表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
313/323

†20話†:卯月とうか ― 任務停滞(救済拒否) ― ②



 観測記録:第六圏域/下級天使

 対象:卯月とうか

 状況:任務停滞・精神汚染(絶望)

 原因:担当案件主人公による救済拒否

 裁定:救出委員会への委託


「……よし。ログ開始。周囲にノイズ、反応なし」


 サダオミは荒野のただ中で、通信端末に表示された「卯月とうか」と、彼女を詰ませている「萬ゾラ」のデータを一瞥した。


 に、しても……軽い。

 驚くほどに、身軽だ。


 物理的な重さというよりは、ついさっきまで背後で渦巻いていた「一切の労働を拒否する呪いのような粘着質な気配」がない。


 歩くたびに「コスト」だの「ジャンプのリキャ」だのと、耳元で理不尽な屁理屈を吹き込まれないだけで、世界がこんなにもクリアに見えるとは。


 ひな吉くん……。あの人、あんなだけど『先輩』なんだよな。

 なんであんなに歩くのを拒むんだか


 サダオミは溜息を一つ吐くと、端末の『願い更新回数:3102回』という数値を睨んだ。

 

 救済条件は「最強の証明」

 

 だが、主人公が勝つたびに条件を自ら更新し続けているため、担当天使である「とうか」が絶望で消滅しかけている。


 ……さて。

 さっさとこのアホな連鎖を止めて、報告に戻るか。


 サダオミが岩陰を抜けると、そこには膝をついて震えている少女、卯月とうかがいた。


「……あ、救出……委員会……? ですか……?」


 とうかは涙目でサダオミを見上げた。


「もう、無理です……。彼、勝つたびにもっと強い奴を出せって……。この世界のラスボス、もうストックがないんです……っ!」


 とうかが指差す先。

 瓦礫のように積み上がった強敵たちの残骸の上に、一人の男が座っていた。


 クチャ、クチャ。


 不敵なリズムでガムを噛む男。


 ――萬ゾラ。

 

 サダオミの接近に気づくと、男はゆっくりと顔を上げた。


「……おい」


 ガムをペッと吐き捨て、ゾラが立ち上がる。

 その体から放たれる圧倒的な「圧」に、サダオミの肌がビリビリと痺れた。


「お前、どこちゅう?」


「地上だ。ついさっき来たばっかりだが」


「地上にこんな強そうな奴がいんのかよ。……おい、お前。俺とやれ。今すぐだ」


 ゾラはサダオミを見て、ニヤリと笑う。


「……まさか、逃げねぇよな?」


 これは、まともに説得しても一生終わらない。

 

 なら、解決策は一つだ。


 サダオミはゾラを無視し、無造作に通信端末を操作して「人事長」のアイコンをタップした。


『あら、サダオミさん。委員会業務中になにか御用ですか?』


 端末から響くのは、大宮るるかの、先生バージョンの落ち着いた声だ。


「るるかさん、今よろしいですか。……現場に『銀河最強』を自称して、ラスボスのストックを枯らし続けてるアホがいるんですけど。こいつ、天使にして上に連れていってもいいですか? 天界なら、こいつが喜ぶ強い奴は腐るほどいるでしょうし」


『ふふ、面白いわね。すぐに神の選定を申請……第六圏域の適正クリア……あぁ、出力だけなら第一圏域こちらに届きそう。いいわよ、オリジナルの下級天使として承認します。ちょうど第三圏域の枠を増やしたところだし、新入生が必要だったの』


「了解です。……あ、はい。はいはい」

 

 通話終了。

 わずか三十秒の事務連絡。

 サダオミは端末をしまい、目を丸くして固まっているゾラに向き直った。


「……はぁ。なぁ、萬ゾラ。お前、そんなにずっと強い奴とやりたいなら――いっそ、こっち(天使)に来いよ。そこなら、お前の望む『上』がいくらでもあるぞ」


「……あ?」


 この瞬間。

 サダオミによって「救済」された卯月とうかの目には、サダオミの背中に眩いばかりの後光が見えていた。

 

 なんて……


 なんて格好いい救出委員様なの……!

 

 あの化物を、

 たった一言で手懐けるなんて……!


 これが、後に学園で「救出の聖母(?)サダオミ」を布教する狂信的な信者が誕生した瞬間であった。


サダオミの端末に、るるかからの追加メッセージが届く。


『サダオミさん、その子……萬ゾラ君でしたっけ。彼、手続きは済ませておくから、そのままこっちへ放り込んでおいて。あ、卯月とうかさんはしばらく休暇を与えます。……彼女、ログが絶望で真っ黒だもの。ふふ、お疲れ様。』


「……了解です」


 サダオミは端末を閉じ、呆然とこちらを見ているゾラを指差した。


「ほら、行くぞ。……あ、お前。ガムは天界に持ち込み禁止だからな。捨てるか飲み込むか、今すぐ決めろ」


「……あ? ああ。……面白そうじゃねぇか。おい、お前も『上』にいんだろ? 先に待ってろよ」


 ゾラの体が、純白の天使の法衣へと書き換えられていく。


 ――もっとも、殺意だけは満点のままだったが。


 一方、その背後で、とうかは祈るように両手を組んでいた。

 

 サダオミ様……。

 私、あなたのような、迷える魂を救う気高い天使になります……っ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
···お前また脳焼いたのか···WWW
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ