752話・知里・チサト・ヒルコの認知決戦!
「脳を作るといっても、実際には人間の記憶は脳内の電気信号の流れ♪ より厳密にいえば♪ 知里さんの認知をヒルコさんに移植して、二つの認知を融合して書き換えてしまうのですわ♪」
エルマが邪悪な顔でほくそ笑み、召喚した脳を電気信号に変えてヒルコに注入した。
「グガ……オ兄……チャン……」
巨大化した怪物のヒルコが動きを止めた。
「拒絶反応か、ヒルコの認知が出たら世界線を移動する。直行は皆がダメージを受ける『未来』が見えたら全力でキャンセルしろ!」
一見すると、この場では何も起こっていない。
しかし時空を捻じ曲げた異能バトルと、ヒルコの認知を書き換える奇妙な戦闘が続いていた。
ヒルコは千手観音のような手を振り回し、脳内をハックしようとする「知里の認知」に抗っている。
時折、自棄を起こしたように触手から核熱のビームが出るが、『未来視』で察知した俺がレモリーに指示を出し、相殺させる。
精霊と同化するドルイドモードに加え、元来の精密動作性の高さには定評があったが、ここへ来て魔力もかなり成長しているようだった。
「レモリー♪ 腕を上げましたわね♪ ひょっとして、あたくしたちもう〝勇者パーティ〟より強いんじゃないですか♪ 直行さんの『未来視』と『現実改変』もチートだし♪ 知里さん加えたらワンチャン、下克上も可能じゃないですかー♪」
世迷言を言うエルマは邪気に満ちた笑顔で、何度も知里の神経細胞をコピーし、ヒルコの脳内に転移させ続けていた。
「……お兄……ちゃん……」
ヒルコの口調に変化がみられた。
それまでの音声合成のような無機質な発声ではなく、舌足らずな知里の地声に近い。
しかし、現状それ以外は特に変化は見られずに、ヒルコは無数の手を動かし、〝俺たちには認知できない〟攻撃を繰り返している。
おそらく、高火力かつ理不尽な攻撃で、俺たちは何度も命を落としているのだろう。
俺がネオ霍去病から奪った『宿命通』を使ったとしても、書き換えられるのは俺自身の死亡パターンだけ──。
範囲攻撃による全滅エンドは、世界改変でなければキャンセルできない。
「……おい。知里の救助はまだか……。いいかげんにしないと、マズいぞ」
俺がわき目で和哉を見ると、かなり疲労している様子だった。
知らないところで、何度も平行世界を渡り歩いているのだと思われる。
「和哉さんも辛そうだ。エルマよ。ひとつ疑問なんだが、ヒルコの脳に知里さんの認知を付与するとして、それで本当に知里さんを助けられるのか……?」
そう問いかけた矢先、エルマの瞳が不自然に輝いた。
「来た! キタキタキタキタ! 知里さーん♪」
それと同時に奴は小猿のようにキャッキャと騒ぎ出しながら、両手を広げた。
「……イ……ぐぬ」
ヒルコの顔面に、埋め込まれるように捕らわれた知里が、ピクリと動いた。
「知里さーん♪ ヒルコさんと『コピーニューロン知里さん』との綱引きの隙に、ちゃっちゃと出てきてくださーい♪」
エルマの言葉に、ようやく俺は奴の真意を理解した。
ヒルコの脳に知里の認知を付与することで、まずは取り込んだ知里を解放する。
そうして今度は統合されたヒルコを、新たな知里として和哉のもとに送る。
しかし、ヒルコに捕らわれた知里の動きが鈍い──。
まさか内臓まで持っていかれたのか──。
だったら再度、太歳肉霊芝で内臓を作って──。
「ダメなんだお嬢。ヒルコに服を溶かされて……その、全裸なんだ。恥ずかしくて出られないじゃん。直行と……兄、もいるしさ……」
しかし、知里は思い切り頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。
俺の予想は外れてしまった。
「直行さんの目玉を潰しておきますから問題ありませんわ♪」
「おい!」
エルマが妙な液体を召喚して、本気で俺の目を潰そうとしたのを、レモリーが慌てて止めた。
「ダメだな知里。つまらないところで恥ずかしがるんじゃない。恥じらいは少女の特権だ。お前に二つ選択肢をやる。どちらか好きな方を着ろ」
和哉が用意したのは、スクール水着と貧乳用マイクロビキニ。
パッと見たらテラテラした紺色の化学繊維と黒い紐だが、俺には分かる、
俺が憧れたインフルエンサー、和哉。
この男は筋金入りの変態だった。
「お兄ちゃん。身内の恥をバラ撒かないでくれる……」
知里は涙目になりながら、両方のアイテムを取ると、スクール水着を装備した。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「このお話がアップロードされた26年4月10日ごろは、人類史上、有人宇宙船が地球からもっとも遠い地点に到達したんですよね♪」
知里「地球からの距離は40万6700キロ余り、月の裏側も通ったんだって。CGじゃない月の裏側の映像がバンバン撮られたんでしょうね」
小夜子「アポロ計画とアルテミス計画は何が違うの?」
直行「さっくり言って『月面着陸を目指した』アポロ計画と、『月面での持続的な駐留』を目的としたアルテミス計画。月面基地や都市なんて、ずっと先のことだろうけどな」
知里「アニメやSFファンだと、『ついにここまで来たか』と、『まだこの程度の宇宙進出なのか』という、正反対の意見が自分の中に共存していて不思議な気持ちになるよね」
エルマ「時間の更新は4月17日を予定していますわ♪ 『みんな! 抱きしめて☆宇宙の果てまで~』お楽しみに☆」
知里「マ〇ロスFからもう18年。嘘……だよな」




