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壁転生 壁になって悩める若者たちを高みの見物  作者: Ridge


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57話 A9

 リベンが広場にやって来てから約3分後にシュロンもやってきた。友人たちに鞄を預けて一人でリベンの方へ近づいてきた。


「早速始めよう。ベン、準備はいい?」

「ああ、いつでも大丈夫だ」


 2人は雪剣と仮面をホルダーから取り出し、起動し始めた。決闘のマーカーが周囲に引かれ、内側にいた生徒たちは線の外へと出て決闘の準備が整った。

 リベンもシュロンも両手持ちで肘を曲げて剣を正面に構えて向き合った。


「3」

「2」

「1」

「0」


 張り詰める空気の中、両者ジリジリと距離を詰め、剣先が触れ合いそうな距離まで近づいて足を止めた。

 最初に動いたのはシュロン。急加速して雰囲気が静から動へ一瞬で変わり、前に体を出しながら肘を伸ばしてリベンの左肩の上から斬りつけた。しかし、リベンも剣を横に動かして横へ押しのけ、肩より左側にずらし、そのまま相手の剣を押し付けながら相手の腕めがけて斬りつけた。

 シュロンは後退して体全体で後ろに引いて剣を戻して地面に垂直に持って防ぎ距離を取った。リベンは追撃せず、距離を保ったまま剣を手前に引き戻した。ここまでが一瞬の出来事で、観戦している多くの生徒たちは雪剣の光の軌跡で何とかやり取りを見ることができた。


 シュロンは大きく振りかぶり、胴体ががら空きになった。しかしリベンは罠の気配を感じ、その隙を突くことはせず守りに徹した。事実、リベンが斬りこんで来たら返り討ちにする算段ではあったが、そうならないとしても、先ほど急加速の印象を与えたことで相手の動きを抑制し、自分が動きやすいように場の空気を作り出していた。


 リベンは強く振り下ろした剣を角度を付けて流そうとしたが、相手はそう簡単には思い通りにはさせてくれず、剣に当たった反動を利用して軌道を変え、連続で斬りつけてきた。リベンはその剣を小さな動きで斜めに受け流したり、横に押しのけたりしていったが、その過程で死角が生じ、シュロンはその隙を見逃さずに突いて来た。


 リベンはその突きを防いで横に流した。死角はあった。しかしそれはその場での話。後退して剣を戻す僅かな時間と、相手の攻撃が届くまでの僅かな時間を加えれば死角ではなくなる。攻撃を防ぎ、剣を横に押しのけ、できた隙に斬りかかるも、素早く剣を戻されて防がれた。

 そして弧を描くように剣を押しのけられ、遠心力で外へと弾き飛ばされかけたため、同じ向きに回して垂直に交差させて前に押し付けて動きを崩した。反射的に逆回転をかけよううとすると、よほどの筋力差が開いていない限り押し負ける。シュロンが斜め後ろに下がり、剣の押し合いを避け、リベンの剣がその勢いで上へと抜けて体ががら空きになった。


 その隙をシュロンは横斬りをしかけた。リベンは剣を戻すのは間に泡ないと考え、体を後ろに逸らしてシュロンの素早い横斬りを避けた。シュロンはその際に左手を離して右手で剣を持ち、それを勢いよく右回りに振ったため、左側ががら空きとなっていた。それは様子見や牽制ではなく、これで決めるはずの一撃に思えた。リベンはその隙に体を前に起こして上から両手で斬りかかった。

 しかしシュロンはその場で更に右回りに体を一回転させ、右手から左手へ剣を持ち換え、捩じるように相手の剣を弾き飛ばして腕を突いた。すかさず両手持ちに変え、返す刀でリベンの腕を斬りつけ、両腕を麻痺させた。


「なっ!」


 両腕が動かなくてはシュロン相手に守れるはずもなく、高くゆらりと上げた剣から勢いよく振り下ろされた袈裟斬りを食らい、体が麻痺して膝をついた。

 決着がつき、ウィンドウには勝者シュロン・アドウィステリアと表示され、2人の名前の前に書かれた順位の数字は変動がなく終わった。


「あたしの勝ち。約束は守ってもらうよ」


 シュロンは雪剣をオフにして刃を消して、仮面を外してホルダーに入れ、しゃがんでリベンの雪剣をオフにし、仮面を外した。

 雨がポツポツと降り始め、周囲の生徒たちは決闘が終わったのもあって多くは雨を避けて去っていった。


「雨降って来たし、朗読の件はまた後で…今夜話そう」

「シロちゃん、お疲れ様」


 シュロンの友達たちがやって来てシュロンは友人から傘を借りて入った。傘を差したミクロナはしゃがんでリベンを傘に入れた。


「ベンちゃんもお疲れ様。試合良かったよ」

「ども…」


 リベンは麻痺が残る状態で声を絞り出して返事をした。

 トモイやパーリラたちがやって来て、ミクロナはそれに気づいて彼らを見た後、そっと立ち上がった。


「後は任せるね」

「はい」


 リベンはパーリラの差した傘に入り、ミクロナは待っていたシュロンの方に行き、彼女たちは一足先に寮へと帰っていった。


「残念だったわね。でも食らいついていたし、そんなに力量差は無かったんじゃないかしら」

「いや…」


 リベンは言いかけて体が麻痺してまだ上手く喋れず、麻痺が解けるまで待った。


 直接戦って分かった。シロちゃんの読みが鋭いというのは確かにあるが、重要なのはそこではない。ゲームメイクが強い。法則性や隙を見せて誘い込み、その裏をかく。相手に合わせて裏をかくのではなく、自分から状況を作り出して追い込んでいく。連続攻撃で対応できない形へと追い込むのは基本的なやり方だが、シロちゃんの場合は攻めだけでなく誘い込みも混ぜている。対戦相手が読みを外して逆を突かれているように見えていたが、おそらく全てがそうではなく、誘いこまれていたのだ。


 やや攻撃的なオールラウンダーと思っていたが、考えを改める必要があるな。ある意味でカウンター狙いの防御型だが、攻撃によってその隙を作り出すという意味ではやはり攻撃型だ。戦い方を考え直さないといけない。そういう意味では直接戦えてよかった。罰ゲームが待っているが。

 リベンは麻痺が解けてきて、上手く喋れるようになった。


「食らいつくというのは違う。俺に合わせていたんだ」

「どういうこと?」

「シロちゃんの動きは、相手より早く自分の得意な強い動きを押し付けていくのではなく、相手に合わせてリズムを作り出し、誤解させるような動きだ。隙があると思わせて誘い込み、そこを返り討ちにする。だから相手に合わせているから互角とまではいかないまでもくらいついているように見える」

「そうだったの…?」


 パーリラはリベンとシュロンのレベルについて行けてない様子でショックを受けた。エジン相手に啖呵を切ってから勢いづいていたが、大きな壁にぶち当たった気分だった。ずっと調子がいいということはありえないため、壁に当たった時にどうするかが重要だ。


「俺も動画を見ているだけでは分からなかった。直接戦って分かったんだ」

「そう…なら私が気づけなくても変じゃないのね」

「ああ」


 リベンは手足の麻痺が取れて立ち上がり、パーリラもそれに合わせて傘を持ったまま立ち上がった。空は黒くどんよりとした雨雲になって、雨はすっかり本降りになっていた。


「傘ありがとな」

「もう動けるんだから自分で差しなさいよね」

「はいはい」


 リベンは傘を受け取って差した。そして校舎に鞄を取りに行ってから寮へと帰った。

 これでシュロンとの決闘の約束は果たした。相手も不満を感じている様子はなかった。これで復讐計画前にすることは終わった。時間も空けたことでパーリラやアペソンにエジンのことを尋ねても不自然ではなくなった。


 しかし、リベンはシュロンと直接戦ったことで彼女の戦闘スタイルが分かって来て、このまま負けっぱなしで終わるのは嫌になった。対策すれば勝てるとは限らないが、やらないうちからこれで終わりにしたくなくなった。

 それはそれとして、目下のところは相手に朗読という罰ゲームが待っていた。負けた実感が湧いて来るよりも前にそのことが気になるリベンであった。

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