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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
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†26話†:セナキ ― 語らせぬ過去 ― ②




「さて、和解も終えたことじゃし。あまり引き留めるのも、セカイの理に色々と影響が出てしまうの」


 老師は満足げに目を細めると、手にしていた古びた杖で、所在なき空間をトントンと叩いた。


「また来るといい。キミが願えば、ここの扉はいつでも開くようにしておくよ」


 その言葉に応じるように、サダオミの背後に真っ白な光の回廊が立ち上がり、眩い扉が出現した。

 その光の先には、見慣れた――けれどどこか息苦しいほど高精度な、学園の空気が漏れ出している。


「どれ、ワシも久々に、従属天使を介した神力誇示とやらに参加してみるかのぅ」


 ……俺や姐さんを道具扱いかよ。


 ……従属天使を二人も第一圏域に捩じ込むとか、普通じゃねぇだろ。


 透哩も、るるかさんも、相変わらず無茶苦茶だ。


 ……神力誇示?


 ……はぁ。どいつもこいつも、透哩の二番煎じかよ。


 思わず身を乗り出したサダオミに、老師はいたずらっぽく笑って付け加えた。


「ほっほ、セナキは後々、学園へやることにするよ」


「え?」


 虚を突かれたサダオミの横で、当のセナキが顔を赤くして俯く。


「お、いいじゃん、セナキ。楽しみに待ってるよ。それじゃ、また。折角だし、また寄せてもらうね」


 サダオミはひらりと手を振ると、迷うことなく光の回廊へと足を踏み入れた。



 光の回廊を抜け、天界の空気に触れた瞬間。

 どこからともなく、透き通った音色がサダオミの鼓膜を撫でた。

 高鷺ゆえが奏でる、記憶の音色。

 荒んだ精神を凪がせるその響きに、サダオミは小さく息を吐く。


「……ゆえ先輩、いつも助かります」


 届くはずのない感謝を小さく呟き、サダオミは前を向いた。


 記憶の調べ(音色)が落ち着く。

 次に、不気味なほど正確なリズムを刻む歯車の音が、サダオミの耳を打った。


 ――因果の回廊(ログ・コリドー)


 歩を進める先にあるのは、優雅さとは無縁の「記録ゴミ」の山だ。

 壁一面の歯車がカチリと鳴る。

 足元に浮かび上がるのは、サダオミがこれまで屠ってきた者たちの、断末魔にも似た光の残像。


 ――チリッ、と。

 一歩ごとに、返り血の組成データが空中に弾ける。

 かつて自分が振るった「一瞬の剣筋」が、無機質なエフェクトとなって視界を汚す。


「ここは慣れないな……」


 サダオミにとって、己が歩んできた戦場も、奪ってきた命も、そのすべては自分自身の血肉に刻まれた「責任」だ。

 それは他人に、あるいはシステムに見せびらかすようなものではない。


 だからこそ、目の前にホログラムのごとく映し出される「戦歴の映像」は、サダオミにとっては何の価値もない、ただのノイズに過ぎない。


 サダオミは不快そうに眉を寄せると、足元から次々と溢れ出す「自分の過去」から、意識的に視線を逸らした。


 罪も、功績も、すべては俺の内側(こころのなか)にある。

 こんな出来損ないの映像に、語らせるな。


 なるべく、見ないように。


 何も考えず、

 ただ前だけを見て、サダオミは歩みを早めた。


「……爺いに会ったのか」


 不意に、虚空から降ってきた声に、サダオミの肩が跳ねた。

 角を曲がった先に、腕を組んで壁に寄りかかる透哩が立っていた。


「――透哩おまえはいつもいきなりだな! びっくりしたわ!」


 胸を撫で下ろしながら、サダオミが鋭い視線を向ける。

 だが、当の所有者は視線を逸らしたまま、短く鼻を鳴らした。


「ふん」


「……あぁ、会ったよ。あと、ただいま」


「…………ふん」


 透哩はそれ以上何も語らず、ただ無愛想に背を向けて歩き出す。

 サダオミはその不透明な背中を追い、苦笑しながら委員棟へと向かった。


 扉を開けた瞬間、待ち構えていたのは、さらに別の「ノイズ」だった。


「遅いでごわす! オミっち!」


 今日も今日とて語尾の定まらない先輩、ひなが、爛々と目を輝かせてこちらを指差した。


「……いや、語尾って。……もういいわ」


 脱力した声が、天界の静寂をようやく「日常」へと塗り替えた。

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