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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
300/324

†7話†:因果の投下



 観測管理記録:第一圏域/直轄管轄下

 入替戦番号:A-77

 対象:川篠サダオミ(E固定備品)


 ■ 観測分類一次判定

  因果制御(単一極致型)

  裁定:否定

  情報:非公開指定


 ■ 観測分類二次判定

  神速

  裁定:保留


 ■ 観測分類最終処理

  近接戦闘(高速対応型)

  階位:第一座

  承認


 観測誤差率:基準値超過

 原因:特定不能

 対応:固定処理継続

 ※単一極致型判定履歴を封鎖領域へ移送。

 ※当該個体、再観測優先順位を一段階上方修正。





 学舎の廊下は、先程までの静寂が嘘のような熱気に包まれていた。

 頭上を流れるホログラムの弾幕が、これまでにない速度で更新されていく。


『非公開処理って何?』

『一瞬で消えた』

『固定のくせに?』


「……なんだこれ。勝手に変な設定つけないでよ……」


 サダオミは自分の肩越しに流れる「備品ちゃん」の文字を睨みつけ、足早に歩く。

 だが、その進路を塞ぐように一団が立ちふさがった。

 入学してすぐにサダオミに声をかけ、「可愛いのに中身が可愛くない」と切り捨てた天使とその取り巻きたちだ。


「やあ、時の人。いや、時の備品ちゃんかな?」


 男は満足げに、自分の眼前に浮かぶ弾幕を指差した。


階層戦ティア・シフトの記録、見たよ」


「やたら再分類されてたな?」


「最初の判定、すぐ消えたらしいじゃないか」


 しかし息ぴったりだな。この三人組。

 内心で感想を述べつつ、相手をする。


「よくわからないけど、そうみたいですね?」


「今度はちゃんと話してくれるのかい? 愛しの備品ちゃん」


「うっさい!備品ちゃん言うなっ!」


 サダオミの鋭いツッコミが飛ぶ。

 だが、男たちはそれを「解釈一致」と言わんばかりの恍惚とした表情で受け流した。


 その時だった。

 廊下の喧騒が、まるで誰かが音量をゼロにしたかのように一瞬で凍りついた。


 流れていた弾幕の動きが止まり、野次馬たちが弾かれたように左右へ避ける。

 そこには、冷徹な静寂を纏った透哩が立っていた。


「……サダオミ。委員棟だ」


「ちょ、待って、引っ張らないでっ」


 制止するサダオミの言葉が終わるより早く、透哩の細く強靭な指先がサダオミの腕を掴んだ。


「来い」


「わっ、ちょっと、引っ張るなってば! 離せー!」


 抗議の声を無視して、透哩はサダオミを引きずるようにして歩き出す。

 その背後、沈黙していた弾幕が、怯えたように、しかし猛烈な勢いで再起動した。


『直轄きた』

『空気が重い』

『やば』

『連行なう』

『ドナドナ備品ちゃん』

『あ、これ死ぬやつだ』


 上級生たちが石のように固まって見送る中、サダオミはバタつく足でずるずると連行されていく。

 学園の喧騒が遠ざかり、温度の低い「委員棟」の領域へと、サダオミは強制的に引きずり込まれていった。





 委員棟の内部は、学舎の喧騒が届かない無音の聖域だった。

 透哩は部屋の中央に立つと、無造作に両手の掌を返した。


 ――空間が歪み、無数の任務水晶が星屑のように浮かび上がる。


「……何、これ」


 サダオミが息を呑む。

 光のない、だが冷徹な意味を宿した無数の結晶。

 透哩がそのうちの一つに触れた。

 撫でるような、ごく自然な動作。


 その瞬間、サダオミの視界の端で、遠くの空に浮かんでいた光の一つが、瞬きもなく静かに消えた。


「……今、何か消えた?」


「帰還処理だ」


 透哩は淡々と、次、また次と水晶を撫でていく。

 遠方の光が、ひとつ、またひとつ消える。

 抵抗も、逡巡もなく。


「こうやる」


 透哩は残った一つの水晶を、サダオミの目の前に差し出した。


「できるかあああ! 」


 サダオミは必死に首を横に振る。

 だが、透哩の瞳に揺らぎはなかった。


「救出ってもっとこう、頑張ってやる感じなんじゃないの?」


「これが正規手順だ」


 透哩は一歩、サダオミに詰め寄る。


「ほっ」


「?」


「いや、真似してみたんだけど? そんな悲しい奴を見る目で見ないでよ」


「なるほど」


 その一言にサダオミは、戦慄する。

 こういう予感はよくあたる。

 そう考えた直後だった――。


「できないなら、行け」


「えっ――」


 言葉が終わるより早く、透哩の掌がサダオミの背中を、有無を言わさず押し出した。

 

 重力からの解放。

 

 視界が反転し、委員棟の無機質な天井が遠ざかっていく。


 任務水晶の冷たい光が尾を引く中、サダオミの叫び声は加速する風の中に吸い込まれていった。

 


 第一圏域の空が、静かに閉じる。

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