†5話†:純白の使用用途
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「さて、自己紹介という名の機能確認も無事に終わりましたし……」
蹲るサダオミを冷徹な慈愛で見下ろし、るるか先生は手元のホログラムを操作した。
「次は、サダオミさんの所属する委員会を決定したいと思います。天界において委員会活動は、単なる奉仕ではなく、その個体の有用性を示す重要な任務となりますから」
「……ま、待ってください。俺、まだここの仕組みもろくにわかってないですよ。委員会なんて、もっとまともな格好に戻ってからでいいじゃないですか」
サダオミは顔を上げ、すがるような視線を送る。
だが、るるか先生の指先は止まらない。
「いいえ。あなたは既に固定個体。学園の備品としての枠を埋める義務があります。……そうですね、本来ならロミオさんの任務世界選別委員で、彼が連発するミスの後始末に駆り出されるところですが……」
「……何それ、ブラックすぎて死ぬ予感しかしないんすけど……」
「ですが、今回は既に予約が入っています」
るるか先生は、隣の席で淡々と教科書のページをめくる、透哩へと視線を向けた。
彼女は相変わらず顔を上げない。
ただ、その手元にある救出委員のバッジが、窓からの光を反射して鋭く光った。
「川篠サダオミさん。あなたの配属先は救出委員会に決定しました。これからのあなたの扱いについては、そちらの透哩さんに聞いてください」
「え、透哩に!? ちょ、るるかさん、丸投げっすか……!?」
「るるか先生、です。サダオミさん。……おめでとう。これでようやく、あなたも使い道のある備品になれましたね」
るるか先生は、眼鏡をかけていた頃には決して見せなかった、完成された微笑みを浮かべた。
「……あの、透哩」
サダオミは、生存確認を求めるような手つきで、おそるおそる隣席を伺った。
透哩は指先でページをめくるだけで、こちらを見ようともしない。
「……救出委員、って……何をする委員なんだ?名前だけ聞くと、なんか人助けっぽくて、まともな感じはするけど」
サダオミの必死の問いかけが、教室の静寂に吸い込まれていく。
わずかな沈黙の後、透哩のページをめくる手が止まった。
彼女は視線を教科書に落としたまま、静かに、だが重みのある声で応じる。
「言葉通りだ、サダオミ。降りた世界で詰んだ天使共を手助けする」
「……くず共、って。……手助け、だよね?」
透哩の口から出たあまりに辛辣な二文字に、サダオミの頬が引きつる。
彼女はようやく、わずかに顔を上げた。
その瞳に宿る冷徹な光は、サダオミの心臓を直接掴むような冷たさを含んでいる。
「ああ。失敗し、醜態を晒し、天界に泥を塗る連中を、規律に基づいて回収する。それがこの委員の役割だ」
透哩は、サダオミのエンジェルフォーム――そのミニスカートから伸びる脚を、値踏みするように一瞥した。
「お前はそこで、私の手足として動いてもらう。……その格好なら、囮にも、目眩ましにも、ちょうどいいだろう?」
「お、囮!? ちょ、透哩……それ、人助けじゃなくて、命がけの汚れ役じゃないか!」
「文句は聞き飽きた。……行くぞ、サダオミ」
透哩は流れるような動作で立ち上がると、迷いのない足取りで出口へと向かおうとする。
だが、その背中を追おうとしたサダオミの足を止めたのは、教壇からの涼やかな声だった。
「それでは――。今日のホームルームはここまでとします。皆さん、有意義な活動を」
るるかは優雅に一礼すると、そのまま教壇を降り、入り口に一番近い自分の席へと戻った。
そして、机に置いていたあの大きな眼鏡を、再び目深にかけ直す。
途端、凛としていた空気が霧散した。
「ふえぇ……やっと終わりましたぁ。あ、サダオミさん! 聞きましたよぉ。救出委員に決まったんですってねぇ、すごいですぅ~!」
眼鏡の奥の目をパチクリさせながら、るるかは心底感心したように、のんびりとした声を上げた。
「……は?」
サダオミの思考が、あまりの豹変に急ブレーキをかける。
つい数秒前まで「先生」と呼びなさいと自分を消耗品扱いしていた女が、今はいつもの頼りない師匠の顔で笑いかけてきているのだ。
「……いや、あなたが割り当てたよね!? さっきまであんなに偉そうに宣告してたの、忘れたんすか!?」
「なんのことですかぁ? 私はただ、クラスの皆さんの進路を見守る一人の生徒ですよぉ。あ、透哩さんは厳しいですから、粗相のないように頑張ってくださいねぇ~?」
「……るるかさん、確信犯だろ、これ……ッ!」
サダオミは頭を抱えた。
この学園には、自分の常識が通用する相手が一人もいない。
一方、出口で足を止めていた透哩は、そのやり取りに呆れる風でもなく、ただ冷たく一言だけ投げた。
「……いつまで遊んでいる。置いていくぞ、サダオミ」
「あ、待って、待ってよ!」
サダオミは、ニコニコと手を振る師匠から逃げるように、慌てて透哩の背中を追いかけた。
前を行く彼女の腰元で、救出委員のバッジが小さく揺れている。
――まるで、最初から決まっていたように。




