表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
314/322

†21話†:卯月とうか ― 白亜の揺り籠への帰還 ― ③





「……ただいま戻りました」


 因果の回廊(ログ・コリドー)にサダオミの声が響く。


 歩くたびに足元で「カチッ」と乾いた機械音が鳴り、彼が今踏みしめた座標に、淡い光の「事象ログ」が残留していく。


 だが、そこに映し出されるのは人の形をした記憶ではない。


 サダオミが一歩進むたび、「荒野で空気を切り裂いた際の衝撃波形」や、「男との対話で生じた空気の振動数」、あるいは「付着した血液の粘度と成分」といった、徹底して無機質で、それでいて生々しい「物理的な数値の断片」が、ノイズのように弾けては消えていく。


 任務は思っていたより、早く終わった。


 道中で変な男をスカウトするというイレギュラーはあったが、概ね滞りなくこなせただろう。


 ……たまにはサクッと終わるのもいいものだな。


 サダオミが人事長室への報告に向かおうと、廊下の角を曲がった、その時。


「おっそーいにゃん! オミっち、遅すぎるにゃん!!」


 視界の端から、驚異的な遅さで、けれど確実に「獲物」を狙う影が飛び出してきた。


 ――いや、飛び出したのではない。


 ズルズルと、床を滑るように近づいてきたのだ。


「ひな吉くん。……もう戻ってたの?」


「戻ってたにゃん! 水晶の前でオミっちが帰ってくるの、ずっと待ってたんだにゃん! ほら、早く! 僕ぁ、もう三歩も歩いたから限界だにゃん! 筋肉が悲鳴を上げてるにゃん!」


「いや、語尾て」


「?」


「だから、語尾て」


「なにがだにゃん?」


「はぁ……とりあえず、三歩で筋肉痛になる天使がどこにいるんだよ。……あと、任務報告が先だから。降りてね」


「やだにゃん! 報告なんて後でいいじゃないかにゃん! ほら、肩! 私の定位置(特等席)を空けなさいにゃん!」


 サダオミは深い、深すぎる溜息を吐きながら、慣れた動作で腰を落とした。


 ひょい、と軽い感触が背中に乗る。


 物理的には羽のように軽いはずなのに、その瞬間にずっしりと圧し掛かる「あぁ、日常に戻ってきてしまった」という精神的質量。


「……あー、これこれにゃん。やっぱりオミっちの肩が一番安定するにゃんー。一コインあげちゃうにゃん」


「だから語尾て。……あ、そうだ。るるかさん。例の新人、手続き済みました?」


 サダオミが前方の空間に声をかけると、因果の回廊の壁が揺らぎ、知的な女性――大宮るるかが姿を現した。


「ええ、完璧よサダオミさん。萬ゾラ君……だったかしら。彼は今、第六圏域で卯月とうかさんと一緒に『初期研修(任務)』に向かったわ。……ふふ、どんな結果になるか楽しみね」


「……まぁ、あいつなら物理で解決してくるでしょう。あの天使が付いてるなら大丈夫だと思います。ずっと頑張って面倒見てたみたいですし」


 サダオミはそう言って、背中のひなを揺すりながら教室へと歩き出した。


 自分が拾ったあの「銀河最強」が、この天界でどうなっていくのか。


 それは自分の与り知らない、未来の話だ。


「ねぇオミっち、さっきから誰の話にゃん?

 私以外の新人の話しないでにゃん?

 嫉妬しちゃうぞー(棒)」


「……はいはい。大人しくしててください、先輩」


 サダオミがひなを背負って教室へ消えていくのを、穏やかな教師の顔をしたるるかが見送っていた。


「……あら、サダオミさん。一つ言い忘れていたわ」


 ふと、るるかの手元にある端末が激しく明滅する。


 そこには、選別委員・山本ロミオからの「緊急(言い訳)メッセージ」が届いていた。


『せんせーー!! ごめんなさい!! 新人天使の萬ゾラに渡すはずだった「初級・物理排除任務」の水晶、間違えて隣の棚にあった「特級・精神沈没任務」のやつ渡しちゃった!! あれ、誰がやっても無理な詰み案件だったのに!!』


「……ロミオ君。またやったのね」


 るるかは溜息をつき、けれどその瞳には、教師としての微かな好奇心が宿る。


「本来なら学園生徒へ回るはずだった、あの案件。それを、あの『萬ゾラ』君が引き受けてしまった……。ふふ、彼なら、沈み切った彼女を物理で引きずり上げるくらいは、やってのけるのかしら。サダオミさんに関わってしまった天使ですものね」


 るるかは端末を閉じ、サダオミが去っていった廊下の先を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ