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第11話 ヒーロー、再び

 バット・バイヤードは言った。最悪のパターンを回避するためにリカルメをこの場から遠ざけたと。

 しかし、わからない。変身できない俺相手ならば、むしろリカルメの能力で俺を感電死させた方が確実じゃないか?


 バットの洗脳能力は脅威だが、戦闘特化というわけではない。

 以前戦った時も、一般市民を洗脳し、盾に使ったりした程度で、こいつ本体と戦う分にはそこまで苦戦はしなかった。


 リカルメがこの場にいると何がマズイ?

 こいつは一体何を恐れているんだ?



「そぉれ!」



 バットは洗脳以外の能力を持ち合わせていない。こいつの戦闘スタイルは、普通に殴る蹴るの一点張り。


 しかし、油断はできない。バイヤードの身体能力は非常に高く、どんなに雑魚でも最低1t弱のパンチ力は持ち合わせている。

 そんなもの生身で喰らったら即死だ。


 とりあえずは避けながら斬撃を放つタイミングを見計らう。

 村で放ったこの剣の斬撃、ディストラクションスラッシュだったか?

 あれは|レヴァンテインの必殺技ディメンションバニッシュ並みの威力があった。つまり、この斬撃を一発当てるだけで、うまくいけばバットを倒せるかもしれない。


 ただ、腕に大きな負担がかかるからそう何発も打てるものじゃない。

 確実に当てられるタイミングを掴むんだ。


 まずは奴から距離を取らなければいけない。俺の斬撃は遠くからでも当たるが、バットは遠距離の攻撃手段を持っていない。


 リカルメの決闘の時とは真逆だな。


 ……あれ、まてよ? そういえばあの時もなにか不可解なことがあった気がする。なんだったっけ……?



「ほらほらぁ~! 避けてるだけじゃどうにもなりませんよぉ~!」



 そうだ、あの時ほんの僅かだが、戦いの最中にバッテリーが回復していた。

 戦闘中だから、減ることはあっても増えることなんてないはずなのに。


 あの時いったい何があった? バッテリーが増える前、いったい何が……あ。



「そうか、わかったぞ。変身する方法が!」


「おやぁ~? 気づかれちゃいました? でももう遅いです! リカルメ様はアテナさんを追ってここにはいません。捕らえた後はアテナさんを拘束したのち自害するように指示してあります」


「なんだと!?」



 くそ、せっかくこの状況を打破できると思ったのに!

 いや、まだ間に合う。バット本体を殺せばリカルメの洗脳は解けるはず。


 リカルメが自殺する前に俺がこいつを当てれば!

 バットの攻撃が一瞬止んだ。そのわずかな隙を俺は逃さない。

 トリガーを引き、黒い剣を構える。



《----GENESIS DESTRUCTION SLASH----》



 白い斬撃が空間を切り裂く。


 天井は破れて、青空が見えた。そしてガラガラと音を立ててテント全体が崩れていく。


 でも、バットの赤い血の色はどこを探しても見当たらない。


 代わりに最悪なものが見えた。

 不敵に空を舞うバットと、山賊たちを引き連れ帰還してきたスパイダーの姿だ。

 おそらく、隣に並んでいる細身の男がスコーピオンだろう。


 腕が、痛い。

 今の一撃でバットを倒せなかったばかりか、バイヤード三人衆が戻ってきてしまった。そのうえ、俺はディストラクションスラッシュの反動で腕が痺れている。


 完全な、詰みだ。



「おいおい、レヴァンテインだけじゃねーか。リカルメはどうしたんだよ?」


「予定通り洗脳済みなのでご安心くださぁ~い」


「ヒヒヒ、本当にレヴァンテインだ……。おい、俺にやらせてくれよ。こいつに殺された恨み、今こそ晴らすチャ、チャンスだ」



 スコーピオンも元の世界のやつと同一個体か……今さら驚かねーよ。もう、驚いてる暇もない。


 さてどうする。本当に腕を千切って、バットだけでも倒すか? そうすれば、リカルメの洗脳が解けて、2人だけでも助けることができる。


 ……2人? 俺は今、リカルメにも助かってほしいと思ってるのか?


 ハハハ、昔の俺が聞いたら怒り狂いそうだな。



「なんだこいつ、笑ってるぞ気色悪い」


「死の恐怖で壊れちゃったんでしょぉ~? かわいそぉ~に」


「い、いいから。お、ぉれに殺させろ! 俺の毒でじわじわ殺してやる!」



 スコーピオンの殺意を無視して、俺は黒い剣に嵌めたディスクを手動で回す。



《----Disk Set Ready----》


 リカルメ、アテナを頼んだぞ」



 再び、禍々しい待機音が場に鳴り響く。今度は、外さない。

 狙いをしっかりバットに向ける。



「言われなくても、やってやるわよ!」


「……え?」



 女の子の声が、聞こえた。


 それはきっと、憎むべき悪の怪人の声。


 でも、今の俺には救いの女神の声にも聞こえた。



「リカルメ……!? どうして――」



 崩れたテントの残骸によじ登り、腕を組んだツインテールの少女の姿が目に入る。



「バカな!? いったいどうやって私の洗脳を!?」


「私の回復魔法です」



 アテナも無事だ。

 木の陰からひょっこりと現れたアテナはリカルメの隣へ並んだ。



「リカの血を通常の状態へと戻すことで洗脳が解けると思って、やってみたら成功しました」



 さらりと言ってのけるが……バットを倒さずに洗脳を解くなんて、俺やユリ博士にもできなかった芸当を。


 そうか、結局アテナは逃げたんじゃなくて、没収された杖と宝玉を探していた、ということか。

 そして魔法でリカルメの洗脳を解き、ここへ駆けつけた。



「ふ、フフ。さすが、魔公爵が欲しがるだけのことはありますねぇ~。大した力だ」


「魔公爵!? あなた今そういいましたか!?」



 アテナが驚いた表情を見せる。魔公爵?



「まあ詳しい話は雑魚を一掃した後でしましょう」



 リカルメが電撃を拳に溜め、放とうとする。

 そうだ、リカルメの洗脳が解けているなら、あれが試せるかもしれない!



「リカルメ! その電撃を俺に撃て!」


「は、はぁ? 何言ってるの!? 一人が寂しくて頭おかしくなったの!?」


「しまった!? させませんよぉ!」



 バットが俺の考えに気づいたのか空から急降下してくる。



「急げ! 早く撃て!」


「……もう! どうなっても知らないわよ! えい!」



 リカルメの手から紅い稲妻が俺に向かって放たれた。

 アテナは突然のことに目を塞いでしまう。安心してくれ、なにも自殺しようってわけじゃない。


 凄まじい勢いで迫ってくるその雷撃を、俺は受け止めた。


 腰から取り外した変身ベルト、レイバックルで。



「な……! なにやってんの! ベルト壊れちゃうわよ!」


「どうせこのままでも使い物にならないんだ! 試してみる価値はある!」



 人間態での雷撃とはいえ結構痛い。

 当然か、アテナによれば魔物を殺すことくらいはできるらしいからな。だけど、俺が感電死せずにまだ生きているということはどうやら読みが当たっているらしい。


 このベルト、リカルメの稲妻を喰らっている! 

 一体どこまで変態性能なんだ。ユリ博士の発明品は。


 リカルメの雷撃が止み、レイバックルのランプが点灯した。



《----The remaining battery 15%----》



 バッテリーが切れたはずのベルトから電子音声が聞こえてきた。

 よし、一気に15%も充電できた。これで、レヴァンテインに変身できる。



「おのれぇ!」



 バットがそのまま俺に突進してくる。

 バッテリーの回復を阻止できなかったなら、せめて俺の変身を阻止しようということか。


 だけど、遅い。俺がこの一年間に何回変身してきたと思ってるんだ?


 お前の腕が俺に届くまで三回は変身できるぜ。


 レイバックルを腰に装着。

 黒い剣から白のエーテルディスクを取り外し、レイバックルにセット。



《----Preparation----》



 待機音が鳴ったら、右手と左手を交差させ大きく、そして素早く一回転させる。

 右手でレバーを倒しながら、叫ぶ。



「変身!」


《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》



 ベルトから放出された粒子が俺の身体を纏い、スーツを形成する。

 俺はこの一瞬で、白き戦士。レヴァンテインに変身した。



「はぁッ!」



 向かってくるバットに向けて俺は黒い剣を振り下ろす。

 変身前では重くて仕方なかったこの剣も、今では発泡スチロールのように軽い。



「ぐぅっ!」



 直前で軌道を変え、本体への直撃は避けたようだが、あの醜い翼を一枚切り落とすことは成功した。

 これでやつは飛行能力すら失ったということだ。



「おい、バット!」


「れ、レヴァンテインだ……。こ、殺す殺す殺すコロス!」



 スパイダーとスコーピオンがバットの元へ駆け寄る。

 俺もアテナをいつでも庇えるように二人の元へ向かった。



「助かったぜ。これで俺も戦える」


「ユリ博士……いったいどういう場面を想定したら、雷をバッテリーに変換する機能なんてつけようと思うのよ……」


「なんだかよくわかりませんが……。これでようやく三人で共闘できるんですね!」



 ああ、だけどそれはあちらさんも同じことらしい。

 翼をもがれたバットを中心にバイヤード三人衆がこちらを向いている。



「ハッ、今さらレヴァンテインが一人増えたくらいなんだってんだ。あっちのまともな戦力は二人。対してこっちはバイヤード三人と部下たち二十人だ」


「いぃ~え。山賊たちは下がらせなさい。我々が本気で戦う以上、彼らは足手まといにしかなりません」


「くけけ、だとよ雑魚ども。て、てめぇらは荷物持って、う、失せヤガレ!」


「「「は、はい!」」」



 バイヤードに威圧された山賊たちはテントに積まれていた荷物を持って逃走した。

 だがそれは俺としてもありがたい。山賊を蹴散らすのはわけないが、うちのリカルメは勢い余って何人か殺しかねないからな。



「アテナ、ちょっとだけ目をつむっていて。すぐに終わ――」



 リカルメが言葉を言い切る前に、アテナがリカルメの手を握った。



「大丈夫だよ。今度こそ、私はリカを受け入れるから。だから、本当の姿を私に見せて?」


「……ッ! ありがとう。絶対に勝ってみせるから!」



 リカルメは紅い稲妻、スパイダーは白い糸、スコーピオンは紫の毒液。

 三体のバイヤードは実体化したエネルギーを身に纏い、叫んだ。



「「「擬態解除!」」」



 グロテスクな音を立てながら、バイヤードたちは怪人としての姿をあらわにする。


 この場にいるのは一人のヒーローと一人のエルフ、そして四体のバイヤードだ。

 コウモリ、蜘蛛、サソリ、そしてクラゲ。まるで動物園だな。


 いや、今からこの動物たちと死闘を繰り広げるのだからサーカスの舞台とでも言うべきか?



「戦う前に確認しておくけど、元幹部である私に、少しでも忠誠心が残っているやつはいるかしら? もしいるなら、そいつだけは苦しまずに逝かせてあげるわ」


「レヴァンテインに組したあんたを敬うバイヤードがいるとでも?」


「それもそうね。愚問だったわ、全員まとめて死になさい!」


「だからそれ、どっちにしろ殺してんじゃねーか」



 まあいい。俺もバイヤードは絶滅させるつもりだ。この三体にはその礎になってもらおう。

 リカルメは……とりあえず保留だが。


 そういえば、気になっていたことがもう一つあった。

 いくらリカルメがザコ幹部とはいえ、下っ端であるスパイダーに傷一つつけられなかったのはさすがにおかしい。少し、確認しておくか。



「ステータススキャン」



マスク内側のバイザーに、バイヤード三人衆のスペックが映し出される。



【スパイダー・バイヤード】

■身長:193.1cm

■体重:93.2kg

■パンチ力:8.8t

■キック力:13.5t

■ジャンプ力:23m(ひと跳び)

■走力:2.3秒(100m)



【バット・バイヤード】

■身長:200.3cm

■体重:68.9kg

■パンチ力:6.8t

■キック力:11.5t

■ジャンプ力:50m(ひと跳び)

■走力:3.6秒(100m)



【スコーピオン・バイヤード】

■身長:183.1cm

■体重:80.2kg

■パンチ力:7.6t

■キック力:14.3t

■ジャンプ力:32m(ひと跳び)

■走力:3.0秒(100m)



 ……あれ?

 スキャニングモードのまま、隣のリカルメを見る。



【リカルメ・バイヤード】

■身長:188.5cm

■体重:78.0kg

■パンチ力:4.8t

■キック力:9.1t

■ジャンプ力:35m(ひと跳び)

■走力:4.1秒(100m)



 おかしいぞ、リカルメがザコい。いや、リカルメはザコなんだが、そういう意味でなく。


 あくまでリカルメは幹部メンバーの中では一番弱いというだけで、他の雑魚怪人には劣らないスペックを持っていたはずだ。


 もしや、アテナとの隠居生活を経て弱体化している……?

 いや、まて。元の世界でもリカルメとゲネシスフォームの強さが同格だったことから、リカルメの弱体化の線は無い。


 ということは、バイヤード三人衆の方がが強くなっているのか?

 それも、幹部クラスに匹敵する強さに……!



「お前ら、その力一体どこで手に入れた?」


「え、力?」



 リカルメにはこのスペックが見えていないため不思議そうにこちらを見つめる。

 怪人態でキョトンとされてもかわいくねえよ。



「さあぁ~? この世界の空気に触れていたらいつの間にかこうなってたんですよぉ。覚醒、とでもいいましょうかねぇ~?」


「覚醒ですって……? まさかそんな簡単に」


「おやぁ~? もしかしてそちらの元幹部様は覚醒なされてないのですかぁ~? 貴女ほどのバイヤードなら覚醒くらい当たり前だと思ってたんですがねぇ~?」


「え? あ、し、してるわよそれくらい! 覚醒だか学生だか知らないけど、パワーアップした私の力思い知らせてやるわ!」



 強がりを言うな。その程度で覚醒後なら逆に問題だ。真のザコルメだ。



「い、いつまでくっちゃべってんだよ……早く殺らせロ!」



 スコーピオンが殺人衝動を抑えきれずに俺たちに襲い掛かってきた。狙いは俺か。


 奴の武器は腰から生えている尻尾だ。尻尾の先端は針のように尖っており、そこから注射器のように相手の身体へ毒を注入する。


 それだけ聞くと、全身を特殊合金繊維のスーツで覆われた俺には無関係のように思えるが、奴は毒の他にも強力な酸を吐くことができる。それでスーツを一部溶かしてから、露出した肌に毒を打ち込むことが出来るのだ。


 だが、それさえわかっていれば奴の行動を読むことはたやすい。

 尻尾の動きにさえ注意していればいいのだ。奴らの身体能力が上がったところでどうした? その程度俺の経験で覆してやる。


 いきなりスコーピオンは尻尾から酸を吐いてきた。先端が細いため量は少ない。

 だが、液体は出口が細いほど勢いよく飛び出すもの。間一髪で直撃は避けたが、肩に一部かすってしまった。



「ちっ、まあ肩は装甲が厚いからから問題ない」



 とはいえ、食らい続けたらさすがにマズイ。この黒い剣で反撃しなくては。


 俺は黒い剣でスコーピオンに斬りかかる。

 しかし、当たらない。覚醒して幹部並みの身体能力を手に入れただけあって、ゲネシスフォームでは太刀打ちできないか。


 なら、ガンドルフォームだ。

 身体能力自体はゲネシスと大して変わらないが、射撃の攻撃力と命中率は圧倒的にこっちが上だ。



「エーテルチェンジ!」


《----Complete LÆVATEINN GANDR FORM----》



 ゲネシスの白い装甲が身体から分離し、緑の装甲に再構成される。



「ヒヒ、使わせるかよ!」



 ガンドルフォームにフォームチェンジ完了しようというその時に、スコーピオンは俺から距離を取った。遠距離攻撃のできるこのフォームには意味のないことだが……。まさか!



「リカルメ! アテナを守れ!」



 そう叫んだが、リカルメが返答する前にそれが無理だということを悟った。


 リカルメは現在スパイダーと交戦中だ。数十本の触手を伸ばしスパイダーを感電させようとしているが、二本の腕から放たれる糸と、二本の槍で捌ききられている。

 そんな状態であいつがアテナの元に向かえばスパイダーまでついてきて対処しきれなくなるだろう。



「……だったら俺が!」



 あと数秒でフォームチェンジが完了する。

 だが、逆に言えばこの数秒間は装甲も剥がれたゲネシスフォーム以下のスペック。間に合ってくれ!



「誰かを忘れてませんかぁ~? それ!」



 横から声が聞こえた次の瞬間、俺はバットに蹴り飛ばされていた。


 木に身体をぶつける直前にガンドルフォームへ変身が完了したため、そこまで大きなダメージはない。

 だが、やつらに時間を与えてしまったようだ。


 銃口を備えた右腕をスコーピオンに向ける。しかし、弾を撃つことはできなかった。なぜなら奴はアテナを人質に取っていたからだ。



「こ、こいつに毒を注入されたくなきゃ、変身を解くんだな。それから、リカルメ、ててて、てめーも人間態になれ」



 尻尾の針を構えて、俺たちにそう宣言する。

 イカれた言動に惑わされてしまうが、こいつは結構頭脳派だったのを忘れちまってたぜ。



「アテナ!」


「おっと、そっちには行かせねえぜ」



 アテナに駆け寄ろうとするリカルメの前にスパイダーが立ちふさがる。

 同じように俺とアテナの間にはバットが立っていた。



「さっさと、人間に擬態しな。大事な親友じゃなかったのか?」


「くっ……!」



 リカルメは要求を受け入れ、怪人態を解除した。



「卑怯な……! 性根が腐ってるのはどの世界にきても変わらずか」


「な、なななんとでも言え、俺はてめーさえ殺せればなんだっていいんだ」


「まぁ、アテナさんは我々にとっても大事な商品でぇすので、なるべく殺さずに済ませたいところですねぇ~。あ、そうだ。せっかくだからこの翼治してもらえませんかぁ~? 痛くて痛くてしょうがないんですよぉ~」


「そそ、それもそうだ。おい、女! バットの傷を癒せ!」


「……わかり、ました」



 アテナは橙色の宝玉を嵌めこんだ杖を手に取り呪文の詠唱を始めた。

 まいったな、人質を取られた上にバットの負傷までなかったことにされるなんて。



「【慈悲深き癒しの女神よ】」



 杖から橙色の暖かな光が漏れ始める



「【哀れなる愚者に】」



 アテナがバットの方角に杖を向けた。



「【最期の救済を】」



 しかし、魔法が発動する直前。アテナはすばやく振り返り、スコーピオンの身体を杖で叩いた。

 人間の腕力でどうこう出来るほど、バイヤードの身体はやわじゃない。


 コツン、という弱々しい音が周囲に響き、俺含む周りの奴らはみなポカンとしている。


 にもかかわらず、アテナは最後まで不敵な笑みを浮かべていた。

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