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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
307/322

†14話†:第一圏域 ― 埋まらない席―





 武闘場を出るサダオミの背中を、真っ白な弾幕が静かに見送っていた。

 先程までの「愛でる会」の熱気は霧散し、そこにあるのはただ、得体の知れない異物に対する「沈黙」だけだ。


 サダオミはそんな視線など知ったことかとばかりに、第一圏域の教室へと足を向けた。


「よし、今回はうまくスカートを捌けたな」


 教室の重厚な扉を開ける。

 そこは、第二圏域の騒がしさが嘘のような、完璧な凪に支配されていた。

 

 サダオミは自分の席へと歩きながら、ふと窓際の一席に目をやった。

 一番後ろの、窓際の席。

 そこだけが、ぽっかりと空いている。

 それなのに、なぜか「欠けている」という感覚がない。

 

 ……あぁ、誰か任務か。大変だな。

 

 他人事のように思いながら腰を下ろそうとして、ふと、思考が止まる。

 そういえば、自分が初めてこの教室に来た時から、だいたい「この状態」ではなかったか。

 

 第一圏域の連中なんて、どいつもこいつも委員会の業務で忙しそうなものなのに。

 ――なんで、いつもこの教室は、あの空席ひとつを除いて「満員」なんだ?

 

「……あ、サダオミ。圏域守護、お疲れ様」


 隣の席の海里が、極めて自然な動作でノートをめくりながら声をかけてきた。

 サダオミは眉を寄せる。

 海里は、ついさっき廊下で「緊急事態が発生した」と言って消えていったはずなのだ。


「海里、さっき慌てて飛び出していかなかった? 影武者?」


「……? 何を言っているんだ。ここにいるだろう」


 当たり前の返答。説明はない。

 サダオミがさらにツッコもうとしたところで、一人の男が歩み寄ってきた。


「『圏域守護』の役割は、俺が買っていたんだがな。……いい勝ち方だった。次は名前をちゃんと覚えさせてもらった」


 楢葉宗太郎だ。

 あまりにも自然に教室の空気に溶け込んでいる。


「そっか、同じ圏域になったんだったな……楢葉。それじゃ、これからよろしくな」


「ああ。よろしくな。……びひ……ダオミ」


「おい待てコラ! 今、完全に『備品ちゃん』って呼ぼうとしただろ! 読み間違えるにしても無理があるだろ! 語尾しか合ってねぇよ!」


「ふむ……なかなか難しいものだな」


「果たしてそうだろうか!?」


「旧圏域守護 vs 新圏域守護なう」 


 一式の合いの手と共に第一圏域の面々が、クスクスと笑う。

 

 サダオミは釈然としないまま、自分の席に腰を下ろした。

 

「……っていうかさ、お前ら。委員会の仕事とか、任務とか……。そんな普通に揃ってていいのかよ。第一圏域が一番暇って、どんな組織だよ」


 サダオミの問いに、楢葉が僅かに微笑む。

 

「……暇、か。今のお前にはこれが『暇』に見えるんだろうな」


 そう言った楢葉の姿が一瞬、残像を残した様に見えた。

 

「……わかんねぇ。何なんだよ、この教室……」


 サダオミは溜息をつき、再びあの「空席」に目をやった。

 窓際の、一番後ろ。

 

 そこには誰もいない。

 けれど、誰かはいるのだろう。

 

「……あそこは? 誰か休みなの?」

 

 その時だった。

 

「……サダオミ。委員棟だ」


 透哩に声と共に首根っこを持って引き寄せられる。

 「所有者」としての、抗いようのない強制呼び出し。

 

「……っ、わぁ……相変わらずですねー、透哩さんー」


 サダオミは空席の正体を聞きそびれたまま、再び慌ただしく教室を後にしていく。


「どなどなどーな」


 悲しい声色でそんなことを口ずさみながら。


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