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壁転生 壁になって悩める若者たちを高みの見物  作者: Ridge


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61話 B20

 パーリラは部活を終えて寮に戻ったが、リベンはまだ帰って来ていなかった。一度自室に戻って着替え、連絡が来るのを待っていたが、ついに待ちきれなくなって寮内をうろつき始めた。

 そうしていると、廊下を歩いているシュロンを見つけた。ランキング一桁台であるということは知っているが、対戦したこともなく話したこともない先輩だ。他に知っているのはリベンと同郷で幼少期に会っていることくらい。どうしても気になることがあり、勇気を出して話しかけた。


「こんばんは、シュロン先輩」

「こんばんは。パーリラさん。どうかした?」


 パーリラもランキングに名が乗っていることと学園長の娘であることから、知名度は結構高い。シュロンも当然知っていた。


「決闘でリベンに勝って朗読させたようですが、一体どんな内容の本を?」

「あれ?彼から聞いてないの?」

「聞きそびれてしまって…」

「もしかして声をかけられないような落ち込みだった?」


 シュロンはヒヤッとして食い気味に尋ねた。


「いえ、そういうことでは…。ただ聞くタイミングが無かっただけです」

「そう…」


 シュロンは一安心して息をゆっくり吐いた。

 パーリラはそう言ったが、実際は予想が当たって告白文を読ませていて答えたらと思うと怖くて聞けずにいただけである。そしてその結果をリベンの口から聞くのも怖くて、シュロンの口から聞けるのならその方がまだ心の準備ができると思った次第だ。


「あたしも色々聞きたい。談話室で話さない?」

「は、はい…」


 2人は女子談話室に入り、ソファに座って話をした。どんな本を読ませたか、リベンの様子はどうだったか、そして段々と話が逸れて昔の様子を聞いたり、故郷のことを聞いたりした。熱心に尋ねてくる様子からシュロンはパーリラの心の内を察し、その想われ人を危険に晒したことに後悔が増していった。同時にパーリラはリベンについて詳しく調べる足掛かりとなる情報を得ていった。

 2人とも喋らずお茶を飲んだタイミングで、パーリラの携帯に連絡が入って着信音がした。画面を見なくとものメロディの違いでリベンからだと分かった。それが表情に出てキリもいいのでシュロンは話を終えることにした。


「色々聞けて良かったよ。ありがとう」

「こちらこそありがとうございました」


 パーリラは部屋を出て廊下で返信し、自室に戻って冷蔵庫から料理の入った容器を取って共同談話室に降りて来てリベンの前に来た。


「これ…ただ粉をまぶして焼くだけの簡単なものだけど…」

「いや、立派な料理だよ。ありがとう」

「言っておくけどもっと難しい料理だって作れるんだからね。この程度と思わないで」


 リベンが受け取って腕を引こうとするがパーリラは中々手を離さなかった。


「ステーキやホットケーキだってほぼ焼くだけの料理だけど、シンプルな分、腕の差が出るじゃないか。きっと腕は分かるよ」

「それらだって下準備が…いや、それを言ったらこれも同じね…。そう言われたら緊張するわ。出来立てはもっと美味しいから…」

「何なんだよもう。そう心配するなって」


 リベンはじれったくなってぐいっと引き、パーリラは姿勢を崩して手を離した。


「剣術では強気にガンガン攻めるのに料理は小心者だな」

「全然違うから当然よ」

「はいはい。じゃ、食堂で食べるとしよう」

「一緒していい?」

「いいけど、部活でもう食べたんじゃないか?」

「ヨーグルトだけにするわ」

「そうか。まあいいけど」


 2人は食堂に入り、料理を注文して夕食を取った。パーリラはお椀に入れたヨーグルトにドライフルーツを入れるだけの簡単なもので先に会計を終えて給茶機に寄ってお茶を淹れたお椀を盆に乗せて席に置き、リベンから容器を受け取ってレンジで温めておいた。この食堂には外から持ち込んだ食事用に温める設備がある。見た目や使い方は電子レンジと同じだが、この世界の物質を使ったもので温める原理が異なり、温めても固くなりにくい。

 リベンも会計を終えてパーリラの対面の席について夕食を食べ始めた。


 パーリラが今週の部活で作って持ってきたのは白身魚のパン粉焼き。横に色鮮やかな湯で野菜が添えられている。白身魚をスパイスとハーブを混ぜたパン粉で覆い、油を引いたフライパンで焼くというもの。部活では副菜など他にもいくつか作るが、何品もあると面倒がられると思い、一品だけにした。


「綺麗だな。さてどんな味かな」


 パーリラは手を止めてリベンの表情を見た。目は恥ずかしくて合わせられないので目の下辺りを見つめた。

 リベンが口にすると、様々なスパイスやハーブの香りと味で新鮮な気分になった。普段食べない味で最初は戸惑ったが美味で幸福感があった。自分の知る世界はまだまだ小さく、広い世界があるのだとここでも感じた。


「ど、どう…?」

「美味い。火加減がちょうどいいのか違和感が無く、美味しい。火を通し過ぎてボソボソとすることもない。味も馴染んでいて、とんがった感じもなく…。いや、すまんな、上手に表現できなくて。変じゃないってことしか言えてない。調和がとれていると言えるか?とにかく美味い、よく出来てるよ」

「伝えたいことは何となく分かったわ。口に合ったようで良かった…」


 パーリラは緊張を解いて息を吐き、お茶を飲んで緊張して乾いてた喉を潤した。


「これはスパイス多めで誤魔化しが利くけど、もっとスパイス少ないのも美味しく作れるから」

「これだけ上手だし、きっとそうだろうな。ごちそうさま」


 リベンはパーリラから貰った分を先に食べ終えて礼を言った。その後、残りの夕食を食べ終えた後、食堂を出て別れる前に話をした。


「ありがとな。容器は洗って返すよ」

「いいわよそれくらい。私がやるから」

 パーリラは容器を渡さずに後ろに回して掴ませなかった。

「まあ、そう言うなら…悪いな」


 ここで食い下がっても鬱陶しいだろうと、それ以上は言わなかった。


「じゃ、おやすみ」

「おやすみ」


 廊下で別れてそれぞれ自室へと戻って行った。

 パーリラは自室に着くと、緊張の糸が切れてベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。その顔には笑みが零れ、喜びで足をパタパタとさせた。遊んでいて剣術を忘れているわけではない。新しい喜びを知り、剣術を冷静に見る余裕が生じ、余計なこだわりを無くして、より強くなるためのものだったのだ。


 自室に着いたリベンは息を吐きながら椅子に座りこんで後ろにもたれかかって天井を見上げた。

 料理は上手かった。手料理を食べさえてもいい相手だと信頼してくれているのも嬉しい。しかし、だからこそ受け取るのは失敗だったかもしれない。あいつから受け取っておきながら、その親を奪うのは気が引ける。いや、受け取ろうが受け取るまいが、あいつの家族を奪うのに気が引けていただろう。何を今更だ。それにあいつが嫌っている親じゃないか。気に病むことはない…はず。

 リベンは悩んだが食後なこともあって眠くなり、目を閉じて眠りに落ちた。パーリラからの贈り物はただ腹を満たすだけではなく、心を癒して彼に一時の安らぎをもたらしたのだった。



 夜、ミクロナが部屋から出ると、すぐに廊下でシュロンと会った。


「クロ、ごめん。あたし、決闘の勝利に浮かれていた。冷静になったら、ベンに危ういことをしていたと今では反省してる」

「本当?」

「関りのない後輩の子と話して、関係ないこの子は巻き込まれて一緒に受け入れるなんて無いだろうと思った」

「…?」


 関係なさそうなことを言い始め、話がどう繋がるのかミクロナは耳を傾けた。


「その時に、じゃあクロならいいのかと甘えていたことに気づいた。クロとはとても親しいから、もし失敗しても一緒にその結果を受け入れるだろうと勝手に考えて甘えていたところがあったんだ。ごめん」

「私こそごめん。シロちゃんだって悪気があったわけじゃないのに悪人みたいに言って…」

「じゃあ仲直りの証」


 シュロンは腕を広げ、ミクロナも腕を広げてハグした。彼女らの故郷では女友達同士で抱き着くのはよくあることであるが、セレネベセアにおいては珍しい。しかし気にせずこのボディランゲージを以って仲直りとした。仲の良い友人に戻れた。

 シュロンがリベンに行った探りは危険な賭けではあったが、運命の悪戯か、復讐計画へ移行直前のタイミングだったことで、結果的にリベンの選択に影響を与えるのだった。

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