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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 6 部 入学試験 編
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第8話:鈴の音、遠き城





 第三の門が光に溶け、サダオミは門と門の間の、白く霞む境界へと帰還した。

 かつての戦場も、焼け落ちた空もない。ただ、静寂だけがそこにある。


「…………」


 サダオミはふと足を止め、自分の足元、境界の光に落とされた「影」に視線を落とした。

 そこにはもう、自分を閉じ込める分厚い装甲はない。けれど、確かにそこに「白」がいることを、サダオミは胸の奥の熱で感じていた。


「……これからも、一緒だ」


 誰に聞かせるでもない、独り言。

 それは自分自身への、二度と裏切らないという誓いだった。


 サダオミは顔を上げ、次なる第四の門を見据える。

 不意に嫌な予感――。

 いや、この流れから察するに、またあの「師匠」が出てきたりはしないだろうか。

 サダオミはおそるおそる、境界を踏み越えた。





 門を潜った先。

 視界の先には、遠巻きに漢遼迩の城が見える。


「…………」


 身構える。

 だが、待っているはずの「敵」の気配はない。


 不意に、チリ、と。


 静寂を裂いて、懐かしくも澄んだ鈴の音が響く。


「……あぁ、鈴。久しぶりだね。元気にしてる?」


 サダオミは穏やかに問いかけた。

 そこに鈴の姿はない。


 それでも――。


 鈴の音が、嬉しそうに一度だけ大きく鳴り響く。

 それに答えるように、巨大な門が音もなく開いていった。

 サダオミの懸念を余所に、世界はただ、彼を祝福するように通した。





 サダオミが第四の門を出た、その瞬間。

 人知の及ばぬ高天――「座」が並ぶ静寂の空間に、決定的な不協和音が走った。


 それは、感情による驚きではない。

 世界線・因果・分枝を司る演算機構が、未知の最適解を検知したことによる、純粋なシステム上の不整合だ。


 第四の門には、該当するアルゴリズムが存在しない。

 かつての極致はすでに第一の門で消費され、今の個体を遮る壁が、この階層には残されていない。


『……例外個体の出力が、規定値を大幅に超過している。これ以上の存続は、リスクと判定――』


 排除の論理が、静寂を塗り替えようとした。

 だが。


『――第一座、安定域内。……継続観測』


 全ログを把握する「全視」の宣告。

 その一言で、軋んでいた全ての歯車は、強制的に沈黙させられる。


 例外個体が叩き出し続ける異常なまでの利益が、全システムに存続を命じていた。

 それが、誰の望みなのか。

 「座」を構成する関数たちには、それを問う機能すら備わっていない。


 ただ、サダオミが進むたびに。

 観測誤差が、わずかに増加する。


 その増加率は、理論上の上限をわずかに逸脱していた。


 補正は可能。

 再計算も可能。


 だが。


 その誤差は、これまで一度も記録されていない種類の値だった。

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