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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 6 部 入学試験 編
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第5話:親指の代償




 蹴り破られた扉が、サダオミの鼻先をかすめて壁に激突した。


 硝煙と魔力の残滓の中から、燃えるような赤髪が揺れる。


「……死ねっ」


「うわっ、ちょっ、姐さん! 落ち着いてくださいっ! まずは挨拶! 挨拶しましょ!? おひさしぶっあぶなっ!」


 挨拶代わりの超高精度な魔術を、サダオミは首を傾げて回避した。


 背後の壁が、音もなく円形に削り取られる。


 ――と、いうか。


 ――ここまで魔術ヤバかった!?


 いちいち殺しにきている。


 以前の理路整然とした正論の魔術ではない。


 今そこにあるのは、拒絶。

 磨き上げられた年月そのもの。


「……いつまで」


 静かな声。


「いつまで、姉様と間違えてるのよっ!」


 魔力が跳ね上がる。

 多重魔法陣。

 退路、消失。


「僕はロイエル・サーバトミンよ」


 サダオミの呼吸が止まる。


 学院の回廊。

 爆発する回復魔法のテスト。

 くだらない言い合い。


「来てくれて、ありがとね!」


 最高の笑顔。


 親指。

 背中。


「あれ、別れだったの?」


 怒鳴らない。

 ただ、問う。


 サダオミは答えられない。


「僕はね、“またね”だと思ってたの」


 一歩。

 空間が閉じる。


「次に来たとき、ちゃんと成長して驚かせてやろうって思ってた」


 術式は、美しい。

 怒りで乱れていない。


「あなた、帰ってこなかった」


 封鎖、完全。


「終わるなら」


 魔力が収束する。


「終わるって言いなさいよ」


 その瞬間。


 ロイエルの瞳の奥で、何かが揺れた。


 零れはしない。

 でも、溢れかける。


「僕は、あなたが戻る場所でいるつもりだった」


 呼吸が乱れる。


「それなのに」


 視線がぶつかる。

 怒りより先に、置いていかれた時間。


「ずるい」


 爆ぜた。


 絶対封鎖。

 逃げ場ゼロ。


 それでも。


 サダオミは抜ける。


 歪み。

 継ぎ目。

 理の盲点。


 連続回避。


 衣服が裂け、頬が切れ、呼吸が荒れる。

 顔が引きつる。


 だが崩れない。

 心を乱せば、たちまちに詰む。

 そんな領域のやり取りが続く。


 やがて。


 一枚、また一枚と魔法陣が消えていく。


 ロイエルの魔力が尽きる。


 膝が落ちる。


 荒い呼吸。


「……あ~あ」


 視線を逸らす。


「結局、サダオミはサダオミなのね」


「いや、超本気だったよ!?」


 即答。


「見て!? 顔! 引きつってるでしょ!? あれマジで死ぬやつだった!」


 ロイエルが、じっと見る。


 本当に、ギリギリだった顔。


 沈黙。


「……僕が納得してないの」


 怒っていない。

 ただ、悔しい。


 サダオミの表情が、ほんの少しだけ変わる。


「……そっか」


 それ以上は、言わない。


 言えない。


 胸の奥で、遅れて理解する。


 ――今度は、言葉で言うべきだった。


 静寂。


 残ったのは、まだ終わっていない関係だけだった。

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