魔法使い『すってんコロリン・コロンボーン』の怠惰な謎解き
さて、魔法使いと探偵が連れ立って誘拐犯たちが指定してきた西の森の大岩に到着すると、そこにディッパー・ポラリスの姿はなく、誘拐犯側の使者だけが待っていた。
なので探偵は使者に対して問いただす。
「ご子息はどこだ?約束どおりに魔法使いを連れてきたのだぞ?」
その問いに対して使者はそっけなく言い返してきた。
「俺はあんたらを連れて来いと言われただけだから質問には答えられない。まぁ、確かに魔法使いは連れてきたようなので会わせてやるよ。で、これから転移魔法で移動するんだが別に変なところに跳ぶ訳ではないから抵抗するなよ?」
使者は探偵が連れてきた魔法使いに対して、これから魔法を使うが拒絶するなと釘をさしてきた。
そう、上位魔法使いは他者から仕掛けられた魔法に対して自動的に中和してしまう防衛魔法を常に起動させているので一言断っておかないと魔法使いを連れてゆけないのだ。
その注意に魔法使いは目線だけで了承した事を伝える。それを確認した使者はポケットから四角い板状のアイテムを取り出すと、口頭で転移魔法の発動コマンドを発した。
「アクション ムーブ:北の森、該当者:3名、セキュリティ:マックス。リターンっ!」
使者の宣言により魔法アイテムはあっという間に3人を指定された場所へと転移させた。
だが、その事を密かに監視していた者がいた。その者とはポラリス伯爵家から家人の護衛を任されているシモンである。
まぁ、これは伯爵としては当然の措置であろう。誘拐犯たちは武力で人質を奪還しようなどと考えるなと言ってはいたが、会合に武人を連れてくるなとは言っていない。
そもそも何事も無く子息を取り戻せれば、それはそれで良しとなる。だが、万が一誘拐犯たちが子息に危害を加えていたとなると厳格に対応しなければ伯爵家の面子が潰れるのだ。
それ故のシモンの投入であったが、転移魔法で場所を変えられてはシモンとしては手も足も出ない。
いや、世の中には追跡用の魔法アイテムというモノもあるのだが今回シモンは用意していなかった。
つまり伯爵家側としては魔法使いと探偵に全てを任せるしか方法がなくなったのである
なのでシモンは予想外の展開に舌打ちすると報告の為に伯爵家に駆け出したのだった。
そして場面は使者と探偵たちが跳んだ北の森へと変わる。そこには小さな掘っ立て小屋があり、その外で数人の荒くれ者たちが魔法使いたちを待っていた。
ただ、その者たちの姿はどことなく異形であった。まぁ別に鼻の穴がないとか、重力に逆らってアホ毛が立っているなどのアニメ絵的な容姿だった訳ではなく、ただ何となく全体的に少し引っかかる雰囲気があったのだ。
そう、例えるならば自律型ロボットに人間そっくりな擬装用のマスクを施しているような違和感があったのである。もしくは下手糞な変化魔法で化けているような感じか。
そしてそんな出迎え集団の中からリーダー格と思われる初老の男性が魔法使いの前に進み出て、誘拐犯の仲間とは思えないほど丁寧な口調にて話し掛けてきた。
「ようこそお出で下さった。まぁ、かなり乱暴な方法で呼び出したのでお気に触られたと思うがご容赦頂きたい。実はあなたを呼び出したのは他でもない、伯爵さまのご子息をかどわかしたはいいが、魔王さまの呪いに掛かってしまいましてな。このまま死なれては身代金も要求できない。なのでまずご子息にかかった呪いをあなた様に解いて頂きたいのです。」
その言葉を聞いて探偵は渋い顔をする。何故ならば初老の言葉はまたしても矛盾だらけだったからだ。
だが、当の魔法使いは気にする様子もなく言い放った。
「ならば早く案内せい。我は夕方5時からアニメの再放送を観なければならぬのじゃ。お主は知っておるか?迷探偵『隅田川コロン』というのじゃが?いや、その掘っ立て小屋の中に動画受像機があればそこで観るからちょっとくらい無駄話に付き合ってやってもよいがな。因みにその際は晩御飯も食べてゆくから用意するように。我のリクエストとしてはカレーライスを希望する。因みに辛さは中辛じゃぞ?肉はそれ程入っていなくてもよい。ただ我は人参はちょっと苦手じゃ。更に我は福神漬けよりもラッキョウ派じゃ。」
魔法使いのやたらと細かい注文に初老の男性は戸惑ったようだが、それでもまずは患者を診てもらいたいと魔法使いたちを掘っ立て小屋の中に案内した。因みに掘っ立て小屋の中に動画受像機はなかった。
その代わりと言っては何だが部屋にはベッドがひとつあり、その上にディッパー・ポラリスが苦悶の表情を浮かべて眠っていた。
そう、魔王の呪いはかなり進行していて子息の体を蝕んでいるようである。なので時は一刻を争う雰囲気があった。
「こちらが魔王さまの呪いにかかってしまった伯爵さまのご子息です。どうでしょうか?呪いは解けますでしょうか?」
「ふむ、どれどれ。」
初老の男性に言われるがまま、魔法使いはディッパーの様子を観察する。そしてとんでもない事をいいだした。
「あーっ、駄目じゃな。もう手遅れじゃ。後、数日もすれば魔王の呪いによりこやつは『ダンシングフラワー』に変化してしまうであろう。そして電池が切れるまで踊り続けるな。」
この魔法使いの診断を聞いて一番狼狽したのは探偵だった。なので探偵は魔法使いに詰め寄った。
「おいっ!それは本当かっ!まずい、それはまずいぞっ!なんとかしろっ!」
「ははは、冗談である。でも本当にそうなるなら見てみたい気もしなくはないな。」
「冗談かよっ!」
「うむ、緊張をほぐすには良質の冗談はよい薬じゃ。いや~、我ってセンターセメントじゃなぁ。」
「いや、それって語彙を間違って覚えているぞ?『センターセメント』じゃなくて『エンターテイメント』だろうっ!」
「ふむっ、ナイス突っ込みっ!ほれ、翁よ、突っ込み役とはこれくらい即座に反応しなくては漫才としてやってゆけぬからな。お主も精進せい。」
何故かここで魔法使いは誘拐犯側に漫才の心構えを上からの態度で押し付けてきた。因みに『翁 (おきな)』とは年老いた男性や老人を敬って呼ぶ呼称である。
そんな魔法使いの言葉に、探偵は「私はお前と漫才のコンビを組んだ覚えはないっ!」と心の中で突っ込んだが、口には出さなかったようである。
だが、何かはぐらかされた気がしたのか探偵は痺れを切らして一番知りたい事を尋ねた。
「たわ言はいいから、どうなんだ?子息は助かるんだろうな?」
「むーっ、どうじゃろう?そもそもこやつは伯爵の息子などではないぞよ?これ、翁よ、本物はどこにいるのじゃ?というか、実は本物の子息は呪詛などかかっておらぬのじゃろ?そしてお前らはこやつを子息と偽って我に呪いを解かせたかっただけであろう?」
魔法使いの言葉に探偵は驚いた。だが内心では「ああ、やっぱり。」といった感じで納得もしていた。
そして魔法使いに欺瞞を見破られた初老の男性も、2級の上位魔法使いは騙せないと観念したのか自身と、ベッドの上で子息に化けさせた者への欺瞞魔法を解き本当の姿をあらわした。
そう、初老の男性はなんと狸だったのだっ!そして狸が子息に化けさせていた者の正体は幼いゴブリンの少女だったのである。
まぁ、ここは異世界なので別に狸が人間の言葉を喋っても不思議ではないのだが、何の伏線もなく突然狸を出されたら、多くの者は驚くはずだ。
でも、もう一度言うがここは異世界なのでそうゆう世界なんだなと納得して貰うしかない。
実際居合わせた探偵も、誘拐犯たちは狸が化けていたという事を知っても全く驚いた様子を見せなかったのだから。
だが術が解かれゴブリンの姿に戻っても少女は苦悶の表情で眠ったままだった。つまり少女には本当に魔王の呪いが掛かっているようなのである。
なので正体がバレて手の内を明かした狸とその仲間たちは、今度は力わざにてゴブリンの少女に掛けられている魔王の呪いを解除させようと得物を手に魔法使いたちを囲み命令してきた。
「伯爵の子息は別の場所で安全に過ごしている。だから安心してこの子にかけられた呪いを解け。さすれば子息は返す。」
「そんな言葉を我が信じるとでも?」
「呪いを解かねば子息の命はない。」
「かますのぉ、だが言葉が震えておるぞよ。人間ならばさらりと言ってしまえる言葉も、お前にとっては口にするのも憚れるものなのじゃろう。そもそもお前には自身はともかく他人までへんげさせられる能力や魔力はないはずじゃ。となると何かアイテムを使っているはず。そしてそれは誰かがお前に授けたものであろう。なのでお前をそそのかしあごで使っている誰か黒幕がいるはずじゃ。もう推理するのも面倒じゃからそやつを呼んで来い。我が直々に説教してやるっ!」
その言葉に狸は黙り込むが、その時奥の部屋の扉が開いてピンピンしているディッパー・ポラリスが少々困ったような顔をして現れた。
そう、実は今回の誘拐の絵を描いた黒幕はディッパー・ポラリスだったのである。




