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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 6 部 入学試験 編
289/340

第6話:宿題と灰の空





  白く崩れゆく学院の景色の中、ロイエルが立っている 。


  もう戦闘は終わっている 。


  勝敗も語らない 。


「……ロイエ」


  名を呼ぶ 。


  今度は、間違えずに 。


  ロイエルの肩が、わずかに揺れた 。


「今度は、ちゃんと言葉にするね」


  視線を合わせる 。


  逃げない 。


「ありがとう 。  楽しかった」


  あの日の中庭、爆発寸前の魔法、くだらない言い合い 。


  かつて言葉を惜しみ、親指ひとつで背を向けたあの日 。


  その喉の奥に押し殺していた本音を、今度はその喉を震わせて伝えた 。


「――さよならだ」


  一瞬の静止 。


  次の瞬間 。


「さよならは聞いてあげないわっ !」


  即答だった 。


  涙声ではない 。


  拒絶 。


「勝手に消えて、勝手に決めて……っ !  今度はこっちのわがままを聞きなさいよ」


  強がりが、少しだけ崩れる 。


「……また、来てほしい 。  ラナクロアへ」


  それは、少女が孤独の果てに辿り着いた、たった一つの未来指定 。


「……返事も聞いてあげないんだからっ !」


  サダオミは、ほんの少しだけ笑った 。


  ああ、そうか 。


  これは別れじゃない 。


  支払いきれなかった代償を果たすための、宿題だ 。


「……うん。聞かれても困るしな」


  次の瞬間、空間が白く染まり始める 。


「ちょ、ちょっと、今の返事ちゃんと――」


  言葉の途中で、ロイエルの輪郭が光に溶けていく 。


  最後に見えたのは、悔しそうで、でもどこか安心した瞳だった 。





  白、静寂 。


  天界の無機質な廊下で、サダオミは一人、立っていた 。


「……やれやれ」


  胸の奥が、少しだけ軽い 。


  親指で済ませた別れの代償を、少しは払えただろうか 。


  だが、感傷に浸る時間は与えられない 。


  師匠、ロイエル 。


  つまりこれは、自分を形作った“世界”の再訪 。


「……次は、あの世界だよな」


  世界を滅ぼした存在 。


  すべてを終わらせた、あの絶望 。


  重厚な第三の門を押し開く 。


  視界が反転する 。


  焦げた匂い、焼け落ちた空、崩れた大地 。


  案の定、出迎えたのは地獄のような戦場の景色だった 。


 


  そして 。


 


  そこに立っていたのは――白だった。

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