↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
327/329

†34話†:美貌の書、バグの壁





世界書庫アカシック・ライブラリ


 膨大な知が積み上げられた、静寂と埃の香りが漂う空間。

 その一角で、サダオミはズズッ、と遠慮なくお茶を啜っていた。


「ほっほ。……『またおいで』とは言ったが、本当にすぐ来るとはのぅ。若者は元気でよろしい」


 老師が嬉しそうに目を細め、サダオミの湯呑みに茶を注ぎ足す。


「ここの静けさが早速、恋しくなってさ。……それに爺さん、なんか色々知ってそうだしさ」


 サダオミは適当な相槌を打ちながら、茶菓子を口に放り込んだ。

 国家規模の「英雄依存」を解体し、一人の男をインフラから救い出してきた直後だ。

 この世の果てのような静けさが、今は心地よい。


「世間話も結構だが。……さて、そろそろ言わんか。一体何が聞きたい? お主のその顔、ただ茶を飲みに来ただけではあるまい」


 サダオミは一度だけ視線を落とし、すぐに顔を上げた。

 その瞳には、純粋で切実な、

 一人の「被害者」としての光が宿っている。


「……あのさ! 爺さん!!」


「ほいほい、何かの?」


「あの! 学園に入学したら男に戻れる約束だったのに、戻れないんですが!!」


 身を乗り出して叫ぶサダオミに、老師は困ったように眉を下げ、ふぉっふぉっふぉと笑った。


「そんなの、ワシに言われてものぅ。……まぁ、バグにも『仕様』という名の逃げ道があるもんじゃよ」


「納得いかないよ!!」


 サダオミの魂の叫びに、老師は湯呑みを置いて、ふぉっふぉと喉を鳴らした。


「そりゃ納得もいかんか。……ふぉっふぉ、それではこんな本はどうかの?」


 老師が傍らにあった古びた書物を取り、パラパラと無造作にめくる。その瞬間。


「……は?」


 サダオミの目の前で、信じられない事象が起きた。

 深い皺の刻まれた老師の容姿が、まるで霧が晴れるように書き換えられていく。

 白髪は艶やかな黄金色へ。腰の曲がった体躯は、立っているだけで絵になるような、非の打ち所のない「絶世の美男子」へと変貌を遂げたのだ。


「……爺さん!? 嘘だろ!! なんだその『ズルい本』は!!」


 サダオミは椅子を蹴るように立ち上がり、老師の持つ本を奪い取るように借り受けた。


「それだよ!! それ貸して!! これで俺も元通りに――」


 逸る気持ちを抑えきれず、サダオミは夢中でそのページをパラパラとめくる。

 ……書き換えのログを。

 本来の肉体の情報を。

 男だった頃の、自分を。

 

 しばしの沈黙。

 サダオミは、自分の手を、そして股間を、さらに胸のあたりを、神妙な顔で入念に確認した。


「…………」


 ……何も、変わっていない。


「……ふむ、効果がないのぅ」


 美男子の姿をした老師が、澄んだ美声で残酷な事実を告げる。


「なんでだよ!!」


 世界書庫に、サダオミの悲痛な咆哮が虚しく響き渡った。





「ふぉっふぉ、ワシでダメならもうダメじゃ。そこは諦めるしかないのぅ」


 美声での無慈悲な宣告を背に、「また来るよ……」と、とぼとぼと力なく世界書庫を後にするサダオミ。

 

 その足で向かった救出委員棟では、透哩とひなが出迎えた。


「遅いざます!」


「今度は『ざます』なんだ。毎度毎度、どんな救出任務にいってるの、ひな吉くん」


「こいつのことは放っておけ」


 透哩が冷たく一蹴し、サダオミに向き直る。

 サダオミは肩を落としたまま、縋るような湿った視線を透哩に送った。


「……透哩。老師でもダメだったよ」


「何のことだ」


「わかってるくせにっ! 約束は破っちゃいけないんだぞ! 学園に入学したら男に戻れるって、そう言ったじゃないか!」


 縋るような勢いで詰め寄るサダオミ。だが、透哩の周囲の温度が目に見えて下がっていく。

 その氷のような瞳に射すくめられ、サダオミの「正論」は急速に萎んでいった。


「……戻れたら、いいなぁ……なんて」


「ふむ」


「いや、やっぱりいい! 『わかった』とか言わなくていい! 今の、ただの独り言だから!!」


 必死に両手を振って前言を完全撤回するサダオミ。

 その豹変ぶりを、ひなが「ざます」の語尾も忘れて呆然と眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。