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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
316/322

†23話†:萬ゾラ ― 嵐の前のセレスティアランチ ― ①



【第一圏域・教室】


 サダオミが机に突っ伏して、どのくらいの時間が経っただろうか。

 背中に感じていた「重み」がいつの間にか消えていることに気づき、サダオミはゆっくりと顔を上げた。


 視線の先では、さっきまで自分をおんぶ紐代わりにしていたひなが、ゆえと楽しげに談笑している。


「ねぇゆえ、さっきのオミっちの納刀、ちょっと角度が甘くなかった?」


「そう? 私はあれくらいの方が、相手の『絶望』が長く続いていいと思うけど」


 ……あの二人、本当に仲良いよな。

 っていうか、会話の内容が物騒なんだよ。


 サダオミはぼんやりとした意識のまま、二人の華やかな背中を眺めていた。

 第一圏域の日常は、こうした「平和な毒気」で満ちている。


 だが、その安息は長くは続かない。


「うおっ!?」


 背中に、凄まじい勢いで「重石」が戻ってきた。


「起きたー? お腹空いたー。オミっち、食堂行こー。今日は天使のエンジェル・ウィングのテリーヌが食べたいー」


「……あ、おはようひな吉くん。腹減ったのはわかったから、一旦降りて。ゆえさんも、そんな顔でこっち見ないでください」


 ゆえが、クスクスと喉を鳴らして近づいてくる。


「いいじゃない、サダオミちゃん。私も少し小腹が空いていたところよ。三人で行きましょう?」





【第一圏域・天界食堂セレスティアル・カフェテリア


 白亜の柱とクリスタルで彩られた食堂は、相変わらず浮世離れした美しさだった。

 三人が席につくと、手際よく、けれどどこか事務的な動作で一人の少女が近づいてくる。


「いらっしゃい……ませ……ひなちゃ、またサダオミの背」


 給仕ウェイトレス姿の琥珀が、トレイを抱えたまま、冷ややかな、けれど少しだけ呆れた視線をサダオミに向ける。


「……琥珀さん。そんな目で見ないで。これが俺のデフォルト(標準仕様)になりつつあるから」


「ふーん……」


 琥珀が、流れるような手つきで水を置く。

 その光景は、どこまでも穏やかで、満ち足りた「第一圏域の午後」だった。





【第一圏域・ひなの部屋】


「落ちて死んだああああああ!!」


「なんでだよ! 落ちるってわかってて、なんで後ろに飛んだんだよ! !」


 サダオミの魂の叫びが、ひなの私室に虚しく響く。

 今回は開始5秒の出来事だった。


「横暴だ。高さは僕の味方じゃなかったんだ。あーあ、もうやる気なくした。サダオミ、お菓子買ってきて。……あ」


 ひなが口を尖らせた瞬間、部屋のモニターが強制的に切り替わる。


「……死んだな。なら、働け」


 透哩の、温度を一切感じさせない声。


「こえーよ!ホラーかよ!!画面に出てくるなよ!!」


「横暴だー! 独裁だー! 僕ぁ敵に殺られたわけじゃない、不可抗力の事故だ! 精神的なダメージで労災申請してやる!」


 喚き散らすひなを、透哩はゴミを見るような目で見据えながら、

 淡々と救出任務のデータをサダオミの端末へ飛ばす。


「お前たちに選ぶ権利はない。……行け」


「……はぁ、了解です。……行くよ、ひな吉くん」





【第一圏域・委員棟・執務室】


「……はぁ。また救出か。っていうか、透哩。あの画面に出てくるのマジで怖いからな?」


「ふふっ」


 サダオミは溜息混じりに、透哩から送りつけられた詳細ログをスクロールする。


 救出対象の欄。


 そこには、見覚えのある名前が、堂々と記載されていた。


 観測記録:第六圏域/下級天使

 対象:萬ゾラ(よろず ぞら)

 状況:任務停止・敵対対象不在(思考停止)

 原因:敵がいない

 裁定:救出委員会への委託


「…………」


 サダオミの思考が、一瞬、完全に停止した。

 

 そして、執務室に今日一番の絶叫が木霊する。


「なんでだよおおおおおおおおお!!!」

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