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第四十一話:音のない合流
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漢遼迩の夜は、乾いた風が吹く。
石造りの城壁が昼間の熱をわずかに残していた。
それが冷たい空気と混ざり合って、独特の匂いを立てている。
俺は一人、城の最上層にある物見の縁に立っていた。
魔法は、本来なら形のないものを繋ぐ。
かつての俺なら、師であるエレシが説いた「想いを紡ぐ」という言葉を、ただの比喩として受け取っていただろう。
けれど、今の俺は知っている。
かつて見たミレイナの背中。
距離を無に帰し、世界を書き換えるあの鮮やかな理。
今の俺の指先には、あの時と同じ熱が宿っている。
その気になれば、物理的な距離など今の俺にとっては何の障壁にもならない。
だが、今はまだ、そのスイッチを完全に押し込む時じゃない。
将軍が、ここを安全だと認めるまでは。
王が、俺の作った場所を居場所として許すまでは。
力任せに鈴をここへ引き寄せるのではなく、まずはこの細い糸を、確かな「居場所」の記憶として彼女の元へ伸ばす。
物理的な体は重く、大地に縛られている。
けれど、この音のない合流だけが、俺たちが今、同じ月を見ていることを証明していた。
俺は深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
今は、これでいい。
次に彼女の足音が本当にこの城に響くとき、俺は胸を張って迎えられる場所を作っておくだけだ。




