†31話†:英雄の残響、終わらないバフ
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ひなの自室に、無情なシステム音が響いた。
「うわああああああ!! また床舐めたあああああ!!」
画面の中で、力尽きた竜騎士の横を他プレイヤーが淡々と通り過ぎていく。
ひなはベッドに突っ伏し、枕に顔を埋めてじたばたと足を跳ねさせた。
「なんで!? 今の絶対ジャンプの無敵時間で避けられたでしょ! ヒーラーさんバリア薄いよぉ!!」
「……ひな吉くん。ジャンプは無敵じゃないよ。何度も言ったよね?
あと、今の、ギミック処理ミスだよ。避けるんじゃなくて受けるやつ」
サダオミは学者の本を閉じるような手つきで、空中に浮かぶログをスクロールした。
「えー、だってさ! 竜騎士ってのは、常に最前線で槍を振るって、かっこよく敵をなぎ倒し続けるのが『主人公』でしょ!? ずっと戦い続けて、ずっと守って、ずっと勝つ! それが最強じゃん!!」
「DPSは守らないの」
熱弁するひなの横顔を見ながら、サダオミはふと、ひなの言葉が引っかかった。
……確かに、それは“強い”。
終わらない戦い。
降りられない最前線。
永遠に期待され続ける「主人公」という役割。
負けることも、倒れることも。
終わることすら、許されない。
それが、画面の中じゃなかったら。
現実の「平和」だったとしたら。
「――働け」
背後から放たれた氷の礫のような声に、サダオミの思考が弾けた。
いつの間にか、透哩が部屋の入り口に立っている。
「うわっ、出た!!」
「……人を幽霊のように呼ぶな。行くぞ。任務だ」
「えー……でもさぁ。ずっと主人公でいられるなら、それって最高じゃん。ずっと戦い続けていたいよぉ……」
ひなが未練がましくコントローラーを握りしめる。
サダオミは、その無邪気な願いに、わずかに眉を寄せた。
ゲームならいい。リスタートすれば、また「最強」に戻れる。
だが、現実でそれが固定されたら。
英雄が剣を置いた瞬間に世界が崩壊するような、そこから降りられなかったら――。
「……それ、割と地獄だよ」
「ふむ」
透哩が怪訝そうに眉を寄せる。
サダオミは視線を上げ、静かに問いかけた。
「今回の任務……『英雄依存円環』。未解決案件だね?」
「……察しがいいな。その通りだ」
透哩の肯定を聞きながら、サダオミは小さく息を吐いた。
――ほら、やっぱりそうじゃないか。




