第四十九話:再会と火種
■
◇
同じ漢遼迩の中とはいえ、馬車で数日。
たどり着いたのは、王都の華やかさとは対極にある、切り捨てられた「最果て」の地だった。
鈴は馬車の窓から、流れていく景色を眺めていた。
父である王から「ここへ行け」と命じられた場所。
そこはかつて、罪人や行き場のない者が最後に辿り着く死地だと聞かされていた。
だが、馬車が止まり、一世に手を引かれて降り立った鈴が目にしたのは、立ち並ぶ家々から上がる炊飯の煙と、忙しなく、けれど活き活きと動く人々の姿だった。
鈴には、ここが以前どうであったかを知る由もない。
ただ、この荒んだ空気の残る土地に、場違いなほどの平穏が満ちていることだけが、奇妙に感じられた。
その光景の中心に、以前と変わらぬ――けれど、どこかこの土地に根を張ったような佇まいの緒方刀座が立っていた。
◆
数日前から、粥の中に干し肉や見たこともない野菜が混ざり始めていた。
民たちの間では「姫様がこちらに向かわれているからだ」「手土産に違いない」という噂が、希望混じりに広がっている。
俺がそういう風に仕向けたからだ。
城の門前に馬車が止まり、鈴が降りてくる。
俺は手元の手拭いで指先を拭うと、護衛として主を迎え入れるべく、あらかじめ用意しておいた袋を彼女に手渡した。
「……刀座」
鈴が、俺の名を呼ぶ。
彼女は差し出された袋を、何かも分からぬまま、困惑した様子で抱えた。
その袋からは、ここ数日民たちが口にしていた、あの「豪華な粥」と同じ、芳醇な薫りがあふれ出している。
城門の周りに集まっていた民たちの視線が、一斉にその袋……および、それを持つ鈴へと注がれた。
「姫様が土産を届けてくださった。これからは、姫様も我らと同じ粥を食われる」
俺が短くそう告げると、民たちの間にさざ波のような歓喜が広がった。
鈴が何かを釈明する間もなく、彼らの目は「自分たちを捨てた側」への恨みではなく、「糧を運んできた救世主」への敬意に塗り替えられていく。
「……刀座。私は、こんなの……」
戸惑いながら袋を抱きしめる鈴の手を引き、俺はいつものように無頓着に笑って見せた。
「いいからいいから。……将軍も、一緒に食べよ?」
民たちの温かい視線に背中を押されるようにして、俺は二人を城の奥へと促した。
こうして、鈴はこの「果て」の地に、誰からも拒絶されることなく受け入れられた。




