第8話:鈴の音、遠き城
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第三の門が光に溶け、サダオミは門と門の間の、白く霞む境界へと帰還した。
かつての戦場も、焼け落ちた空もない。ただ、静寂だけがそこにある。
「…………」
サダオミはふと足を止め、自分の足元、境界の光に落とされた「影」に視線を落とした。
そこにはもう、自分を閉じ込める分厚い装甲はない。けれど、確かにそこに「白」がいることを、サダオミは胸の奥の熱で感じていた。
「……これからも、一緒だ」
誰に聞かせるでもない、独り言。
それは自分自身への、二度と裏切らないという誓いだった。
サダオミは顔を上げ、次なる第四の門を見据える。
不意に嫌な予感――。
いや、この流れから察するに、またあの「師匠」が出てきたりはしないだろうか。
サダオミはおそるおそる、境界を踏み越えた。
◇
門を潜った先。
視界の先には、遠巻きに漢遼迩の城が見える。
「…………」
身構える。
だが、待っているはずの「敵」の気配はない。
不意に、チリ、と。
静寂を裂いて、懐かしくも澄んだ鈴の音が響く。
「……あぁ、鈴。久しぶりだね。元気にしてる?」
サダオミは穏やかに問いかけた。
そこに鈴の姿はない。
それでも――。
鈴の音が、嬉しそうに一度だけ大きく鳴り響く。
それに答えるように、巨大な門が音もなく開いていった。
サダオミの懸念を余所に、世界はただ、彼を祝福するように通した。
◇
サダオミが第四の門を出た、その瞬間。
人知の及ばぬ高天――「座」が並ぶ静寂の空間に、決定的な不協和音が走った。
それは、感情による驚きではない。
世界線・因果・分枝を司る演算機構が、未知の最適解を検知したことによる、純粋なシステム上の不整合だ。
第四の門には、該当するアルゴリズムが存在しない。
かつての極致はすでに第一の門で消費され、今の個体を遮る壁が、この階層には残されていない。
『……例外個体の出力が、規定値を大幅に超過している。これ以上の存続は、リスクと判定――』
排除の論理が、静寂を塗り替えようとした。
だが。
『――第一座、安定域内。……継続観測』
全ログを把握する「全視」の宣告。
その一言で、軋んでいた全ての歯車は、強制的に沈黙させられる。
例外個体が叩き出し続ける異常なまでの利益が、全システムに存続を命じていた。
それが、誰の望みなのか。
「座」を構成する関数たちには、それを問う機能すら備わっていない。
ただ、サダオミが進むたびに。
観測誤差が、わずかに増加する。
その増加率は、理論上の上限をわずかに逸脱していた。
補正は可能。
再計算も可能。
だが。
その誤差は、これまで一度も記録されていない種類の値だった。




