52話 D4
夜、リベンは自室で勉強をして、区切りがついたところでペンを置き、椅子にもたれかかって横に回し、天井を眺めながら今後の方針を考えた。
これからどうするか…変わらないか。母さんの死を無駄にしないためにも復讐は行う。ただし、復讐の前にシロちゃんとの決闘を行うこと。そういえば、その決闘は一回やって俺が負けたらそれで終わりだろうか。それとも勝つまで続けるのか。勝った後も防衛を続けるのか。それではキリがないな。
ランキングは4年生になれば外れる。今2年生のシロちゃんはあと1年強でランキングから外れることになる。それまでを期限とするか?しかしこれではあまりに長くないか?それまで復讐先延ばしは流石に申し訳ない。
もっと短い場合はどうだ?一度戦って負けましたで終わりでシロちゃんは納得するかどうか。いい試合となれば納得するか?それとも逆に惜しさから更に戦うことになるか?相手がどう思うかもあるが、惜しいところで負けたら俺がまた勝負したくなることだろう。
リベンは色々と考えたが、一度戦ってみればもっと分かるだろうと考え、まずは決闘をすることにした。トモイなら過去の決闘データに詳しいだろうと翌日教室で聞くことにした。今すぐ電話で頼むことはしないが、もし寮で見かけたら頼んでみようとは思い、休憩も兼ねて部屋を出た。
リベンが休憩がてら男子談話室に行くとヴァンとトモイが机に向かい合って座り、ノートを広げて何か考えていた。男子談話室に訪れると5回に1回程度は見かける。そして大体馬鹿みたいなことを大真面目に考えている。だが何であろうと真剣になれるのはいいことだ。
「どうした?また何か話を考えているのか?」
「ああ、中核の部分をサスペンス色でいくかミステリー色で行くか迷っているところなんだ」
珍しく真面目な話を考えているなと思い、話を聞いて見ることにした。
「ドラマの裏側を舞台にした話なんだ。主人公の男は影の監督みたいなもので、役者含め多くの人には正体をばらしていないが作品に影響を及ぼす立場にある。原作者がいいかなと思ってる」
「そう。そこで役者のヒロインたちがその影の監督に色仕掛けをして出番を増やしてもらおうとしたり、いいシーンを回してもらおうとするわけだ。エロハプニングがいっぱいのお話。それがメインと言っていい」
真面目な話かと思ったらやっぱり違った。いや、真面目ではあるか…?
「お前ら演技性選手志望じゃなかったか?役者の話がそれでいいのか?」
「だからこそだ。実際にコースに入るともう想像しづらくなる。会社員になると会社ものでのトラブル、教師になると学校ものでのトラブルに笑えなくなると聞く。僕たちもそうなる前に楽しんでおこうと思って」
「あまり時間はないのさ」
「な…成程。そこまでするものなのかは疑問だけど」
リベンはヴァンとトモイの勢いに押されて、納得することにした。
「それで迷っているのが、読者にはヒロインたちの目的…つまり出番を増やしたりいい役回りを貰ったりできるようにすることを冒頭で明かしておくべきか、それとも伏せて置いてなぜこんなことを?と謎を提示すべきか」
「明かしておく場合はサスペンス色が強くなる。読者としては爆弾の存在に気づいているが、作中人物は気づいておらず、いつ気づかれるのかとハラハラする効果が期待できる。隠しておく場合はこのヒロインたちの目的は何か?と謎の答を求める効果が期待できる」
「ふうん、成程ね…」
真剣に考えている雰囲気に触発されてリベンも真剣に考えて答えを出した。
「それなら読者は知ってる方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「だって色仕掛けの理由なんて簡単に推理できるだろ。ミステリーにならないよ」
「…確かに。かといって簡単に推理できないようヒントを減らしたら答えを求める効果も薄まるね。結末を知っている僕らには意味のある行動に見えて味わい深くても、初めて読む人には何のことか分からずつまらない」
「それに、どのようにバレるのかという謎は残る。謎で引きつける力はある」
「それを強めるなら、冒頭でバレている未来の場面から始まって、どうやってそこに至るのかという謎もいいかもな」
「ああ、それならヒロインたちの目的を不明にしておくと、今はこんなに仲が良いのにどうして未来では敵対を…?というのも期待できそうだね」
「うーん、余計にどっちも良く思えて来た」
「両方作ってみたら?」
「簡単に言うなあ。でもまあ…それも手か。一通り最後まで作って振り返れば不足部分が見えてくるし」
ヴァンは一応の納得をしたようだった。
「まあ頑張ってくれ」
「あ、もう一つあるんだ。エンディングを復讐にするか愛情にするか迷っている」
「復讐?殺すのか?」
リベンは顔色を変えはしなかったが眉をひそめた。
「殺すだけが復讐じゃない。そんな血なまぐさい作品じゃなくてエロコメディだからな。主人公を騙したヒロインたちを恥ずかしい目に遭わせるくらいだ。後は主人公だけが成功者となるオチ」
何だ、復讐と聞いてびっくりした。俺の復讐とは全く異なるものだ。
「でもそれで終わりでいいのかどうか。どうにか気に入られようと接しているうちに逆に絆されて恋愛感情を持ち、結ばれるエンドというのも考えた。復讐もなく、そこに繋げるのも良いと思う」
「書いていると情が湧いてきそうだものね」
「しかし、ざまあみろというオチよりは刺激が弱まってしまう。騙しておいて報われるなど納得いかないと思われるかもしれない。どうしたもんかな」
「うーん…」
リベンは迂闊なことは言えないと感じた。復讐に関するスタンスを明らかにすることで自分の行動が縛られる可能性を感じたからだ。
「主役級はみんな報われた方が良いと思うが…。苦難を乗り越えて報われる話がいいな」
「そうだな…。うん、そうしてみよう。ありがとう」
「じゃ、頑張って」
リベンは席を立って自分の部屋へと戻っていった。復讐のスタンスについて余計なことを考えないように早く離れて忘れるために。そしてトモイに決闘の情報を聞くことを忘れ、次の機会に聞くことにしたのだった。
前日の日曜日の昼過ぎ、シュロンとミクロナは街に遊びに出ていた。その途中、甘い香りの漂うカフェでお茶を飲んで一休みした。
「そういえばシロちゃん、ベンちゃんとの決闘はどうやったら終わりなの?」
「どうやったら…って普通の学園決闘と同じルールのつもりだけど?」
シュロンは何も特殊なルールを用いるつもりはないと答えた。しかし、そんなことは分かっているだろうと思い、一応は答えたが、そういうことじゃないだろうなと感じていた。ティーカップの取っ手を軽く掴みながら、質問の意図がよく分からず不思議そうに小首を傾げた。
「そうじゃなくて、一度勝負したら終わりなのかとか、ベンちゃんが勝つまでなのかとか、そういうこと」
「ああ、そういうことか。…厳密に考えて無いな。あたしが満足したら終わりじゃない?仮にベンが勝っても順位取り戻そうとして続けるかもしれないし、満足して一区切りつくかも。でもランキング戦に挑む以上、一区切りついた後も戦うことはあるかもね」
「ふーん、結局よく分からないんだね」
「まとめるとそういうこと」
シュロンとミクロナは互いに気を許していて遠慮なく雑な物言いで言い合った。
ミクロナがクッキーをサクッとかじると、シュロンが話を続けた。
「それから、プロの試合は男女別だから、公式記録に残る試合が可能なのは学園にいる間…厳密にはあたしが4年生になる前まで。だからといって何度も戦ってたらありがたみが薄れるし、具体的に何回までとは言えないけど程々のいい感じに。こればかりは感覚次第?」
「私たち2年生だからランキング戦から卒業はシロちゃんとベンちゃんは1年違うんだよね。同い年だったらなあ」
「でもそのおかげで先に来て待ち受けることができた。しかもすぐに順位が並んだ。良い状況だよ」
「ポジティブだね。あーあ、私はどっちを応援したらいいんだろう?」
「好きにしなよ。あたしは気にしないから」
シュロンは自分に遠慮しないように促し、何事もないことを示すように平然としてお茶を飲んだ。
「でもやっぱりシロちゃんかな」
「どうして?」
「ベンちゃん、家庭の事情で昔とは苗字が変わっていると言ったじゃない?詮索しないでくれとも」
「言ってたね。だから向こうから話してくれるまで聞かないことにした」
「家庭で辛いことがあったのか時折表情に影があるけど、ベンちゃんはランキング戦に挑んでいる時は楽しそうだよ。シロちゃんが簡単には倒せず、攻略に没頭して楽しんで欲しいな」
「確かに。フランク先輩との決闘に向けて夢中で楽しそうだった」
「ランキング入りしてない私にはできないこと。シロちゃん、私の分もお願いね」
「元より手を抜くつもりはないよ。でも、それを聞いてやる気が増した」
シュロンは気合が入り、ミクロナはその調子と頷いた。こうして彼女はリベンの前に強敵として立ちはだかる。




