさに「消滅」の崖っぷちに立っていることに、露ほども気づいていない。


「……おい、鴉。お前、自分が何をバラ撒いたか分かってんのか?」


「へ? あ、同僚ですか? この団子食べます? 美味しいですよぉ」


 鴉が屈託のない笑顔で串を差し出す。


 サダオミはそれを無視して、一式の方へ向き直った。


「……で、セット先輩。いつまで団子焼いてるつもりです?」


「……団子が完売した瞬間、なう。

 あと、当たり前のようにセット先輩って言い続けるよな、お前」


 一式は、残りの団子の数を、冷徹な事務作業のように数え上げた。


「完売した瞬間に、俺は『裏取り』を完了し、神の審議を要請する。……審議の結果は、九割九分『デリート』だろうな。……この世界線の不純物は、あまりに多すぎる」


 一式が視線を向けた先では、榊 刻時が部下の肩を叩き、豪快に笑っていた。


 その肩には、一秒前に敵に射込まれたはずの矢が、ノイズと共に消えた「跡」だけが白く残っている。


「……あの団子がなくなるまでに、俺がその『アウト』を『セーフ』に書き換えればいいんだな?」


「……できるのならな、なう」


 一式は新しい団子を網に乗せた。


 ジウ、と。


「……なるほどな。セット先輩。この団子がなくなる前に、あの殿様の『時計』を壊すんじゃなくて、『電池』を入れ替えてやりゃいいんだな?」


 サダオミが不敵に笑う。


 一式は、最後から十本目の団子を網に乗せた。


「……願いの再定義か。……だが、本人が心底から『この停滞』を望まぬ限り、神の審議は通らん、なう。……嘘の願いは、すぐに剥がれる」


「……あぁ、分かってるよ。……おい、鴉。お前も手伝え。……お前の『推し』を消されたくなきゃな」


「えっ!? 榊様が消えちゃうんですか!? やだ、そんなの絶対やだ!」


「……お前もだ」


「えぇ!? 僕、消えちゃうんですか!?」


 ようやく事態の深刻さに気づいた鴉が、口の周りにタレをつけたままサダオミに縋り付く。


「……よし。じゃあ、まずはあの殿様に、最高に『今が幸せだ』って自覚させてやる。……あいつ、自分が『死にたがってる』って思い込んでるだけの、ただの寂しがり屋だろ」


 サダオミは余った団子を一口で飲み込み、刀の柄に手をかけた。


「……残り九串。……急げよ、なう」


 一式は、サダオミの返事を待たず、淡々と網の上の団子をひっくり返した。

 炭が爆ぜる。

 遠くで、死ねない武士たちの笑い声が響く。

 

 サダオミは一度だけ深く溜息をつき、鴉の首根っこを掴んだまま、夕闇が迫る戦場の中心部――榊 刻時が待つ「終わらない宴」へと足を踏み入れた。

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