表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 4 部 風鈴 編
209/214

第五十二話:白磁の再臨





「鈴、行こうか」


 俺は、果ての城で鈴に優しく声をかけた。


 今のこの城は、鈴にとって安らげる大切な居場所になっている。


 だからこそ、俺は安心して、彼女を連れて外の世界へ踏み出すことができた。


 目指すは火の国。


 かつて剣を、そして言葉を交わしたあの王との約束を果たすためだ。


 鈴の小さな手を握り、俺は「ことわり」を指先に集めた。


 空間の「継ぎ目」をなぞり、俺はそこを無理やり押し広げる。


 何もない空間が滑らかに裂け、淡い光を湛えた「狭間」が姿を現した。


 俺は鈴の手を引いて、その中へと足を踏み入れる。


 周囲を流れるのは、星の瞬きを溶かしたような、不思議な光の粒子だ。


 物理的な距離が、この理の道の中では数歩の歩みへと圧縮されていく。


 俺は、この青白く輝く回廊を、確かな足取りで真っ直ぐに歩いた。


 出口が滲み、俺たちはそこから現世へと踏み出す。


 漢遼迩の冷気は消え、代わりに火の国の焦げ付くような拒絶の風が、俺たちの頬を撫でた。


 気がつけば、俺たちは巨大な城壁の直上に立っていた。


 目の前には、凍り付いたように目を見開いた羅刹がいる。


「やっ、羅刹」


 俺は、以前と変わらない軽い調子で片手を挙げた。


「また会いに来たよ」





 羅刹は、城壁の上でその「光景」に思考を停止させていた。


 虚空から湧き出すように現れた、未知の光の道。


 そしてそこから優雅に歩み出てきた、一人の影。


 その姿を目にした瞬間、羅刹は己の心臓が不快なほど強く跳ねるのを感じた。


 かつて見た時よりも、さらにその面差しは酷く、残酷なまでに美しくなっていた。


 風に舞う柔らかな髪、白磁よりもなお白い肌、知性を湛えた瞳。


 その立ち姿はどこまでも清らかで、火の国の荒々しい空気の中でさえ、そこだけが別の理で動いているかのように澄んでいた。


 視線を奪われ、言葉を失う。


 以前対峙した時の記憶にあるあの「強者」は、今やこの世のものとは思えぬほどに流麗な姿へと変貌していた。


 だが、その肢体から溢れ出しているのは、以前のような剣気ではない。


 ただそこに立っているだけで、周囲の空間が彼女に跪いているような、圧倒的な全能感。


 その人智を超えた姿と強靭な気配の矛盾に、羅刹は腰の剣に手をかけることさえ忘れ、ただ魂を奪われていた。


「……何を変えた。何に触れた、貴様」


 絞り出した声は、畏怖、そして抗いがたい「魅了」に震えていた。


 完成されたその存在を前にして、羅刹の心はどうしようもなく惹きつけられていく。





「変わったつもりはないんだけどね。……でも、ちゃんと話しに来た」


 俺は一歩、踏み出した。


 羅刹は後ずさることができなかった。


 向けられた微笑みに毒気を抜かれ、王としての自負すらもが、蕩けるように崩れていく。


「俺は、俺だよ。羅刹」


 俺は、緒方刀座として。


 約束を果たしに来た一人の「俺」として、彼の瞳を真っ直ぐに見据えた。


「改めて、よろしくな。……王様」





 羅刹は、己の中に芽生えた、熱い感情に戸惑っていた。


 この「異物」を、自分の国に入れるわけにはいかない。


 そう理性が告げているのに、魂がこの美しき全能者を求めていた。


 それは王としての自負さえも溶かす、絶対的な「魅了」という名の敗北だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ