伯爵様、大変ですっ!お坊ちゃまがかどわかされましたっ!
ここは異世界。誰がなんと言おうと異世界である。
そして異世界と言えば当然世界観は中世欧州風である。また世界制服を企む魔王とそれを阻止しようとする勇者がいるのも鉄板だ。
と言うかこのふたりがいない異世界など所詮パチモンである。つまり異世界とは魔王と勇者がいる世界が正統なのだ。
因みに本来世界征服と書くところを世界『制服』と印したのは単なるネタなので突っ込んではいけない。
そして異世界の制服、特に女性冒険者のそれは当然『ビキニアーマー』だっ!
さて、掴みはOKと言う事で、本題に入るが、この異世界のとある王国では最近、過去に勇者によって封印された魔王が復活するのではないかという噂がまことしやかに囁かれ始めていた。
その根拠は魔王の領土であった北方地域で最近人々が原因不明の病に冒されるようになったからである。
そしてその病は病気ではなく、呪いである事が現地を調べた聖女によって解明された。
なので王国はその呪いの拡大を防ぐ為に現地へ大量の魔法使いを投入し呪いの撲滅を図る。
だが、北の地は元々魔王の領土だったので未だに多くの魔物が存在している。故に魔法使いの護衛として騎士や剣士も動員された。
因みに軍が動員されなかったのは近隣の諸国を刺激しないようにする為だ。そう、如何に動員が魔王絡みであっても、軍を動かすと要らぬ不安を諸国に与えてしまうのである。
なので護衛の騎士や剣士たちは一騎当千のつわものが選抜された。だが、そこには様々な思惑が入り乱れ、貴族たちの間では貴族の義務として、または同調圧力によって自身の息子たちを騎士として北の地へ送り出すのが暗黙の了解となっていた。
そんな状況の中、何故かポラリス伯爵家の子息、『ディッパー・ポラリス』22歳は周囲の目も気にせずに遊び呆けていた。
なので昨日も近隣の狩り場へ従者を伴って鳥を狩りに出掛けていた。
そして事件はその狩り場で起こった。そう、なんとポラリス伯爵家の子息が屈強な男たちによってかどわかされてしまったのだっ!
因みに『かどわかす』という言葉はちょっと古い表現で、今風に言い直すならば『誘拐』の事である。
そして誘拐犯たちは子息と行動を共にしていた従者に手紙を持たせて伯爵の下に帰らせたのである。
勿論、その手紙の内容は脅迫文だ。
その手紙を読んだ伯爵はその脅迫内容に困惑する。なので付き合いのあった探偵を呼び、たった今屋敷の客間にて探偵に手紙を読ませたところだった。
その探偵の名は『リキュール・ポワゾン』。そう、『エルキュール・ポアロ』ではないので間違わないように。
そして、手紙を読み終えた探偵も伯爵同様、手紙の内容に頭をかしげた。
そんな探偵に伯爵の後ろに控えていたこの屋敷の家令が自ら探偵の前に置かれた冷めてしまった紅茶を取り替えた。
そう、事は伯爵家の重大事なのでこの部屋にいるのは伯爵と家令と探偵の3人だけで、本来客人にお茶を出すのが役割のメイドたちも、呼ばない限り部屋に入らないように言いつけられていたのである。
そして暖かい紅茶を手に探偵は再度手紙を読み直す。その手紙の内容は次のようなものだった。
『親愛なるベアーズ・ポラリス伯爵。あなたの愛するご子息、聡明で慈悲深く、更にイケメンな故に女の子にモテモテなディッパー・ポラリスは我々が預かった。
無事に帰して欲しくば、次の場所へ呪いの解除に長けた魔法使いを2日以内に寄越すように。
場所:西の森の大岩
魔法使いのレベル:2級の上位以上
因みに武力にて奪還を試みた場合はご子息の命は保障できない。
北の森旅団長 カール・グスタフ』
この手紙を読んで探偵は暫し沈黙した後、整理した情報を確認するかのように伯爵へ話しかけた。
「まず、この手紙にはご子息の身柄を開放する為の要求が記されていますが、その要求がかなり異質ですな。通常この手の犯行の要求は大抵『金』です。もしくはこの犯行が権力者等に向けた犯罪組織のものであるならば、身柄を拘束された『仲間の解放』や『政治的な要求』などです。
もっともそれらにしても『金』の要求がセットになっているのが殆どです。だが、この要求書には1ギールも金を寄越せと書かれていない。つまりこれは大変対応が難しいケースになります。」
「と言うと?」
「交渉の余地がないのですよ。また金を準備するのに時間がかかるなどという時間稼ぎもできない。更に金が目的ならば金額を交渉する振りをして相手の出方を探れますし、金額を渋れば相手が動揺する場合があります。何故ならば彼らの目的が『金』だからです。つまり『金』を盾にして揺さぶりをかけられるのです。」
「成る程、確かに金が目的ならばそこから相手に付け込むのもひとつの方法なのでしょうな。」
「更に判らないのが魔法使いを要求している事です。これを馬鹿正直に行うと傍からは人質を交換しただけにしか見えない。つまりこちら側としては何の解決にもならないのです。」
「そう言われればそうですな。そもそもやつらは何故魔法使いを寄越せなどと言っているのでしょう?」
「それに関してはまだ何も判りません。まぁ、推測するならば、やつらは何かしらかの呪いを受け、その解除の為に2級の上位以上の魔法使いが必要だが、自前で準備できなかったので、それが可能であろうあなたに斡旋を強要してきたってとこですかな。この事から、もしかしたら犯人たちは冒険者くずれかも知れません。」
「あーっ、ダンジョン内でトラップにでも引っかかったのかも知れませんな。ですが、確かに2級の上位魔法使いは雇用単価も高いのでおいそれとは雇えないが、それでも人攫いなどという犯罪を犯さねばならない程の金額ではありませんぞ?」
「そうですな、依頼内容を呪いの解除に限定しても、その呪い強度にもよりますが2級の上位魔法使いでなければならない呪いだとしても1千万ギールほどでしょう。まぁ、1千万ギールは安い金額ではないが2級の上位魔法使いの能力が必要と言うのであればとんでもない金額と言うわけでもない。」
「ですな、これが3級くらいになると1億ギール以上が当たり前ですからな。まっ、それでもそれで問題が片付けば安いと思うのが、3級魔法使いが扱う案件ではある。」
「左様、全く持って魔法使いとは便利な人材ですよ。ただ傍から見ていると、ぷいっと魔法の杖を振るって呪文を詠唱している『だけ』のように見えるから、ぼったくりだと言うやつらもいますがね。ですが今回の件は魔法使いを雇用する金額が問題ではなく、現状魔法使いそのものがいない事が問題なのでしような。」
「あーっ、成る程。確かに国内の上位魔法使いはその殆どが今、北で発生した魔王復活の呪い対策で駆り出されていますからな。なので幾ら金を積んでもいないものは呼べない。」
「左様、多分ご子息をかどわかした者たちもそれがネックとなり、解決策としてあなたの権力を使い魔法使いを用立てようとしたのでしょう。」
「しかし、何故?2級の上位魔法使いでなければならない呪いなどそうそうあるものではないでしょうに。仮にダンジョン内で呪われたとしても大抵は聖女役などのメンバーが対処するはず。」
「その辺はまだ判りませんな。そもそも相手が冒険者くずれというのも推測に過ぎません。とは言えやつらと交渉するにしても、こちらとしてはまず手駒として魔法使いを確保しなければなりません。だが、先ほども言いましたが国内の魔法使いは枯渇している。仮に国外から呼び寄せるにしても2日以内ではかなり無理がある。さてさて、あなたには伝 (つて)がありますかな?」
「なくはないが、やはり2日という時間がネックですな。」
「でしょうな。で、私からの提案なのですが、実は実力はあるのですが少々行動等に問題のある魔法使いをひとり知っています。本来ならば私としても関わりたくないところですが背に腹は代えられません。どうします?」
「その様な魔法使いがまだ残っていると?むーっ、確かに現状では多少の素行不良は目を瞑るのも致し方ないでしょう。して、その方とはどなたなのですかな?」
「コロリン・コロンボーン。」
探偵のぶっきらぼうな言葉に、伯爵の後ろで話を聞いていた家令は右手でこめかみを押さえ、首を振りつつため息を堪えている。
伯爵も状況を飲み込んだ後、期待はずれだったとばかりに落胆の表情を浮かべた。
「あー、まぁ、その・・。その方は最悪どうしても他に手配が付かなかった時にお願いしたいかと・・。」
「まっ、伯爵が躊躇されるのも判ります。なんせ、これだけ洗いざらい国中の魔法使いを動員している王宮ですら、彼女には声を掛けなかったくらいですからなぁ。」
「ははは、確かに普通は関わり合いたくはないでしょうからな。」
「全くだ。まっ、今の話は頭の隅にだけ置いといてくれ。では、魔法使いの手配は伯爵にお任せするとして、私は今少しご子息の事件当日前後行動について調べさせて貰います。何か解決の糸口が見つかるかも知れませんからな。」
「そうして頂けるとありがたい。では私は魔法使いの件でちょっと出かけてまいります。屋敷の者たちに話を聞く際にはセバスチャンを通して貰えれば彼が段取りするでしょう。任せたぞ、セバスチャン。」
「はっ、お任せください。」
伯爵の言葉に後ろに控えていた伯爵家の家令が恭しく礼をしながら答えた。
その後、慌しく部屋を退出した伯爵を見送ると、探偵は紅茶を飲みながらまず家令にどんな情報が必要かを指示した。
「まず、事件当日ご子息と行動を共にしていたという従者に話を聞きたい。その後、ご子息が狩りに出掛ける事を事前に知っていた者からも話を聞きたい。更にはご子息が誘拐のターゲットにされた理由も考えたいのでご子息の友好関係や常日頃の言動なども知りたいですな。」
「左様ですか。ではまず従者のユダを呼びましょう。その後は関係する使用人たちを随時呼ぶという事で。坊ちゃまの友好関係に関しては私がご説明いたします。」
家令はそう言うと、壁に取り付けてある屋敷内用連絡アイテムで従者を呼び出し探偵の前に座らせた。
そして緊張している従者に対して探偵は時間が惜しいとばかりに質問を切り出した。
「さて、まずは事件当日の流れを話して貰えるかな?」
「はい、当日は突然ディッパー坊ちゃまが狩りに出掛けると朝食後に言い出しました。これには当家の護衛であるシモンさんが難色を示したのですが、ディッパー坊ちゃまは聞き入れずに私だけを伴って出掛けました。まぁ、お弁当の用意を言いつけられなかったので私も近場なのだろうと思って軽装でお供しました。」
「成る程、で、実際に狩り場は近かったのか?」
「いえ、それがここから33kmも離れた、山中に道も無いような山の奥だったんです。」
「ほう、私は狩りに関して疎いのだが、それは普通なのかい?」
「とんでもないっ!猟師ならばともかく、貴族の狩りは平地で行うものです。」
「あーっ、そう言えば私も一回だけフォックスハンティングに誘われて行った事があるが、確かに平地だったな。それもすごい数の勢子で獲物を追い出していた。」
「ええ、それが普通なんです。でもまぁ、ディッパー坊ちゃんはあまり他の貴族の若君たちとはつるまず、ひとりで鳥猟とかをするのを好むので今回もそうだと思ったんですよ。」
「ふむっ、成る程。ご子息は所謂『コミュ障』というやつなのだな。」
探偵の言葉に家令は眉をひそめたが、それでも訂正はしてこなかった。まぁ、つまり暗黙の了解として認めたのだろう。
「で、ご子息はそんな人里離れた山中で君共々、北の森旅団と名乗るならず者たちに身柄を拘束された訳だな?して、その時の相手の人数は?」
「3人でした。始めはどこかの冒険者パーティかと思ったんですが、ふたりがディッパー坊ちゃんに挨拶をして坊ちゃんの気を引き付けた際に、残りのひとりがいきなり短剣を抜いて私を後ろから羽交い絞めにしてきたんです。」
「ほう、賊はまず君の身柄を拘束したと。なんでだろう?」
「それは判りませんが、やつらは私の首に短剣を押し付けてディッパー坊ちゃんに武器を捨てろと脅迫しました。」
「あーっ、成る程。ご子息は帯剣していたからまずは無防備な君を人質としてご子息に抵抗するなと言った訳か。ふむ、それで?」
「ディッパー坊ちゃんは、やつらに言われるがまま腰の剣と狩猟用の弓矢を地面に置きました。そして、やつらに向かって「金なら無いぞ?勿論食い物もない。残念だったな。」と言いました。」
「ははは、なんとも肝の据わった若君だな。これはちょっとイメージが変わったよ。」
「ええ、まぁ、ディッパー坊ちゃんはそこら辺が無頓着と言うか、世間知らずと言うか、ちょっとひやひやものでしたね。」
「ふむ、それで?当てが外れたやつらは次はどうしたんだい?」
「やつらは次にディッパー坊ちゃんに縄を掛け、私に手紙を持たせて屋敷に戻るように言いました。」
「成る程、その手紙がこの脅迫状だったという訳か。因みにこの手紙は賊たちがその場で書いたのかい?」
「いえ、やつらはバッグから取り出して私に渡してきました。」
「成る程、なんとも準備のいいやつらだな。で?それからどうなった?」
「私は、ディッパー坊ちゃんを置いてはいけないので私が身代わりになると言ったんですが聞き入れてもらえませんでした。」
「まっ、当然だな。君には悪いが君とご子息では人質としての価値が違い過ぎる。で?」
「ディッパー坊ちゃんも金で解決出来るのならばその方が安全だと私に言い、旦那様に知らせるように言われたので、私は言われるがまま、急いで戻り、セバスチャン様に事の次第をお知らせしました。」
「ふむ、判った。まぁ、ご子息も言っていたが金で解決出来るのならばそれが一番安全だ。とにかくご子息の身柄さえ確保できれば賊など後でいくらでも追い詰められるからな。うむ、ご苦労様。後は私たちに任せたまえ。何、ご子息は直ぐに解放されるよ。賊に襲われたのは運が悪かっただけで君は最善の行動をとった。なので安心してご子息が戻られるのを待ちたまえ。」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼します。」
探偵の質問から開放された従者は咎められなかった事に安心したのか、胸を撫で下ろして退席して行った。
そして扉が閉まると探偵は家令に対して今聞いた状況について説明を始めた。
「さて、今の従者の説明ですが疑問が生じる箇所が多々ありました。あなたはお気付きですかな?」
「はい?聞いた限りにおいてはどこにも問題があるようには思いませんでしたが?」
「まっ、話の流れとしては筋が通っていましたからな。ですが探偵という職業フィルターを通して聞くと、疑問だらけだったのですよ。」
「ほう、例えば?」
「まず、賊の人数が3人しかいないというところですな。これは大の大人2人を捕縛するにしては少な過ぎます。抵抗されたら返り討ちになる危険が高過ぎる。」
「成る程、ですがだからこそ、賊はまずユダを取り押さえたのではないでしょうか?そうすればディッパー坊ちゃんも迂闊には抵抗できないと踏んだのでは?」
「グッドっ!中々鋭い読みですな。では次です。何故賊はご子息を狙ったのか?そもそも従者の説明だと賊はご子息の身元が貴族の子息だという事を知っていたように見受けられます。つまりご子息は偶然襲われたわけではない可能性が高い。」
「あー、まぁ、あの山は一応当家の領内ですからな。そこを根城とする者たちがディッパー坊ちゃんの顔を知っていてもそれ程おかしな事はないと思いますが?」
「OK、それはかなり可能性が高いと私も思います。つまりご子息は突発的にさらわれたのではなく、計画的に拉致されたと見るのが妥当でしょう。その証拠が既に準備されていた脅迫状ですな。」
「ああっ、そう言われればそうですな。その場で書いたのでなく予め書いておいたモノを手渡されたと言っておりましたな。」
「左様。で、そうなると今度はやつらはどこかでご子息の行動を見張っていた事になる。そしてご子息が狩りが好きで、よく単独で出掛ける事も知っていなければ今回の絵は描けないはずです。」
「つまり、もしかしたら屋敷内部にやつらの協力者がいると?いや、そうなるとユダが一番怪しい事に?」
「可能性はあります。木の葉を隠すならば森の中とも言いますからな。推理小説などでも実は通報者が犯人だったなんて事はよくありますから。」
「そう言われれば確かに。そもそもディッパー坊ちゃんが賊にさらわれたという事も、ユダの話を信じればですからな。むーっ、これは慎重に見極める必要がありますな。」
「まぁ、あくまで可能性としてはある、と言うだけで今は何の証拠もありません。それに可能性だけならば従者を巻き込んだご子息自身の自演『狂言』という線もありますからな。」
「ディッパー坊ちゃんの狂言?なんでまた?」
「あくまで可能性です。まぁ、これも推理小説などでは定番のどんでん返しなんですけどね。借金で首が回らなくなった金持ちの息子が、親に金を出させる為に悪役たちとグルになって一芝居打つなんてストーリーは掃いて捨てるほどありますから。」
「こほんっ、申し訳ないが先ほどから推測の根拠が推理小説に偏っておりませんかな?私どもとしては、真実はどうであれ、今はディッパー坊ちゃんが実際にさらわれて身の危険があるという方向で話を進めたいのですが?」
「当然ですな。まぁ、賊の要求が普通と違うものだったので私も色々疑心暗鬼に陥っているのかも知れません。では次に事件前のご子息の行動なども知っておきたいのですが?特にご子息がお好きらしい猟の事に関して詳しく聞きたいですな。」
「それに関しては私からお話致しましょう。まず猟に関しては貴族の嗜みとして当家も領内だけでなく北の地によい狩り場を所有しております。そして旦那様も猟はお好きなので毎年バカンスではご家族を連れ添って狩りに出向かれます。もっとも最近は例の魔王の呪いの発生により出向くのは控えられています。ただ、ディッパー坊ちゃんだけは猟場の状態確認の為に出向いておりました。まぁ、時期と場所がアレですので旦那様もお止めしていたのですが坊ちゃんは聞き入れてくださりませんでした。」
「ほう、それはなんともハマっていたのですな。まぁ、趣味とはそうゆう面もありますからな。」
「左様ですね。ですがディッパー坊ちゃんが本当に気にしていらっしゃったのは、北の狩り場で懇意になったお友だちのことらしいのです。」
「ほう、コミュ障のご子息に友だちが。それはめでたい事ですな。そうなると伯爵が無理に止められなかった理由も察しがつきますな。」
「ええ、ディッパー坊ちゃんはその方とは頻繁に手紙のやり取りもしていらっしゃいました。そう言えば坊ちゃんが事件に巻き込まれる2、3日前にも手紙が届いていましたな。そしてディッパー坊ちゃんは紹介してくださらないんですが、相手の方は女性らしいのです。」
「ははは、コミュ障故にまずはペンフレンドとして親睦を深めていたと。なんとも純で可愛らしい事ですなぁ。」
「まぁ、ディッパー坊ちゃんも人付き合いは下手糞ではありますが、根は優しく博愛の精神を母上様から厳しく躾けられましたので、腹を割って付き合える相手とならば良き友となるはずなのです。」
「成る程、では益々今回の事件を早急に解決してご子息の北のお友だちを安心させねばなりませんな。」
「左様ですな。そう言えば今回手紙が届いてからディッパー坊ちゃんの行動が少し変でございました。何やら悩みがあったのか部屋にこもりがちになり、頻繁に手紙を出していましたな。そして当日の朝に突然狩りに出かけると言い出して今回の事件に巻き込まれたのです。」
「ほう、それは興味深い話ですな。因みに手紙を送った相手は判りますかな?」
「いえ、それらの手紙はディッパー坊ちゃん自らが投函していましたのでどなたに送ったのかまでは判りません。」
「成る程、まぁ、多分北のお友だち宛でしょう。」
「そうでしょうか?今までは北の女性宛の手紙は全て屋敷の者に預けて出していたのですが?」
「まぁ、万が一にも中身を知られたくないような内容だったのかも知れません。まっ、年頃の男の子ならばありそうな事でしょう。」
何故か、話の流れがディッパー・ポラリスの恋バナに向かってしまったのだが、その後も探偵は屋敷の使用人たちから話を聞いて情報を集めた。
そしてそれらの情報を紅茶を飲みながら解析していると、ひどくやつれた顔になったポラリス伯爵がひとりの客人を伴って帰ってきた。
その客人を見て探偵は伯爵がやつれた顔をしている意味を知った。そう、なんと伯爵が連れて来たのは探偵が伯爵に紹介しようとしたあの問題ありありな魔法使いだったのである。
そして魔法使いは登場と共に誰に言うでもなく自己紹介を始めた。
「じゃじゃ~んっ!呼ばれて飛び出てじゃんけんぽんっ!ちびっ子たちのアイドル、魔法使い『すってんコロリン・コロンボーン』華麗に登場っ!」
そんな魔法使いは自身の登場に際して魔法で鳩を飛ばし、尚且つくす玉まで出現させ紙吹雪を巻き散らかした。
しかし、ポンコツなれど能力だけは誘拐犯たちの要求をかなりのオーバースペックで満たす魔法使いの登場により事態は急速に転がり始める。なので次からは場面がいきなり誘拐犯たちが人質解放の場として指定してきた西の森の大岩に切り替わったのだった。




