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第10話 拒絶

「リカルメとレヴァンテインが攻めてきたぞ! 皆の者、武器を持てー!」



 山賊の一人が茂みの向こうで声を上げた。

 まずい、こんなくだらないことで潜入がバレてしまうとは。



「どどどどどど、どーすんのよ! もしバイヤードが三人揃ってたら私たちお終いよ! 殺されちゃう!」



 リカルメが小声で俺に叫ぶ。俺も小声で返答する。



「お前が作戦無視して突っ込もうとするからだろうが! 破壊衝動だか殺人衝動だか知らんが、それくらい自分で制御しやがれ!」


「今はちゃんと制御できてるわよ! アテナを早く助けたいって気持ちが先行しちゃったの! ていうかあんたのセクハラが原因でしょうが!」


「だから、お前が身体押し付けてきただけだろうが! 心配しなくてもバイヤードなんかに欲情しねーよ!」


「どういうことよそれ! アテナが綺麗だって言ってくれた私の人間態をけなしてんの!?」


「人間態はお前の身体じゃないだろ! ただの擬態だろうが! ていうかそんなことはどうでもいい! せっかく嘘の潜入情報を山賊に流す作戦が台無しじゃないか!」


「だいたい私たちが別方向にいたことを伝えたって……あれ?」


「「……あ」」



 俺もリカルメもある可能性に気づいて茂みの奥を覗いてみる。

 すると、見張りの物含め俺らの方向を向いている山賊は皆無だった。

 代わりに山賊の視線は一人の人物に集まっている。俺らがさっき情報収集のため捕虜にした山賊だ。



「なんだ、さっきのはあいつの声か。ビビった」


「ふ、フン! 情けないわね! 人間の肝っ玉っていうのも案外小さいものね!」


「お前が一番ビビってただろうが」



 数時間前。俺らが捕虜山賊を開放する直前のことだ。

 俺はリカルメに指示して捕虜にクラゲの毒を右腕に打ち込んだ。

 毒の痛みに苦しむ捕虜に俺はこう言ったんだ。



「お前に打ち込んだのは致死性の毒だ。痛みはやがて全身に回り、早ければ今日中、遅くとも三日以内にお前は死ぬ。解毒してほしかったら。俺らが潜入する場所とは逆方向に仲間を呼び出せ」



 本当はちょっと痛むだけで、一週間放置すれば治る程度の毒なのだが、その真偽を確かめる術を捕虜は持っていない。


 コクコクとうなずいて足早に去っていったが、どうやらちゃんと約束を守ってくれたようだな。


 ちゃんとレヴァンテインとリカルメが同時に出現したことも伝えてる。これなら、バイヤードたちも無視できず、捕虜が言う通りの方向に突っ走ってくれることだろう。俺らとまともにやりあえるのはあの三体くらいなものだろうしな。


 そう、俺の作戦とはバイヤードといかに戦うかではなく、いかに戦わずしてアテナを助けるか、というものだった。


 雑魚山賊だけなら雑魚怪人(リカルメ)一体で事足りる。足りなきゃ、俺の腕を犠牲にするだけだ。

 テントの中から武器を持った男たちが大量に出撃している。その中にはスパイダーの人間態もいた。


 よし、とりあえず一人は戦力を減らした。しかし、他の二体の人間態がわからない以上、この場に何体のバイヤードが残っているのかは定かじゃない。


 待つべきか。いや、これ以上待っていても仕方ない。



「行くぞ。リカルメ。こんなことを頼むのは情けないが、先陣は任せる」


「気にすることないわよ。アテナのためだもの。擬態解除」



 雷を身に纏い、クラゲの化け物が突撃する。


 触手を巧みに操り、見張り役を電気で気絶させる。……気絶だよな? 死んでないよな?

 それを確かめてる時間はない。残党を片付けるリカルメに続いて、俺も中央のテントに突撃した。



「アテナ! どこなの!」


「誰だきさ――ぎゃあああああああ!」


「雑魚は引っ込んでなさい! アテナ! アテナ!」



 アテナを探しながら触手を振り回し、残った賊を一掃する。魔法を使わせる暇もなしか。



「リ……リカルメ?」



 奥の床からアテナの声が聞こえた。リカルメはそれにいち早く反応し、走る。

 アテナは雑に転がされて後ろ手に縛られていた。



「アテナ! よかった、もう大丈夫だよ。私が助けに――」


「来ないで化け物!」


「あ、アテ、ナ……?」



 リカルメの足が止まる。アテナの表情に安堵の色はない。

 むしろ、新しい敵に警戒する厳しい視線をリカルメに向けている。



「こんなところまで追ってくるなんて……。そこまでして私を殺したいの? 私を騙して何が楽しいのよ!」


「ち、違うのアテナ! 確かに私はバイヤードで、今までの私は本当の姿じゃない。このクラゲみたいな身体が私の本当の姿。だけど! アテナに助けてもらったことは今でも感謝してるし、一緒に暮らした生活が楽しかったのも本当のこと! 殺したいなんて思ってない!」


「じゃあなんで私に電撃を浴びせたの? すごく痛かったんだよ、アレ」


「それは! ……ごめん。バイヤードの破壊衝動に飲み込まれちゃって、周りが、見えてなかった。でも今は大丈夫だから! 絶対、今度こそ、アテナを助けて見せる!」


「そんな姿で言われても説得力ないよ。元のリカルメに戻って」


「ご、ごめん。怖いよね。もう他の山賊も倒したし、いいよね? レヴァンテイン」


「あ、ああ。入口は俺が見張っておく」



 なんだ? この違和感。

 リカルメがアテナに拒絶されることなんて想定内だったはずだ。


 しかし、実際に目の当たりにすると、少し見てられないな。目を背けるわけじゃないが、こればかりは二人の問題だ。

 リカルメの紅い皮膚が光りながら溶けていく。中から人間態のリカルメが出てくる。


 ガタ。


 ん? 今何か物音が。



「ほ、ほら。この姿なら怖くないよね? 電気も使わない。だから近寄ってもいいかな……?」


「……わかった、変な武器とか持ってないよね?」


「持ってない! なんなら両手、をあげてもいいから……これ以上、拒絶しないでよ……」



 入り口付近に置かれた大きめの木箱。音はそこから聞こえた。

 ネズミか? いや、なんらかの罠が仕掛けられている可能性もある。念のため調べてみよう。



「泣いたって信用しないんだから……まあ、でもいいよ。やりたいなら好きにしたら?」


「う、うん。ありがとう」



 箱の周囲には何もない。ということは中から聞こえた音か?

 俺は罠を警戒しながら慎重に箱を開ける。



「う、うぅ……」



 うめき声!? まさかアテナ以外にも!


 この時代ならばあり得る。人身売買にかけられているのかもしれない。

 そう思い、俺は勢いよく蓋を開けた。しかし、俺の目に飛び込んできたのは意外なものだった。


 肩まで伸びるサラサラの金髪に真っ白な肌、そして緑色の民族的な衣服をまとっている。

 そして耳が少し尖っているエルフの娘。



「イヌイコータ……さん?」



 その箱入り娘は、どこからどう見てもアテナだった。



「そのアテナから離れろ! リカルメぇ!」


「……え?」


「もう遅いですよぉ~。おバカさんたち」



 俺がリカルメの方を向いた時にはすでに遅かった。

 リカルメは涙目でアテナの元までたどり着き、そしてアテナは縛られていたはずの手でリカルメを羽交い絞めしていた。



「な、アテナ何をするの!?」


「違う! そいつはアテナじゃない! アテナに擬態したバイヤードの一体だ!」


「えぇ!?」


「もうちょっと早く気づくべきでしたねぇ~。ガブッ」



 バイヤードはリカルメの首筋にかぶりつき、血を啜った。

 そんな行為をする奴はただ一人、バット・バイヤードだ。



「っ! ……この!」



 リカルメは身体から放電しバットを追い払った。血を吸われた影響か、少しふらついている。



「アッハッハッハ! 面白いくらいに引っかかってくれましたねぇ~。スパイダーから今のリカルメ様のことを聞いた時は正直耳を疑いましたが、まさかここまで依存しているとは。いやぁ~、演技の最中なんども笑いそうになっちゃいましたよぉ~」


「バット、お前を殺すわ」


「今さらキリッとされても遅いですよぉ~。もうあなたには幹部としての威厳は微塵ものこされてませぇ~ん」


「くっ……!」



 アテナがリカルメのことをリカルメ、と呼んだ時点で気づくべきだった。アテナはリカルメのことをリカと呼ぶ。



「じゃ、じゃあアテナはどこ!? まさか、こいつに食われたんじゃ……!」


「いや、アテナはこっちにいる。安心しろ」


「ほんとは食べちゃいたかったのですがねぇ~。一応、我が山賊団の貴重な依頼品でしてぇ~。後で回復できる程度に血を吸わせていただきましたぁ~」



 バイヤードがヒトに擬態する条件はただ一つ。対象の身体の一部を咀嚼すること。

 大概のバイヤードはそのヒトに成り代わるため、身体を全て食べてしまうのだが、極端な話髪の毛一本飲み込むだけで擬態はできる。


 しかし、過去のリカルメを知っているということは、こいつも俺が倒したはずのバイヤードか。少し嫌な予感がする。

 もしかしたら、俺が倒したバイヤードすべてがこの世界に送られてるんじゃないだろうな?


 本当にここは、死後の世界なのかもしれない。



「リカ……そこにいるの?」



 箱から出ようとして、縛られてもいないのに苦戦してる。

 そうか、こいつに血を抜かれたってことはアテナも貧血気味になっているということだ。


 俺は肩を貸し、今度こそ二人の再会を手伝った。



「アテナ……」



 バットの擬態だったとはいえ、アテナに拒絶されたことが相当堪えているらしい。

 アテナの無事を確認しても素直に喜んでいいのか迷っているように見える。



「大丈夫だよ。私はリカを嫌いになったりしないから。助けに来てくれて、ありがとう」


「……アテナ!」



 一瞬俺も心配したが、杞憂だったようだ。ずっと箱の中にいたわけだし、リカルメの想いは十分伝わっていることだろう。


 さて、感動の再会をもう少し眺めていたいところだが、おそらくバットがそれを許してくれないだろう。


 アテナの姿をしたバットが、いつの間にか天井から宙づりになってこちらを見ている。



「さてさて、お相手はリカルメ様とレヴァンテイン。そして回復魔法の使えるエルフですかぁ~。三対一とはフェアじゃありませんねぇ~」


「このままアテナを解放し、二度とアタトス村に関わらないと誓うなら見逃してやってもいいぜ」


「魅力的な提案ですがぁ~。それでは私たち大赤字ですぅ~。ですので……」



 バットは大きく息を吸い、叫びをあげた。

 とても不快な音だ。聞いていると頭が割れそうに痛くなる。

 アテナも苦しそうに耳をふさいでいるが、リカルメは平気そうにしている。バイヤードだからか?

 ……いや、違う!


 そうだ、俺はバットの能力を知ってるじゃないか。奴に血を吸われるということがどういうことかも。

 リカルメはゆっくりと、こちらを振り返る。

 その手には紅い稲妻を蓄え、明らかに俺たちを狙っている。



「さあ、リカルメ様ぁ~。その手でレヴァンテインを葬りなさぁ~い」


「…………」



 こくり、とリカルメは頷いた。

 これが、バット・バイヤードの洗脳能力。血を吸った相手に洗脳音波を浴びせ操る術だ。

 一人しか操れないはずだからアテナはおそらく大丈夫だろう。


 だが、唯一の戦力であるリカルメを奪われた。ここはいったん退くしかない。でも、逃げられるのか? リカルメからはともかく、バットは飛行能力も持っている。こいつに本気を出されたら、終わりだ。



「最後の手段を、もう使わなきゃいけないのか」



 俺は黒い剣に白のエーテルディスクをセットした。



《----Disk Set Ready----》


「アテナ、お前だけでも逃げろ」


「そんな! リカとイヌイコータさんを置いていくなんて!」


「もともと俺らはお前を助けるために来たんだ。自分たちの命なんて勘定に入れてねーよ」


「そんなこと言わないでください! 私のために死なれたって嬉しくありません!」


「安心しろ、これでも俺たち、そうとう修羅場くぐってるんだ。今さらこれくらいじゃ死なねーよ」


「…………!」



 俺の言葉を聞いてくれたのか、アテナは入り口から飛び出した。

 このまま逃げ切れてくれるといいがな。



「と、こ、ろ、でぇ~。なぁ~んであなたは変身しないんですか? アテナさんに変身を見られたくないとかぁ~?」


「ほ、ほっとけ! 今そういう気分じゃないんだよ!」


「変身できない理由があるとぉ~? うぅ~ん?」



 バットはリカルメと俺のベルト一瞥し少し悩んだような仕草を見せる。

 どうしたんだ? 変身できないとこいつは理解しながら、なぜリカルメに攻撃をさせない?



「気が変わりました」



 バットは天井から地面に降り、俺の正面に立った。



「私が直々にお相手いたしましょう。リカルメ、あなたはアテナを追いなさい」



 こくりと頷くと、リカルメはテントの壁を突き破り外へと走っていった。



「相変わらず乱暴ですねぇ~。アテナさんを殺してしまわないか心配になりますよぉ~」


「……どうしてリカルメを行かせた? 逃亡者を捕らえるなら、お前の飛行能力の方が適任だろ」


「最悪のパターンを回避したまでのこと。こんな状況下であなたが変身しないのはどう考えてもおかしい。変身できない理由があるためです。だったらわざわざ、変身できるようになる可能性を増やしてあげる必要もありませぇ~ん」


「変身できるようになる可能性? それはどういう……」


「おっと、口が滑りました。まあいいでしょ~。どちらにせよリカルメは我が支配下にあるので関係のないこと。擬態解除」



 バットは口から大量の血を吹き出し、その血で全身を覆った。

 そして、真っ赤な塊の中から、黒い異形の化け物が飛び出してきた。コウモリの怪人、バット・バイヤード。



「さぁ、死んでもらいますよぉ~」

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