84話 B28
パーリラは成長し、昔は自分を変えられずに新しいものを中々受け入れられなかったのが、受け入れられるように変わっていった。頼ることへの抵抗も減り、聞き入れられるようになっていった。彼女の剣術にもその影響があり、アドバイスを受けいれ、尋ねることもできるようになり、彼女の剣の腕は高められていった。
ランキング戦においては途中まではより定石通りに正確にできれば勝て、それより上の順位は定石を知った上で一歩抜きんでなければ勝てなくなる。個性的な選手を作り出すシステムとなっている。しかし、そこを理解せずに上位陣は皆定石とは違う動きをすると、定石を蔑ろにすると伸び悩むのだ。
彼女はその傾向があった。トレーナーは定石を教えるけど上位陣は違うじゃないか、そう思って真面目にやっているつもりでも実は本気で聞いてはいなかった。やり方を変えると自分ではなくなってしまう恐怖もあった。しかし、恋に振り回されながら、熱量で押されてやってみることで経験となり、自信となった。さらに恋人となって自分が認められ、求められることを体で感じ、脳に刻み込まれる刺激を受け、自信を得て心が安定していき、聞き入れられるようになった。そしてついに12位を倒して順位を上げることに成功したのだった。
決闘を終えたパーリラは観戦しているリベン達の方へやってきて、リベンの腕を引いて物陰へと連れて行った。
「どうした急に?」
「ご褒美欲しい…」
パーリラは目を閉じて顔を少し上に向けてキスをねだった。頬を赤らめ、力を概ね抜いているが、眉には緊張が見られた。リベンは唇に軽くキスをすると、パーリラの緊張が解けたように柔らかな表情となった。
「えへへ…。早く友達のところに戻らなきゃね」
後で時間がある時に落ち着いて出来たが、決闘が終わっていの一番に欲したパーリラであった。その後は友達たちの元に戻って一緒に寮へと帰った。そしてその夜にパーリラはアペソンに順位が上がったことを伝えた。
「ねえ、エジンさんにもこのことを話したら?」
「必要ないわ。学園長ならランキング順位が動いたことくらい知っている。早く競技性選手を諦めろというのがオチよ」
「そう…よね」
パーリラとエジンの仲は未だに改善していない。前に学園長室にいられるように頼んだのはリベンを止めるためで好き嫌いを言っている場合ではなかったからだ。リベンはどう思っているかと言うと、親子なのに仲が悪いのは寂しいと思いながらも、口出しすることではないと思っていた。恋人の家族とはできれば仲良くしておきたいとも思っていた。だがパーリラが嫌う人と仲良くなることは、彼女から嫌われそうで余計なトラブルは起こしたくないと考え、まず彼女とエジンの仲が改善してからにしようと漠然と考えていた。
ある夜、リベンは男子談話室の前を通ると、テーブル前に座って考えているヴァンを見つけた。
「よう、また話を考えているのか?」
「リベンか…。まあその通り」
「トモイはいないのか?いつも一緒に考えているのに」
「ついさっきまでいたけど電話があって急いで部屋に帰ったんだ。僕も帰ろうとしていたところ」
「そうか」
「でもちょうど良かった。ちょっと聞いてくれよ」
「いいけど、一体どうした?」
リベンは向かいの椅子に座り、ヴァンの話を聞くことにした。
「困っているのは好きなスポーツを題材にすると冒涜したくなくなることだ」
「それの何か問題があるのか?」
「悪役が悪事を働く話があるだろう?でもそのスポーツに愛着があるからできることが減って話が作りにくいんだ。分かりやすくうちの学校の決闘で例えよう。悪役が決闘の前に主人公を怪我させてまともに戦えない状態にしたり、人質を取って決闘を負けさせようとしたり、そういう決闘を冒涜するのが許せないんだ」
「ここの生徒ならそうだな。愛着というより敬意に近いかも」
「補足すると決闘を通じて悪事をするのはいいんだ。例えば俺が勝ったらこの世界を征服するとか、俺が勝ったらこの店は街から出て行ってもらう、みたいなのはいい。悪事自体が駄目なわけじゃない。決闘を冒涜するのが許せないんだ」
「ふむ」
「だから決闘で勝ったら連れて行くという話だったのに乱入や中断で勝敗関係なく連れ去られると、じゃあこの決闘は何だったんだよと感じる。決闘への冒涜が我慢ならない。スポーツもそんな感じだ」
「成程。何となく分かった」
「厄介なことだよ…。どうしたものか…」
ヴァンは頭の後ろで手を組んで後ろにもたれて溜息を吐いた。
「いっそ愛着のない競技を題材にしたら?極端な話、じゃんけんでも成り立つと思う。じゃんけんで勝つために人質取ったり、じゃんけんで勝ったからなんだと約束破ったりしても愛着が無いから腹立たしく思わない」
「ただの舞台装置だし、それなら気兼ねなく悪役出せるだろうけど…興味ない題材でモチベーションが湧くかどうか。まあ身動き取れないくらいならとりあえず動けるところで動くのもありかもしれないけど…」
「別のことからアイディアが湧くのはあるしな」
「…そうだね。できることからやってみるよ、ありがとう」
話を終えて帰ろうとすると、突然リベンの中で2つの話が繋がった。
あ、そうか、好きなものが冒涜されるのは拒否感があるんだ。ならばいっそのこと…。
「ありがとうヴァン、おかげで解決策が思いついた!」
「え?ああ、それは良かった…?」
よく分かっていないヴァンを置いて、リベンは立ち上がって急いで自室へと戻って行った。そして昔調べたエジンに関する情報を記した手帳を読んで確認し、アペソンに電話をしてパーリラとエジンの仲を改善するあるアイディアを話し合った。
「…ということです。どうでしょう?」
「一理あるかもね。私の方からエジンさんに話してみる。それでエジンさんからパーリラに声をかけることになるかも」
「よろしくお願いします」
「ありがとうね、色々と考えてくれて」
「いえ、俺自身のためでもありますから」
「それでもよ。じゃあ後は任せて。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
それから何日か経ち、パーリラはエジンとレストランの個室で話をすることになった。
「パーリラ、来てくれてありがとう」
「お姉ちゃんの顔を立てたまでよ」
「それでもこうして話が出来て良かったわ」
2人の前にそれぞれ料理が運ばれて食事が始まり、ひと段落してエジンが切り出した。
「パーリラ、ごめんなさい。あなたにいつか母と認めてもらおうとすることばかり考えていた。それがあなたを苦しめていた」
「……」
「私を母親とは思わなくていい。親戚のおばさんくらいに思ってもらえないかしら?」
「え?」
パーリラは驚いて手が止まり、箸で掴んでいた前菜の蒸し料理がポロリと皿に落ちた。
「あなたと同じ血を引く一族のもの。親戚として関りがある。それくらいならどう?」
「…まあ、それくらいなら。母親面されないのなら別にいいわ」
パーリラは皿に落とした料理を箸でつまみ直して食事を再開した。
彼女がエジンを嫌うのは母として接するからだ。遺伝的には母だが、育児にほとんど関わっておらず、パーリラは乳母であるアペソンの母の方を実の母のように慕っている。そのため同じ母というカテゴリに入られることが気に入らない。冒涜に感じられる。だからエジンが母親として接しようとしても上手く行かないのではないか。リベンはそう考えた。
では親戚のおばさんとして接するのならどうか。血の繋がりはあるが、育児に関わっておらず、偶に会っている人であり、実態はこれに近い。そしてその作戦が成功。パーリラもそれほど抵抗はなかった。
こうして少しだが2人は歩み寄ることができた。普通の親子関係では無理でも、普通とは違った家族の形で上手くやれる可能性があったのだ。
「アペソン、それからリベン君にも感謝しなきゃね。それからパーリラ、あなたのことを誤解してたわ」
「誤解?」
「昔は大して強くなれないと思った。でも最近変わったあなたならもしかしたら…と思える」
「ということは?」
「もう競技性選手を諦めなさいとは言わないわ。あなたの望むようになさい」
「言われるまでもないわ」
パーリラはつれない言葉遣いだったが、口元は笑みで緩んでいた。こうしてこの晩、ベルウッド親子の仲は少し改善し、これからさらに改善していくのだった。




