表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 4 部 風鈴 編
196/218

第三十九話:護衛であれば護れ





 城の外が、少しだけ騒がしくなった。


 怒号ではないし、泣き声でもない。

 人が増えた時に生じる、あの独特の重さだ。足音が重なり、声が低くなり、視線が一点に集まり始める、前触れのような気配。


 俺は屋根の端で、木材を受け取る手を止めた。


 まだ何も起きていない。

 だが、空気はもう動いている。


 来る理由が、見えてしまった。


 城がある。

 人が生きている。

 奇跡と呼ばれかねない光景が、壊れないまま残っている。


 見に来ない理由が、ない。





 伝言は短かった。


 使いの兵が城の端まで来て、名も名乗らず、それだけを残した。


「護衛であれば、護れ」


 命令というより、確認に近い言葉だった。

 俺は答えなかった。答える必要のない種類の言葉だ。


 護る。

 何を。誰を。


 俺は城の内側へ視線を巡らせる。


 火のそばで鍋を覗き込む人。

 壁に寄りかかって目を閉じている人。

 器を抱えたまま眠ってしまった子ども。


 ここにあるのは数でも配置でもない。

 感情だ。





 刀なら、分かる。


 向けられた殺意を断ち、刃を止め、倒す。

 それは、俺が一番慣れているやり方だ。


 だが、これから向けられるのは刃じゃない。


 国に捨てられたという感情。

 逃げ場を失ったという怒り。

 それでも生きている自分への、苛立ち。


 そこへ、国の象徴が来る。

 王の娘。姫。


 刀で護れるか。


 俺はゆっくり息を吐いた。





 護る、という言葉を頭の中で転がす。


 斬らせないこと。

 近づけないこと。

 排除すること。


 それは全部、「後」の話だ。


 向けさせない。

 感情が刃になる前に、形を変える。


 その方が、俺らしい。


 鍋の方を見る。

 湯気は薄く、味も薄い。だが、人はそこに集まっている。


 腹が満たされると、思考は少し遅れる。

 怒りも、一拍遅れる。


 それでいい。


 奇跡である必要はない。

 贅沢である必要もない。


 ただ、「姫が来たから、今日は少しだけ違う」

 そう思わせられれば。





 俺は城の奥へ歩いた。


 次に置く屋根でも、壁でもない。

 火の位置、鍋の数、明日使える食材。


 刃の代わりに、配置を組む。


 護衛であれば、護れ。


 ああ。護るよ。

 ただし――斬らずに、な。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ