†14話†:第一圏域 ― 埋まらない席―
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武闘場を出るサダオミの背中を、真っ白な弾幕が静かに見送っていた。
先程までの「愛でる会」の熱気は霧散し、そこにあるのはただ、得体の知れない異物に対する「沈黙」だけだ。
サダオミはそんな視線など知ったことかとばかりに、第一圏域の教室へと足を向けた。
「よし、今回はうまくスカートを捌けたな」
教室の重厚な扉を開ける。
そこは、第二圏域の騒がしさが嘘のような、完璧な凪に支配されていた。
サダオミは自分の席へと歩きながら、ふと窓際の一席に目をやった。
一番後ろの、窓際の席。
そこだけが、ぽっかりと空いている。
それなのに、なぜか「欠けている」という感覚がない。
……あぁ、誰か任務か。大変だな。
他人事のように思いながら腰を下ろそうとして、ふと、思考が止まる。
そういえば、自分が初めてこの教室に来た時から、だいたい「この状態」ではなかったか。
第一圏域の連中なんて、どいつもこいつも委員会の業務で忙しそうなものなのに。
――なんで、いつもこの教室は、あの空席ひとつを除いて「満員」なんだ?
「……あ、サダオミ。圏域守護、お疲れ様」
隣の席の海里が、極めて自然な動作でノートをめくりながら声をかけてきた。
サダオミは眉を寄せる。
海里は、ついさっき廊下で「緊急事態が発生した」と言って消えていったはずなのだ。
「海里、さっき慌てて飛び出していかなかった? 影武者?」
「……? 何を言っているんだ。ここにいるだろう」
当たり前の返答。説明はない。
サダオミがさらにツッコもうとしたところで、一人の男が歩み寄ってきた。
「『圏域守護』の役割は、俺が買っていたんだがな。……いい勝ち方だった。次は名前をちゃんと覚えさせてもらった」
楢葉宗太郎だ。
あまりにも自然に教室の空気に溶け込んでいる。
「そっか、同じ圏域になったんだったな……楢葉。それじゃ、これからよろしくな」
「ああ。よろしくな。……びひ……ダオミ」
「おい待てコラ! 今、完全に『備品ちゃん』って呼ぼうとしただろ! 読み間違えるにしても無理があるだろ! 語尾しか合ってねぇよ!」
「ふむ……なかなか難しいものだな」
「果たしてそうだろうか!?」
「旧圏域守護 vs 新圏域守護なう」
一式の合いの手と共に第一圏域の面々が、クスクスと笑う。
サダオミは釈然としないまま、自分の席に腰を下ろした。
「……っていうかさ、お前ら。委員会の仕事とか、任務とか……。そんな普通に揃ってていいのかよ。第一圏域が一番暇って、どんな組織だよ」
サダオミの問いに、楢葉が僅かに微笑む。
「……暇、か。今のお前にはこれが『暇』に見えるんだろうな」
そう言った楢葉の姿が一瞬、残像を残した様に見えた。
「……わかんねぇ。何なんだよ、この教室……」
サダオミは溜息をつき、再びあの「空席」に目をやった。
窓際の、一番後ろ。
そこには誰もいない。
けれど、誰かはいるのだろう。
「……あそこは? 誰か休みなの?」
その時だった。
「……サダオミ。委員棟だ」
透哩に声と共に首根っこを持って引き寄せられる。
「所有者」としての、抗いようのない強制呼び出し。
「……っ、わぁ……相変わらずですねー、透哩さんー」
サダオミは空席の正体を聞きそびれたまま、再び慌ただしく教室を後にしていく。
「どなどなどーな」
悲しい声色でそんなことを口ずさみながら。




