†2話†:純白に咲く紅
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「……あー。……こんにちは。座っていいですか?」
返事はない。圧倒的な視線の熱量だけが押し寄せてくる。
一般生徒の席から隔離された特例席へと、サダオミは逃げるように腰を下ろした。
圧がすごい。全員こっち見てる。
これ、もう檻の中の珍獣扱いじゃん……。
誰一人として口を開かない。
数千人分の好奇と困惑が、物理的な重みとなってサダオミの肩にのしかかる。
『――特例入学生、川篠サダオミ。壇上へ』
無機質なアナウンスに肩が跳ねた。
逃げ場はない。
必死にミニスカートの裾を押さえ、晒し台に向かうような重い足取りで壇上へと上がった。
その瞬間、頭上に巨大なホログラムが展開される。
見上げれば、そこには無慈悲な一文字が浮かんでいた。
サダオミは縋るような思いでその輝きを目で追ったが、光のアルファベットが書き換わることはなかった。
【評価:E(測定不能・一芸特例)】
ホールが、一気にざわめいた。
あんなに神々しいのに、知性は底辺なのか。
ただの観賞用か。
容赦ない囁きが、サダオミの耳を叩く。
うわ、デカデカと粗大ゴミって看板出された。
視線が刺さって痛いよ!?天界のシステム、プライバシー保護とかないわけ!?
せめてランクは非公開にしてよ……。
ようやく解放され、指定された教室へと向かう。
白磁の回廊はどこまでも高く、歴代聖者のモニュメントが、生徒が通るたびに慈愛の微笑みを浮かべている。
だが、その横を通り過ぎようとした瞬間だった。
石像たちは一斉に首をギギギと不自然な角度に曲げ、未知の存在を検知したかのようにフリーズした。
……石像まで困惑させちゃった。ごめんね、俺みたいなのがここを歩いてて。
居心地の悪さに視線を泳がせるが、すれ違う生徒たちの反応はまた別だった。
目が合った瞬間に頬を染めて立ち尽くす者や、思わず振り返ってしまう者が続出している。
評価がEだろうと、サダオミという存在が放つ天性の格と美貌の暴力は、天界の規律を容易に突き破っていた。
本当なら、自分から「よう!」と声をかけたいくらいなのに。
今の格好と低評価を思うと、怖くて声が出ない。
今はただ一刻も早くこの場を離れたい。
ふと、脇にいた生徒が端末を操作した。
光と共に、女子制服の生徒が一瞬にして男子生徒へと姿を変える。
あ、モデルチェンジ。身体だけじゃなくて、服まで変わった!?
いいな。俺もあんな風に、すぐに男に戻れるのかな。
……でも変な設定になって戻れなくなったら怖いし、やり方、あとで誰かに聞こう。
淡い希望を胸に、最上位クラスの重厚な扉を開けた。
途端、教室内が再びフリーズする。
だが、サダオミの視線は一点に釘付けになった。
最前列の席で、鮮やかな赤髪が揺れた。
「なんか姐さんみたいな人が……って姐さん!? えっ!? いや、ここ天界だよ!? ……なんで? なんで普通にいるの??」
サダオミは扉を掴んだまま、幽霊でも見たかのように絶叫した。
思考が一瞬で真っ白になる。
清潔な教室内、整然と並ぶエリートたちの背中。
そのすべてが背景へと退き、ただ一点、不敵に微笑む紅蓮の瞳だけが世界を支配していた。
扉を握る指先が、目に見えて震える。
彼女――ミレイナは、相変わらずの優雅な笑みを浮かべて口を開いた。
「やぁ、チャッピー。久しぶりじゃないか」
静寂の中、サダオミの鼓動だけが爆発しそうな音を立てていた。




