77話 C14
リベンはランキング上位勢は何を心の支えにやっているのか聞いてみたいと思っていた。復讐のためという理由に代わる新しいものを欲していたからだ。そんな時、授業の休み時間にリベンはあることを想い出してトモイに話しかけた。
「トモイ、ちょっといいか?」
「別に構わないよ。どうしたのかな?」
「この前、ザーク先輩が失踪した父親を捜すためにケンラン選手になりたいと言ってたと話した時に何か言いたげじゃなかったか?」
「ああ、あれね。…まあ、秘密のことじゃないよ。ただ、本人の前では言わない方がいいことなんだ」
トモイは微妙な顔をしてリベンの顔を伺った。
「それを理解して聞いてくれるかい?」
「ああ」
リベンが頷くとトモイはまず息を吸ってから話を始めた。
「ザーク先輩のお父さんは劇団のエンターテイナーだった。10年以上前、先輩が小さい頃にお父さんは劇団の海外公演のために乗った船が沈没したんだ。生存者の中に先輩のお父さんはいない。調査結果はそうなっている」
「でも先輩は失踪したって…」
「先輩は遭難したのだと信じている。どこかに流れ着いて生きていると思っているんだ。死んだところを見た人はおらず、死体が見つからなかったのだからもしかしたらどこかで生きていると考えている。まだ戻ってこないのは事故で記憶を失っているからだと思っているんだ」
「選手になって目立って父親に見つけて貰おうというのはそういうことか…」
「先輩がお父さんの生存を信じているのなら僕らがどうこう言うことでは無いさ。可能性は限りなく低いけどゼロじゃない」
「しかし事件から10年以上経っているんだろ?流石に無理なのでは?」
「僕もそう思う。でも先輩は再会を励みにして生きていけるのだから悪い事ではないと思うよ」
確かに他人が口出しすることじゃない。しかし、それでいいのだろうか…。
「分かった、ありがとう」
「どういたしまして」
リベンは思うところはあったが、迷ったため考えて一度寝かせておくことにした。
夜の寮、アペソンの部屋でパーリラが姉に相談をしていた。二人でちゃぶ台を挟んで座布団に座り、話をしていた。
「…というわけですぐに捨てられるってことは無さそうだけどそれに胡坐をかいてはいけないわ。ライバルに勝つ、もしくはライバルが不得手とする部分で優位に立たないと。お姉ちゃんの知恵を貸して欲しいの」
「分かった。どこまで力になれるか分からないけどやってみる」
「早速だけど、どういう方向性で考えたらいいかな?」
「多分、話が面白いとか虫が駄目とかじゃなくて、もっと根源的な…価値観を考えてそこから得意不得意を考えるのがいいと思う。好きなものから価値観を考察してみるとか」
「彼女の好きなものといえば野鳥の観察ね。鳥を飼育するのは興味ないみたい。野鳥観察といってもそのために険しい山に入ってまで観察する訳じゃなくて、その辺で見られるのを眺める程度」
「ふーん…飼育や難所での観察は面倒だからというのも考えられるけどまだ何かあるのかも。他には?」
「あと全く関係ないけど、金融理論が面白くて好きみたいよ。でも数学が好きなわけではないみたい、嫌いというほどでもないけど」
「金融理論ってことは市場の動きか…もしかしたら…」
「何か分かった?」
パーリラは食い気味に尋ねた。
「彼女の友人たちは個性的な人が多くない?」
「確かにそんな気がする。でもそう聞かれるとそんな気がするけど、本当は普通かもしれないわ」
「そうね、それもありうる。でも一応仮説は立ったわ。もしかしたら自分とは違うルールで動いているものが好きなんじゃない?野鳥も市場も支配できるものじゃない。その法則性を読み取って予想するのが好きとか、支配じゃなくて反応を見るのが好きとか」
「あー…成程…言われてみれば。何かあまり支配や独占をしようとしないというか、相手には相手の生き方があるという態度の感じがするわ」
「だとすれば得意とするのは観察や変化、相手のやりたいことの尊重、不得意とするのは支配や管理、同じことを繰り返す単調なことじゃないかな?」
「成程!ありがとうお姉ちゃん、確かめてみるわ」
「いくら管理が不得意分野だからってリベン君が管理されることを嫌うようだったら、カバーしているようで逆効果ということもありうるから気を付けてね。それから単調なことでも少しなら落ち着くから好きということも」
「そうね。気を付けるわ」
アペソンは役に立てたようでほっとした。
「それにしてもお姉ちゃんどうして思いつけたの?」
「脚本作る授業もあるんだけどね。そこでクラスメイトに言われたことがあるの。この妖怪キャラ、人間みたいで嫌だと。まあ、彼の好みに合わないだけで気に入ってくれた人もいたけどね」
「妖怪キャラが人間みたいで嫌?どういうことかしら?」
「彼が言うには妖怪には妖怪のルールがあって、それに則って動いて欲しいということだったわ。私が書いたのは人間と同じところで怒って人間みたいに嫉妬したり悩んだりするキャラだった」
「私は物語に疎くて分からないけど何か問題なの?」
パーリラはクッションを抱いて不思議そうに尋ねた。
「例えば翼の生えた人型種族がいて人間と全く同じ考え方でも、翼があるキャラが加わることで見栄えが良くなるということあるじゃない?人間と同じ考え方なら分かりやすいし、いいと思うけど…?」
「そういう緩めの考えもあるわ。彼はちょっと厳しめだった。彼は人間ではなく妖怪という設定を使うからには妖怪の世界を見たかったの。妖怪にとっては普通、しかし人間にとっては変、どうしてそんなことをするのか、それを見るのが醍醐味という人だった。そういう関心は0か100じゃなくて10とか70とかの強弱らしいわ」
「へえー。ちなみにその人はどんな脚本を書いたの?」
「変わっててよく覚えているのだと…ある人型の種族が食べるためではなく遊びで動物を殺す種族だというもの。変でしょう?私たちから見れば不道徳で残酷な存在に見える。彼の場合は、外の世界から来た正義の主人公がその悪の種族を倒すという話ではなく、その種族の謎を解明して理解する話になる。マニアック寄りね」
「理解…そんな種族を…?」
パーリラの素直な反応にアペソンはやっぱりそう思うよねとかつての自分に共感を得て嬉しそうだった。
「その種族が遊びで動物を殺して回ることで死体ができ、それを食べる動物や植物、菌類などに栄養が供給されて生態系が構築されていて、無くてはならない存在になっているの」
「絶滅したら戻って来てくれと言われてももう遅い、みたいな?」
「そうなるわね。それから、あらゆる動物を狩れるので戦闘力が高く、同族同士の争いでは直接戦わない方法を取るようになっているとか、優れた狩人であることを示すことが高く評価され、一思いにアッサリ殺したり数を誇るのは幼稚で、様々な技術を使って結果的にいたぶって捕まえるのが立派と評価されるとか、変わった生態や文化を垣間見ることができたわ」
「共感はできないけど納得はできるわね」
「そう。それと比べたら私の書いた妖怪はちょっと強いだけのただの人間ね。彼の書いたものでは、主人公が残酷だと怒る場面もあれば、主人公が死んだ動物を埋葬しようとしてその種族が土で汚すなと怒る場面もある。価値観が違うから怒りのポイントが違うのよね」
「どうして埋葬が駄目なのかしら?」
「他の動物たちがその死体を食べに来るので、彼らが食べにくくなるように汚してはいけないという考えがあるかららしいわ」
「成程…生態系が出来ていると言っていたものね」
パーリラが黙って考えて感心している間に、アペソンはお茶を飲んで喉を潤した。
「私は役を演じる時に、この人物はどう思うか?と考えて演じるけど、私だったらどう思うか?とついつい考えてしまう。でもそれじゃ駄目なのよね。極端な話、殺人鬼キャラを演じるなら、それでも私だったら殺人を選ばないと思って距離が取れるから、このキャラはこういう考え方をしてこう結論づけるんだと考えやすい。でもそこまで私と離れていないキャラだと気を付けないと私の価値判断に寄ってしまう。私だったら怒らないけど、そのキャラなら怒るのが正解とかね」
「劇ではそういうこともあるのね、大変そう」
「でも楽しいわ。自分じゃない人を演じることで外から自分を相対的に見ることが出来て楽しい。人間ではない種族には異なる文化があると考えることもそれに近いのかもね」
「ふーん。ちなみにそのクラスメイトって誰?」
「ザーク君。上位勢はよく考えてそうだから細かいのも納得ね」
ランキング5位。一桁台唯一の演技性選手コースの生徒。その思考力がありながら、本当に父の生存を信じれるものなのか。それとも想像力の高さから信じられるのか。




