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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
324/328

†31話†:英雄の残響、終わらないバフ



 ひなの自室に、無情なシステム音が響いた。


「うわああああああ!! また床舐めたあああああ!!」


 画面の中で、力尽きた竜騎士の横を他プレイヤーが淡々と通り過ぎていく。

 ひなはベッドに突っ伏し、枕に顔を埋めてじたばたと足を跳ねさせた。


「なんで!? 今の絶対ジャンプの無敵時間で避けられたでしょ! ヒーラーさんバリア薄いよぉ!!」


「……ひな吉くん。ジャンプは無敵じゃないよ。何度も言ったよね?

 あと、今の、ギミック処理ミスだよ。避けるんじゃなくて受けるやつ」


 サダオミは学者の本を閉じるような手つきで、空中に浮かぶログをスクロールした。


「えー、だってさ! 竜騎士ってのは、常に最前線で槍を振るって、かっこよく敵をなぎ倒し続けるのが『主人公』でしょ!? ずっと戦い続けて、ずっと守って、ずっと勝つ! それが最強じゃん!!」


「DPSは守らないの」


 熱弁するひなの横顔を見ながら、サダオミはふと、ひなの言葉が引っかかった。


 ……確かに、それは“強い”。


 終わらない戦い。

 降りられない最前線。

 永遠に期待され続ける「主人公」という役割。


 負けることも、倒れることも。

 終わることすら、許されない。


 それが、画面の中じゃなかったら。

 現実の「平和」だったとしたら。


「――働け」


 背後から放たれた氷の礫のような声に、サダオミの思考が弾けた。

 いつの間にか、透哩が部屋の入り口に立っている。


「うわっ、出た!!」


「……人を幽霊のように呼ぶな。行くぞ。任務だ」


「えー……でもさぁ。ずっと主人公でいられるなら、それって最高じゃん。ずっと戦い続けていたいよぉ……」


 ひなが未練がましくコントローラーを握りしめる。

 サダオミは、その無邪気な願いに、わずかに眉を寄せた。


 ゲームならいい。リスタートすれば、また「最強」に戻れる。

 だが、現実でそれが固定されたら。

 英雄が剣を置いた瞬間に世界が崩壊するような、そこから降りられなかったら――。


「……それ、割と地獄だよ」


「ふむ」


 透哩が怪訝そうに眉を寄せる。

 サダオミは視線を上げ、静かに問いかけた。


「今回の任務……『英雄依存円環』。未解決案件だね?」


「……察しがいいな。その通りだ」


 透哩の肯定を聞きながら、サダオミは小さく息を吐いた。

 ――ほら、やっぱりそうじゃないか。

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