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木こりの一家

お姉ちゃん、最近どんな感じ?


妹の紗那がうちに顔を出した。

実は私は入院なんかしていない。


外務省で働いている。


たまに妄想暴走して、自分が入院しているんではないかとか、

72時間の世界がどうとか、妄想をしてしまう癖がある。


障害者雇用ながら、立派に公務員として働いているつもりなのだ。


紗那が久しぶりに家にきたときに、

母が父の介護の愚痴を聞かせたり、紗那の夫が経済力がないことを心配していたので、

そんな現実的な話ばかりで疲れていた様子だったので、思い切って聞いてみた。


「ねぇ、紗那、木こりになるって話ししたの覚えている?」

「覚えているよ!私、どうせ木こりになるしって思いながら生活しているよ。(笑)

それに寝る前に、小さい頃お姉ちゃんと遊んでた不思議な体験を思い出すんだけど、

いつも翌日になると忘れちゃうんだよね。」


「覚えててくれたの!嬉しいな。紗那だけじゃなく、うちの家族はみんな木こりになるんだよ。

心が純粋で綺麗な人だけがなれるんだよ。」


「そうなんだ(笑)じゃあシゲも木こりになるんだね。木を切るの似合いそうだね。」


「そうだよ、シゲもお父さんもお母さんも、みんな木こりになるよ。」


紗那はいつか自分が木こりになることを覚えていて、私に笑いながら「そうなりたい。」と言った。


紗那が帰った後、私は弟のシゲに言った。

「シゲ、うちの家族はみんな木こりになるんだよ。素朴な生活をするの。どう思う?」


シゲは「木こりなんて面倒くさいよ。」と否定したが、

「山小屋に住んで、朝は早く起きて、木を切る生活だよ。」と端的に説明すると、

「あ~~、なってもいいかもね。」

と考えを変えていた。


それが私にはとても不思議な事に思えた。

「木こりなんて大変じゃないか」って言われて終わると思ったから。


私は更にしつこく母にも言った。

「お母さん、うちの家族はみんな木こりになるんだよ。そういう話したの覚えている?」


「覚えていないよ、何それ。木こりって言葉を知らないよ。」


「北島三郎の与作の事だよ、木を切るんだよ。森を守る重要な役割だよ。」


「へぇ~、そんなこと言ったっけ?」


「この家族は、いずれおとぎの世界で木こりになるんだよ。

それぞれの山小屋で生活して、ポメラニアンを飼って、切った木で薪を作って食事を作るんだよ。

森の緑を守る重要な役割だよ。」


母は、家族と離れてゆっくり一人になりたいんだ、と言ってはいたものの、

不思議と木こりになることを否定しなかった。


やっぱりこの家族は、心が綺麗だから木こりになれる人たちなんだ。

私は確信した。


それから数日後、私は夫の大介について考えていた。

夫の大介はとても優しい旦那さんではあるが、彼は木こりの一員にはならない。


でもなぜ私と結婚をし、一緒に生活をしているの?


私と夫の大ちゃんは、住んでいる時間軸が違うため、48時間の世界で同じ空間を共有している。

大ちゃんは72時間の住人、私と家族じゃ24時間の住人なのである。


24時間の世界は夢の世界。

72時間の世界は機械的な世界、無駄も多いので時間が長くかかる。


私は72時間の世界と接点を持たねばならないため、

人生の伴侶として心根の優しい大ちゃんを選んだ。


なぜ、初恋の浜田君や元彼の真人を選ばなかったのか?

それは大ちゃんが妄想暴走症のよき理解者になってくれるからだった。


浜田君や真人は、私と住んでいる時間軸が違うという事を理解できない。

住んでいる時間軸が違うのに常に一緒にいないと我慢ができないくらい束縛が激しいタイプだった。


私は息がつまるため、程よい距離感を保ってくれる大ちゃんを選んだ。

もちろんそれだけじゃない。


実は浜田くんや真人はナルシストでチャラい。

女性を泣かせてばかりいる男性なのだった。


だから私は結婚相手にそんな軽い男性を選ばなかった。


私は72時間の世界に住む大ちゃんを通してあることに気づいてしまった。

夫の大ちゃんは、私を通して24時間の世界を味わっている。


私と接点を持たなくなると、72時間の世界に戻っていく。

私と接点を保っている時だけ、24時間の世界にいるのだ。

そして、私の存在を思い出す時だけ、24時間の世界にいると錯覚する。

72時間の世界にいることは忘れてしまう。


私はそういう夢を与えていることに気づいてしまった。


24時間の世界にいるものはやがて12時間のおとぎの世界へと帰る。

おとぎの世界では、古代の生活と魔法が使える世界で、

例えば、山小屋に住んでいるが空を飛びたいと思えば、飛行機に乗ることなく身体が宙に浮くし、

ご飯が食べたいと思えば、薪がどこからともなく集まって焚火のように自然に発火し、

飯盒が現れ、お米がたかれる。

時間はかからず、すぐに炊き立てに美味しいお米が食べられる。

それだけでお腹がいっぱいになるが、デザートのプリンまで卵1つで簡単に作れてしまう。


そんなおとぎ話の世界が12時間の世界なのである。


みんな72時間の世界から12時間の世界に行きたいと夢を抱くのだが、

実際には行くことはできない。





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