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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 7 部 天界学園 編
295/332

†2話†:純白に咲く紅




「……あー。……こんにちは。座っていいですか?」


 返事はない。圧倒的な視線の熱量だけが押し寄せてくる。

 一般生徒の席から隔離された特例席へと、サダオミは逃げるように腰を下ろした。


 圧がすごい。全員こっち見てる。

 これ、もう檻の中の珍獣扱いじゃん……。


 誰一人として口を開かない。

 数千人分の好奇と困惑が、物理的な重みとなってサダオミの肩にのしかかる。


『――特例入学生、川篠サダオミ。壇上へ』


 無機質なアナウンスに肩が跳ねた。

 逃げ場はない。

 必死にミニスカートの裾を押さえ、晒し台に向かうような重い足取りで壇上へと上がった。


 その瞬間、頭上に巨大なホログラムが展開される。

 見上げれば、そこには無慈悲な一文字が浮かんでいた。

 サダオミは縋るような思いでその輝きを目で追ったが、光のアルファベットが書き換わることはなかった。


【評価:E(測定不能・一芸特例)】


 ホールが、一気にざわめいた。

 あんなに神々しいのに、知性は底辺なのか。

 ただの観賞用か。

 容赦ない囁きが、サダオミの耳を叩く。


 うわ、デカデカと粗大ゴミって看板出された。

 視線が刺さって痛いよ!?天界のシステム、プライバシー保護とかないわけ!?

 せめてランクは非公開にしてよ……。


 ようやく解放され、指定された教室へと向かう。

 白磁の回廊はどこまでも高く、歴代聖者のモニュメントが、生徒が通るたびに慈愛の微笑みを浮かべている。


 だが、その横を通り過ぎようとした瞬間だった。

 石像たちは一斉に首をギギギと不自然な角度に曲げ、未知の存在を検知したかのようにフリーズした。


 ……石像まで困惑させちゃった。ごめんね、俺みたいなのがここを歩いてて。


 居心地の悪さに視線を泳がせるが、すれ違う生徒たちの反応はまた別だった。

 目が合った瞬間に頬を染めて立ち尽くす者や、思わず振り返ってしまう者が続出している。

 評価がEだろうと、サダオミという存在が放つ天性の格と美貌の暴力は、天界の規律を容易に突き破っていた。


 本当なら、自分から「よう!」と声をかけたいくらいなのに。

 今の格好と低評価を思うと、怖くて声が出ない。

 今はただ一刻も早くこの場を離れたい。


 ふと、脇にいた生徒が端末を操作した。

 光と共に、女子制服の生徒が一瞬にして男子生徒へと姿を変える。


 あ、モデルチェンジ。身体だけじゃなくて、服まで変わった!?

 いいな。俺もあんな風に、すぐに男に戻れるのかな。

 ……でも変な設定になって戻れなくなったら怖いし、やり方、あとで誰かに聞こう。


 淡い希望を胸に、最上位クラスの重厚な扉を開けた。

 途端、教室内が再びフリーズする。

 だが、サダオミの視線は一点に釘付けになった。


 最前列の席で、鮮やかな赤髪が揺れた。


「なんか姐さんみたいな人が……って姐さん!? えっ!? いや、ここ天界だよ!? ……なんで? なんで普通にいるの??」


 サダオミは扉を掴んだまま、幽霊でも見たかのように絶叫した。

 思考が一瞬で真っ白になる。

 清潔な教室内、整然と並ぶエリートたちの背中。

 そのすべてが背景へと退き、ただ一点、不敵に微笑む紅蓮の瞳だけが世界を支配していた。

 扉を握る指先が、目に見えて震える。


 彼女――ミレイナは、相変わらずの優雅な笑みを浮かべて口を開いた。


「やぁ、チャッピー。久しぶりじゃないか」


 静寂の中、サダオミの鼓動だけが爆発しそうな音を立てていた。

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