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異世界転生したら魔王軍幹部の攻略(恋)を命じられました  作者: すみっこSE


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2/22

第一話 執事、初日で死ぬ

目が覚めた。

天井があった。石造りの、黒くて高い天井だ。窓からは薄暗い紫色の光が差し込んでいる。空の色が紫。この時点でもう地球じゃない。

「……マジで転生してる」

体を起こす。着ているのは黒いシャツと黒いズボン。ベッドの脇には、丁寧にプレスされた黒い燕尾服が掛かっていた。

胸ポケットに紙が刺さっている。

『任務:魔王軍第三幹部 リーニャ・ブラックマンを攻略せよ。役職:専属執事。健闘を祈る。  ルミナリア』

「執事!?」

叫んだと同時に、扉がノックされた。

「し、失礼します……新しい執事様、起きていらっしゃいますか……?」

入ってきたのは、メイド服の少女だった。頭に小さな角が二本生えている。顔は完全に怯えていた。

「あ、はい。えっと……」

「ミルカと申します。屋敷のメイドです。あの、これを」

差し出されたのは、分厚い羊皮紙の束だった。表紙にはこう書かれている。

『リーニャ様 怒らせないための注意事項 第九十七版』

「第九十七版!?」

「改訂が多いもので……」

俺はページをめくった。

『一、朝の紅茶は六十八度。六十七度も六十九度も不可。』

『一、目を三秒以上見つめないこと。挑戦とみなされる。』

『一、「かわいい」は禁句。身長に関する話題は死。』

『一、廊下を歩く際、足音は三デシベル以下。』

『一、ホコリ。』

最後の項目、雑すぎないか。

「ホコリって……」

「……ホコリです」

ミルカが遠い目をした。

「あの、前任の執事さんは?」

「三十三人目の方は、昨日……」

「昨日!?」

「中庭にお墓があります。三十三個」

「三十三個!?」

俺は思わず窓の外を見た。中庭に、小さな墓標がきれいに三列で並んでいた。三列十一個。並べ方が整っているのが逆に怖い。

「……ちなみに、リーニャ様ってどんな方なんですか」

ミルカは少し考えて、それから真剣な顔でこう言った。

「かわいい方です」

「え、じゃあ大丈夫じゃ」

「かわいくて、人を殺します」

「大丈夫じゃない」

      ◇

そして俺は、初めてリーニャ・ブラックマンを見た。

大広間の奥、玉座みたいな椅子に、小さな体が沈み込むように座っていた。

長い黒髪。血みたいに赤い瞳。年の頃は十五、六か。細い脚を組んで、頬杖をついて、退屈そうにこちらを見ている。

……小さい。俺より頭ひとつ分は小さい。

そして――正直に言う。めちゃくちゃ整った顔をしていた。人形みたいだ。ミルカが「かわいい」と言ったのは嘘じゃない。

「新しい執事?」

声も高くて、鈴を転がすようで。

「はい。本日より仕えさせていただきます、ユウマと申します」

膝をつく。執事っぽい所作は、前世で見たアニメの記憶しかない。

「ふうん」

リーニャは俺を上から下まで眺めた。

「前のよりは、顔がマシね」

「……恐れ入ります」

「掃除は?」

「済ませました」

「ふうん」

――いける。

俺は内心でガッツポーズをした。第一印象は悪くない。ここから少しずつ距離を詰めて、信頼を得て、いずれは恋に……。

そう思った、その瞬間だった。

窓の隙間から風が吹き込んだ。

大広間の空気がわずかに動き、光の筋の中で、細かい粒がふわりと舞い上がる。

そしてその一粒が。

よりにもよって。

リーニャの肩に、そっと着地した。

空気が凍った。

リーニャは、ゆっくりと自分の肩を見た。

「……なんでホコリが?」

「え」

「掃除したんでしょう?」

赤い瞳が、真正面から俺を射抜いた。

まずい。頭の中で警報が鳴る。だが、その時の俺はまだ、この世界のルールを何も理解していなかった。

だから、正直に答えてしまった。

「はい、掃除はしたんですが……取り切れなかったホコリがあったみたいで」

「そう」

リーニャは頷いた。

そして、言った。

「じゃあ死んで詫びなさい」

「はい?」

リーニャが手首を、くるりと一回転させる。

するとどこからともなく、リーニャの背丈の倍はある巨大な鎌が出現した。黒い刃が、紫の光を吸い込んで鈍く輝いている。

え。

待って。

待って待って待っ――

次の瞬間。

リーニャは鎌で、俺の首を切り落とした。

視界が回転した。天井、床、天井、床。最後に見えたのは、床に転がった自分の体と、それを見下ろすリーニャの、退屈そうな顔だった。

ええええええ。

短気すぎだろう。

なにこれ。こんなんで殺されるわけ!?

――デス:1

(第二話につづく)

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