†30話†:高鷺ゆえ ―最高最強のデリバリー ― ③
■
◆
天界食堂の厨房。
そこには、一歩も引かない「最高最強」の頑固者が立ち塞がっていた。
「……ダメ。スープは、ここで飲むのが最高最強」
琥珀は大きなレードルを握りしめ、無表情ながらも鉄の意志で拒絶を告げる。
その傍らでは、ひなが「んまーい! これこれ、これだよ~!」と、既に自分の分のスープを幸せそうに啜っていた。
「お願いです、琥珀先輩! ゆえ先輩、もう指一本動かせないくらい限界なんです! 届けさせてください!」
「……断る。運べば温度が下がる。器が変われば響きが死ぬ。それはもう、最高最強じゃない」
職人の理屈はどこまでも平行線だ。
焦るサダオミは、思わず漏らすように呟いた。
「……そっかぁ。最高最強なのに、ここでしか食べられないのかぁ……」
「!?」
琥珀の肩が、目に見えて跳ねた。
しばしの沈黙。
琥珀の脳内で、「場所の制約」と「絶対的な強さ」という二つの概念が激しく衝突し、火花を散らす。
「……確かに。最高最強なら……どこででも、最高最強であるべき……?」
「あっ、いけそうです?」
「……最高最強、だから。……待ってて。……ん。最高最強の容器に詰めた」
手渡されたのは、もはやスープ入れというよりは精密機器のような銀色のボトル。
それを受け取るやいなや、サダオミは満足げなひなを再び背負い、音楽委員棟へと全力で駆けだした。
――数分後。
「……ふ、ふぇ……おいひい……っ」
楽譜の海の中で、ゆえが泣きながら琥珀特製スープを口にする。
一口ごとに、失われていた色彩が彼女の瞳に戻り、濁っていたオーラが純白の輝きを取り戻していく。
飲み干すと同時に、ゆえはスッと立ち上がった。
その手に握られた楽器が、先ほどの「ぼえー」が嘘のような、天界の隅々まで浄化する美麗な音色を紡ぎ出す。
廊下で、そして室内で。
サダオミとひなは、その圧倒的な調律の響きに、しばし言葉を忘れて聞き入った。
「……やっぱり、ゆえ先輩の音色は最高最強だね」
ひなの小さな寝息と、完璧な旋律。
天界の「空気」が、完全に澄み切る。
――これが、本来の音だ。
サダオミは静かに目を閉じた。




