71話 B25
亜綿郎は興味を持って観察していたリベンの復讐の終わりを確認し、振り返っていた。様々な人が彼の行動に作用して止まることができた。彼の最大の課題は解決したが、彼と親しい少女たちの問題はまだ残っている。どう転ぶか引き続き観察することとした。彼らを見続けたことで心に変化が生じて来ていた。
事件から約1週間後、リベンは落ち着いてきて次の行動を考える余裕が出て来ていた。ウィンドウを出してメッセージを送り、共同談話室にパーリラを呼び出し、机を挟んで座って話をした。
「今週の土曜にどこか2人で遊びに行かないか?お互いをよく知るためにいいと思うんだけど…どうかな?」
パーリラはデートの誘いに動揺しつつも嬉しくて気分が高揚して顔を赤らめた。
「…午後からでいい?」
「ああ。その方が楽でいい。俺夜型だからな。どこか希望はあるか?」
「じゃあ、その…一緒に夜景でも…どうかしら?」
「そういやお前も夜型だったな。実家通いでもない。うん、いいんじゃないか?他に希望はあるか?」
「あんたも希望言ってよ」
「特にどこかという希望は無くて、お前と過ごせるならどこでも」
「じゃあ逆に行きたくないところは?」
「絶対に嫌というわけではないけど、遊園地やクラブみたいな騒がしいところはあまり…。行ったら楽しいかもしれないけどな。それと暑いから昼間の屋外に長時間は嫌だな。渓流のような涼しいところは別として。それくらいかな。お前はどうなんだ?」
「私は…」
パーリラは言おうとして止まった。もし自分の苦手なものをリベンが好きだったら彼女でいられなくなるかもしれない。自分が我慢すればいいだけと考え、余計なことは言わないようにと。
「私も日中の屋外は嫌ね。まだ暑いから。それくらいかしら」
「ふうん…」
こいつは素直じゃないから言葉通りに受け取るべきではないように思う。とはいえ、裏を考え続けるのはしんどいものがある。復讐のための足掛かりだった時はそれでも縁が切れないように嫌々やっていたものだが、復讐はやめて恋人になったのだから無駄に深読みしてそれを負担に感じて嫌いになりたくない。人並に気を遣うことはしても、暴君の機嫌を損ねないように気遣うような真似はしたくはないな。まあまだ恋人になったばかりで遠慮があるだろうから慣れてきたら上手くいくことだろう。
「夜景は具体的に見たいところあるか?」
「その…港から遊覧船が出ているの。乗ったことはないけど、海面に揺れる街の明かりやコンビナートの照明が綺麗と聞くわ」
「へえ、高所からではなくて海の上からか。面白そうだな。時間はどれくらいか知ってる?」
「ちょっと待ってて」
パーリラは携帯を机に置いてウィンドウを宙に出してその場で調べて画面共有で表示した。
「大体45分程度。1時間はかからないわ」
「成程。じゃあ近くで夕食取って、船に乗って夜景見て、余韻に浸りなら終了。それでどうだ?」
「食べたすぐに船に乗ると気持ち悪くなりかねないわ」
「ああ、少し時間を空けておこう」
「ん…お出かけは夕方からということ?」
「そういうこと」
パーリラは短いな…と感じたが文句を言って嫌われたくないので黙っているとリベンの方から尋ねて来た。
「それじゃ物足りないか?」
「ううん、そんなこと…」
パーリラは見つめられて嘘をつく方が良くないと感じ、素直に答えた。
「いや、もっと一緒に過ごしたいわ」
「あんまり長いとメインの夜景に行く前に疲れてしまいそうだけどな。じゃあその前に水族館や美術館にでも行こうか?屋内で涼しいだろう。ケンランの試合…は普段見ているし飽きるか」
パーリラはリベンが母を思い出して苦しまないように芸術や美術はすぐには避けようと考えた。余計な心配かもしれないが念のため。
「どちらかと言うと水族館だけど…夕飯に船と結構かかるけどお金大丈夫?」
社会人ならなんてことない額だが、学生の彼らにとっては結構な額である。
「全部足すと結構するな…」
「じゃあ行く時間を早めるんじゃなくて帰る時間を遅くしない?日が沈んで海風が涼しい時間なら外歩けるわ。港を散歩しましょう」
「そうだな。それで行こう。寮を出る時間だけど5時でいいか?向こうに6時ちょっと前に着く」
「時間はいいけど寮での待ち合わせは嫌よ」
「なんで?」
「おしゃれな恰好で待っているのを友達に見られたら恥ずかしいから。茶化されそう」
「あー…まあ気持ちは分かる。じゃあ学園前駅集合にするか?寮を出る時間が同じくらいになるかもだけど」
「その方がいいわね」
「んじゃ決まり。後は…」
その後、詳細やスケジュールの確認をして解散した。
そして平日の授業やトレーニングを終えて迎えてやってきた土曜日。リベンが寮を出た頃は、日は傾いて薄く青い空となっていた。日差しは弱まっているが、地面が放熱して肌に熱が感じられた。曲がり角を進む際に目の端にパーリラの姿が見えた。少し離れた後ろを歩いていたようだ。曲がり角の先で立ち止まって待っていると、彼女が曲がり角を曲がったところでリベンに気づいて驚いて目を見開いた。
「ちょっ…何でそこで立ち止まってるのよ?」
「近くにいるみたいだし一緒に行こうと思って」
「わざわざ見えないところで待つなんてびっくりするじゃない」
「その方が面白そうだったからな」
「私をからかって…」
「はは」
パーリラは満更でもなさそうな顔で恥ずかしがって追い抜いて歩き出した。リベンは横についていき並んで歩いた。
彼女の服装は淡いピンク色のワンピース姿。バッグを肩から斜めにかけていて、胸元には透ける白いリボン、裾には透ける白いレース。起伏の小さい体形のため、ワンピースを着た姿はすっきりとしたシルエットで、白とピンクの膨張色に包まれていても太く見えずに甘い雰囲気を漂わせている。ひざ下は健康的なふくらはぎが見え、靴は灰色がかった薄紫のヒールで黒ほど強く引き締めた雰囲気にせず、程々に引き締めていた。彼女が動くたびにリボンやレースがワンテンポ遅れて揺れ、視線を引き付ける。
「かわいい。甘い雰囲気の服も着るんだな」
「お姉ちゃんが選んでくれたもので…。でも本当に?お世辞じゃない?」
「本当だ。綺麗なシルエットでよく似合っている」
「でも…」
リベンは面倒くさいと思ったのが顔に出て、パーリラは横を向いた時にそれが見えて急いで謝った。
「ご、ごめんなさい。私うざかったわね」
「いいよ。そうビクビクせずに楽しく行こう」
分かりにくい態度も困るけど、謝られてばかりなのも困るな。だけどつい他の人と比較してあいつならこんなことないのにな…と思ってしまうのは良くないな。今日はこいつのことをよく知るために来た。余計なことは考えずに真正面から当たろう。
黙って歩いているとパーリラが話を切り出した。
「あの…私、髪を切って来たんだけど」
「え?ああ、そうだったのか。分からなかった。すまん」
あまり変わった気はしないが髪の雰囲気が少し綺麗になった気がする。
「綺麗になったな。あ、普段から綺麗だよ。いつもよりってことだ」
「気づかなかったのは許してあげるわ」
パーリラは嬉しそうな声で目を逸らして言った。弱気になっていたかと思えば今度は強気な物言い。一見すると一貫性のないように見えるが、彼女の性質は一貫していた。
そして駅に着いて電車に乗り、港に向かった。電車に乗っている間パーリラは緊張してカチコチになっていた。港町で降りてレストランで夕食を取っているうちに、徐々に緊張は解れてまだリラックス状態とはいかないまでもある程度朗らかな顔となっていった。
食事を終えて外に出ると日は沈み、空はまだ青さが残るが薄暗くなってきていた。灰色のブロックを敷き詰めた道を黄色い光の街灯が点々と照らしており、木や建造物は薄く青い空を背景に黒いシルエットとして見えていた。この薄暗さで2人とも気分が落ち着き、特にパーリラは自信のない自分の姿を闇で誤魔化せるようで気持ちが楽になっていった。
船の時間まですぐ近くの広場の石造りの椅子に座り、夜風を肌で感じ、船や海を眺め、人々の声や船の音や近くのターミナルの案内を聞きながらゆっくりと待つことにした。リベンは無言でも平気だったが、パーリラはつまらない人と思われて捨てられないように何か喋らなきゃと不安になって食後の回らない頭でぐるぐると考えていた。




