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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
322/326

†29話†:高鷺ゆえ― 記憶の回廊 ― ②



 音楽委員棟へと続くその回廊は、物理的な距離を超えた「聖域」だった。


 一歩踏み出すごとに、空気中に舞う「音の粒子」が肌を撫でる。

 床からは波紋のように過去の記憶が広がり、雑多な精神的ノイズが強制的に調律されていく。


 ……っ、小夜子……


 回廊に溶け込んだ小夜子の面影が、甘く切ない旋律となってサダオミを呼び止める。

 立ち止まりそうになる足を、背中にしがみついたひなの重みと、物理的に引かれる髪の痛みが現実に繋ぎ止めた。


「いたたっ、わかったって。

 ありがと、ひな吉くん。

 今はゆえ先輩が先だ……っ!!」


 雑念を振り払い、サダオミは回廊を駆け抜ける。

 重厚な音楽委員棟の扉を、勢いよく左右に跳ね上げた。


「ゆえ先輩!! 大丈夫ですk――」


「……もう嫌ぁ……っ」


 そこにいたのは、聖母のような慈愛をかなぐり捨て、床にへたり込んで泣きじゃくる高潔な奏者の姿だった。


「すっごい還ってくる……。もう、すっごいみんな還ってくるんだもん……っ! ずっと奏でてるのよ!? 減らないのよぉ……終わらないのよ……っ!!」


 散らばった楽譜の海の中で、情緒がログアウトしたゆえが咽び泣く。

 凄まじい数の天使の記憶を一人で調律し続け、ついに精神の防波堤が決壊したらしい。


「……とりあえず一度、休みましょうよ。あ、ほら、気分転換になるようなもの、ないんですか?」


 サダオミの必死の提案に、ゆえは涙で濡れた顔を上げ、震える声で呟いた。


「……スープ」


「え?」


「……琥珀ちゃんが作る、幸福味のスープ……。あれを飲めば、あと100年くらいは頑張れるかも……」


「琥珀先輩、すごすぎか!!」


「おー、あれはうまいからなぁ。僕も飲む~」


 背中でひなが呑気に同意する。


 かくして、天界の「音色」を守るためのミッションは、なぜか『最強のスープ調達』へと変貌を遂げた。

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