↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁転生 壁になって悩める若者たちを高みの見物  作者: Ridge


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/85

67話 B22

 夏のユリブラン学園では、強い日差しの下、校舎も寮も花畑も照らされ闇に隠れることなく全容が見えていた。暗闇の中で一点を照らすのではく、全体が光に包まれていたことで却って個々の存在が目立たなくなっていた。

 そんな中、リベンは授業を受けている間も復讐計画を練っていた。


 まず考えられるのが俺がエジンへ直接攻撃を行い殺害する方法。刃物でも鈍器でも。だがこの方法は避けたい。エジンは選手を引退して随分経っていて、俺の方が身体能力が高いだろう。一見して有効に思えるが、元選手だけあって殺気を読まれて逃げられる可能性が否定できない。殺気を出さずにというのは慣れている人にはできるかもしれないが、俺の場合は強い殺意を抱かなければ体を動かすことができないだろう。戸惑って外した上にカウンターを食らえば目も当てられない。


 直接では成功率が低いと考えられる。となると、毒や罠の類が有効だろう。だがこれは関係ない人を巻き込みやすい。関係ない人を巻き込みたくないので、廊下や階段などの他の人が通りやすい場所や給茶機など他の人も使うものに仕掛けることはできない。学園長室や自宅なら、他の人が訪れることもあるが巻き込む可能性は大きく減らせるだろう。

 学園長室内の構造は以前に訪れた時に覚えた。外部については職員室の横にあり、廊下は教師の出入りが頻繁ではないがある。しかし、堂々としていれば見られたとしても学園長に呼ばれたのかな?と思われるだけで怪しまれないだろう。問題は鍵。学園長室には鍵がある。

 学園長が部屋にいる時は鍵がかかっていない。しかし、いない時間帯には鍵をかけていることだろう。鍵は学園長とおそらく職員室や管理人室にもスペアがあるはず。そこから取り出すのは余計に目立つ。トイレや給湯室に行き、短時間外す場合はわざわざ鍵をかけないと思う。確実ではないが、可能性はある。その隙を狙って入ると良いだろう。もし鍵をかけている場合は次の方法を考える。まずはこの方法で行く。


 やるなら毒だな。飲み物に入れるのがベストだが、机の上に飲みかけのカップが無い場合は、椅子や机、ペンなどに毒を塗るのがいいだろう。トゲ付きもいけるか。毒ガスを発生させる方法ではやる前に自滅する可能性がある。扱いきれる気がしないから止めよう。

 終わった後なら犯人だとバレてもいい。どの道復讐を終えれば俺の人生は終わりも同然。今更他の生き方を知らないんだ。普通に生きられるように見えるのは復讐を悟られないための擬態だ。復讐のためだと思うことで受け入れてできたことばかり。ここに来て最初にパーリラと友達になろうと言ったことだって、これは復讐のためだと思うことでできたこと。素面でできるとは思えない。復讐という目的が無くなれば俺を支えるものが無い。この世界に支えも無しに放り出されると考えると恐ろしい。

 復讐終了後であればバレてもいいが、事前にバレるのは避けなければならない。何も成し遂げられないまま終わってしまうからだ。慎重に行かなければ…。


 その後、リベンは何日かかけて隙を伺いつつ、その合間に裏山の植物から毒を調達し、抽出して瓶にため込んだ。ある日は早朝に学園長室を訪れ、鍵の施錠状態を確認した。予想通り鍵がかかっており、予定通り開いている時間帯を狙うことに決めた。他にも先生に会いに行く理由を作って職員室に行き、部屋の壁にある予定表を見て学園長が学園にいる日を把握して実行日の目星をつけた。


 教室では何ともないように過ごしたが、若干の不自然さは出てしまった。だがそれを即座に復讐計画によるものと結びつけるのは困難。


「次のランキング戦はどうするんだい?」


 休憩時間の教室でトモイはリベンに次の決闘のことを尋ねた。最近は決闘も特訓もしていない。


「うーん、暫くお休みかな」

「どうして?負けて心が折れたとでもいうのかい?」

「そういう訳じゃないんだが…」

「モチベーションが湧かないってところか。まあ7位はすごいものね。十分と思ってしまってもおかしくない」

「そうなのかもな」


 トモイはリベンのランキング戦に興味を失ったような印象を受けた。他に気になることがあるのか、いい試合が出来て満足して燃え尽きたのか、そこまでは分からなかった。ただ、充電期間が過ぎればやる気が戻るかもしれないと気楽に考えていた。


「まあ、一度離れるのもいいかもね。暑さも収まればまたやる気が出てくるさ」

「…そうかもな」


 嘘をつくことへの後ろめたさや、下手に喋って勘繰られないようにしようという考えから、煮え切らない返答になった。とはいえやる気を失っている風にも見えることでそこまで悪い返答でもなかった。



 そしてある日の放課後、チャンスが巡ってきた。学園長室からエジンが出て鍵もかけずに職員用のトイレに入って行くのを確認し、学園長室へと足早に近づいて少し扉を開けて中を見た。中には人の姿はなく、絶好の機会に見えた。

 リベンは緊張から震える手にぐっと力を入れて握り震えを抑え、苦いつばを飲み込んで扉を開けて中へと入った。そして素早く周囲を見渡し、学園長の席に行き、懐から毒の瓶を取り出した。


「駄目ぇー!!」


 机の裏からパーリラが飛び出してきて腕を掴んでリベンを止めた。


「なっ、なぜここに…?」

「それは何?」


 パーリラはリベンの問いかけに答える気がなく、腕を振っても掴んだまま離さなかった。

 だが人に見られたとしても想定の範囲内。落ち着きを取り戻して対処した。


「ただのアロマオイルだ。学園長にお願いがあって来た。これはちょっとした話題作りのための道具」

「嘘。毒薬か睡眠薬か何かでしょ」

「何言っているんだ?馬鹿馬鹿しい」


 こうしている間にも時間が経ち、エジンが戻って来るかもしれず焦った。今回は駄目だ、分が悪い。次の機会にしよう。


「…こっそり会って頼み事するつもりが失敗か。賄賂を積もうなんてもうしないから黙っててくれ」


 リベンは腕を勢いよく引いてパーリラが掴む手を離し、部屋から出ようとした。


「あんたが学園長を恨むのはツーホ・ルベンシュの息子だから?」

「え?あの魔女がなんだって?」


 表面的には何事も無い風に尋ねたが、心の中では激しく動揺していた。「は?」とだけ言っておけばいいものを、不自然な返しとなってしまった。アペソンが聞いたツーホの話のこと、アペソンがリベンに話したことを、パーリラが聞いていたら、魔女じゃないと知ってるはずなのに魔女と言うのはおかしいと思われる可能性があった。


「とぼけても無駄。ここ数日で既に調べ上げたわ。でもまだ他の人には言ってない」

「弱みを握って俺を縛るつもりか?」


 リベンは足を止め、振り向いてパーリラの顔を見て尋ねた。その目は冷めたく、疑い、探るように観察していた。


「ちがっ…そうじゃなくて…」


 パーリラは好きな人に誤解されて精神的なダメージを受けた。しかし、ここでショックで動けなくなっていては取り返しのつかないことになると直感し、苦しいながらも踏みとどまって考えた。


 くそっ…どうする?パーリラを巻き込むつもりは無かったが、このまま残して逃げれば危険だ。だがなぜ学園長室にいたのかは分からず、エジンが戻って来た時にこいつが部屋からいなくなっていれば怪しまれるだろう。しかし、部屋に残して今あったことを喋られるのはもっとまずい。とにかく連れ出して後で急用があって出て行ったと喋らせるのがベターか。場合によっては痛めつけてそう喋らせるしかない。その後は…口封じに殺すしかないか。巻き込みたくなかったがすまない。

 リベンは雪剣の入っている腰のホルダーに指を伸ばした。雪剣で斬りつけて麻痺させ、抱えて連れ出す。早くしなければエジンが戻って来る。


 もはや一刻の猶予もない。素直になれず、思っていることと違うことを口にしてしまうパーリラにとって、言葉でリベンを説得することは困難と判断した。剣の腕でも敵わない。できることはないと思われていた。しかし彼女は行動を起こした。

 パーリラはリベンに近づき、服を掴んで引き寄せ唇にキスをした。目を閉じて頬を真っ赤にしながら、相手を押して壁に追い詰めた。予想外のことにリベンは驚いて固まり、目を見開いて後ずさるも壁に追い詰められたのだった。パーリラはそっと唇を離し、つま先立ちを止めて少し下がり、恥ずかしそうに目を開けてリベンを見上げた。


「これが私の気持ち…だからもう馬鹿なことはやめて…」


 相手が大切だから凶行を止めたい。言葉ではなく行動で示した。後はそれが伝わったかどうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。