第六部 入学試験編 最終話:そしてその天使は笑う
■
◆
視界を埋め尽くす純白の光が弾け、重力から解き放たれる。
第五の門を越えたサダオミの意識は、再び天界の、あの静謐な空間へと戻されていた。
「…………」
ゆっくりと目を開ける。
そこには、これまでサダオミの歩みを見守り続けてきた一人の天使――小波透哩が、以前と変わらぬ佇まいで待っていた。
「……透哩」
「……まずは合格、おめでとう」
透哩の声は平坦だったが、その瞳にはどこか安堵のような色が混じっているように見えた。
サダオミは全身の力を抜き、やれやれと首を振る。
「あ、これで試験終わりなんだ?」
「そうらしい」
「……はぁ。じゃ、これでようやく男に戻れるんだよね?」
サダオミの切実な問い。
天使になって以来、常に彼(彼女)を悩ませてきた「姿」の変容。
その約束を果たす時が来たはずだった。
「…………どうだかな」
透哩の、どこか含みのある言葉。
「え、ちょ、話が違うくない?」
思わず食い気味に詰め寄るサダオミ。
そんな彼の必死な様子に、透哩の唇がわずかに弧を描いた。
「…………」
くすり、と。
それは本当に、珍しいものを見るような、微かな笑いだった。
呆気にとられるサダオミ。
だが、その静寂を切り裂くように、透哩が衝撃の言葉を告げた。
「‥‥で?‥‥どうだった? ‥‥ 導入は」
「…………は?」
サダオミの思考が止まる。
あの師匠との邂逅も、祝祭との再戦も、すべてはただの、手引きに過ぎなかったというのか。
呆然と立ち尽くすサダオミを置き去りにして、世界の輪郭が再び書き換えられていく。
真の試練は、ここから始まる。
―第六部 完―




