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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 4 部 風鈴 編
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第五十一話:岐路と再始動





 漢遼迩かんりょうじの王都へ続く、乾いた街道。


 一世は、供の兵たちを前方に下げ、一人沈黙の中で馬を歩ませていた。


 背後に遠ざかる「最果ての城」の残像が、今も網膜に焼き付いて離れない。


 ――あそこは、もはや我らの知る漢遼迩ではなかった。


 誰に強制されるでもなく、ただそこに在るだけで呼吸が整うような、不思議な静謐。


 一世は、王都の書庫の奥、埃を被った記録の中に眠る畏怖に近い伝承を思い出していた。


 理を書き換え、形を持たず、ただそこにあるだけで世界を調律する存在――「天使」。


 馬鹿げたお伽噺だ、とこれまでは切り捨ててきた。


 だが、今の刀座が放つあの「超然とした静けさ」を説明するには、その古びた単語以外に当てはまるものが見当たらない。


 一世は空を仰いだ。


 あにには、ありのままを報告するしかない。


 最果ての城は落ちぬ。


 そして、あそこにいるのは


 ――もはや、人の法やさがで縛れる器ではない、と。





 一方、城の外れは、夜になると急に静かになる。


 サダオミは城壁の内側に立ったまま、空を見上げていた。


 雲は薄く、星がところどころ覗いている。


「……まだ起きてたんだ」


 背後で、鈴の音がちり、と鳴った。


 振り返ると、鈴が小さく手を振っている。


「うん。ちょっとだけ」


 理由は、うまく言葉にしなかった。


 言葉にすると、今の静けさが壊れてしまいそうだったからだ。


「ね。また行くんだよね」


 鈴の問いは、確認に近い声音だった。


「うん」


 姐さん(ミレイナ)の魔法は通る。


 確認は、もう終わっている。


 残っているのは、行く理由だけだった。


「……火の国の王。折れない人だったね」


 鈴の言葉に、サダオミは静かに頷いた。


「助けると、あの人は立てなくなる。だから、約束を続けに行くんだ」


 続けるのは、折るよりもずっとしんどい。


 サダオミはその「削れる痛み」を、魔法を知る前からずっと知っている。


「羅刹に渡したのは、正解でも答えでもない。ただの、続け方だから」


 一拍置いて、サダオミは空から視線を外した。


「一回で終わらせないって決めたなら、途中でいなくなるのは、もっと無責任だろ」


 鈴は、少し間を置いてから、小さく笑った。


「……ほんと、遠い散歩だね」


「うん」


 サダオミは、鈴の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「だから、置いていかないよ」


 言葉を選ばずに、そう言った。


 鈴は、一瞬だけ黙ってから、小さく頷く。


 鈴の音が、ちり、と鳴った。


 サダオミは深く息を吸って、ゆっくり吐いた。


 二度目に会いに行くための準備は、道具じゃない。


 こうして、同じ夜を並んで過ごせるかどうかだけだ。

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