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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
326/329

†33話†:如月凪 ― 英雄依存円環 ― ②





「……あんた、何者だ?」


 皇煉は、剣を引くことなく、けれどその切っ先をわずかに下げて問うた。

 24時間営業の救世主。彼の瞳には、平和を守り続ける誇りよりも、終わることのない残業を強いられた労働者のような、深い、深い隈が刻まれている。


「あー、まぁ、ちょっとした通りすがりの凪の同僚かな。……にしてもさ」


 サダオミは、煉の持つ剣の重さを測るように目を細めた。


「やっぱり、そうなるよなぁ。

 ……無理しなくていいって言われても、無理しなきゃ崩れる世界を背負わされてるんだ。

 本音なんて、誰にも言えるわけないよな。

 ……あー、わかるよ。俺も、全く同じだったからさ」


「……同じ……だと?」


 煉の眉が、初めて微かに動いた。

 否定でも、嘲笑でもない。


 サダオミは隣に腰を下ろし、軽く言葉を交わす。


 ――会話は、途切れない。


 遠くで見守る凪の目が、わずかに見開かれる。

 どれだけ尽くしても、どんなに「平和」を捧げても、

 見せてくれなかった――煉の「毒の抜けた、安らかな顔」。


「……救出のプロって、あんなことまでできるの?」


 凪の胸に、驚きと、そしてサダオミへのさらに深い羨望が刻まれる。





「……なぁ」


 サダオミは、皇煉の背を見たまま口を開いた。


「これ、いつまで続けるつもりだ?」


「……?」


 凪が眉をひそめる。


「あいつが前に立ち続ける限り、この国は回る。

 でもさ――」


 一拍。


「それ、あいつが倒れた瞬間に全部終わるってことだよな」


「……それは……」


 凪が言葉に詰まる。


 サダオミは視線を外さない。


「一人に全部乗せてる時点で、それはもう“平和”じゃない」


 静かに言い切る。

 責めるでもなく、断じるでもなく。


「…………」


 凪の肩が、小さく震えた。


「じゃあ、どうすればいいのよ……」


 絞り出すような声。


 サダオミは、わずかに肩を竦めた。


「簡単だよ」


 あっさりと。


「週に一日でいい。あいつを前線から外せ」


「……は?」


「その一日、この国だけで回してみろ」


 淡々と続ける。


「防衛でも、警備でも、避難でもいい。

 何でもいいから、“あいつ抜きで”やってみろよ」


「そんなの……無理に決まってるじゃない!」


「だろうな」


 即答。


「だからやるんだよ」


「……っ」


 凪の息が詰まる。


 サダオミは一歩、踏み込んだ。


「出来ないなら、それが“現実”だ。

 出来るようにするしかないなら――それも“現実”だ」


 逃げ場を残さない声音。


「どっちに転んでも、“あいつ一人で守る世界”は終わる」


「……そんなの……」


 凪の視線が揺れる。


 サダオミは、わずかに目を細めた。


「守る側が一人しかいない世界を、“平和”とは言わない」


 静かに。


「それはただの――延命だ」





 ――数日後。


 皇煉の姿は、前線にはなかった。


 代わりに、慣れない手つきで剣を握る兵士たちが、ぎこちなく陣を組んでいる。

 誰もが余裕を失い、それでも一歩も退かずに立っていた。


 遠くからその様子を見つめ、凪が声を張り上げる。


 その指示は拙く、完璧には程遠い。


 だが――止まってはいない。


「…………」


 サダオミは、その光景をしばらく見ていた。


 やがて、小さく一つ、頷く。


 それだけで十分だった。


 踵を返し、振り返ることなく歩き出す。

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