45話 A7
リベンは放課後に特訓を続け、道場で学んだが暫く使っていなかった技の感覚を取り戻したことと、新しい動きを意識せずに自然に動かせるようになったことで準備は整ったと感じた。より洗練させようと思えばできるが、それではまだ不十分だと永遠に終わらないので、ある程度のところで区切りを付けて次に進むことにした。
朝、寮から登校して普段は校舎に行くところを正門前に行ってフランクが登校するのを待った。フランクは寮ではなく家から通っているのでここで待っていれば会える可能性がある。別に3年生競技性選手コースの教室に行って決闘を申し込んでもいいのだが、上級生の教室に行って見られている中決闘申請は疎外感があるのでできればやりたくなかった。
そんなこんなで待っていると女子生徒2人が話しながら歩いているのが見え、その後ろで眠そうに歩いているフランクを見つけた。そして正門前にやってきたところで声をかけた。
「フランク先輩、おはようございます」
「ん?ああ、おはよう。ここで会うとは珍しい」
「先輩、あなたに順位を賭けた決闘を申し込みます」
リベンは学生証のボタンを押して決闘申請のウィンドウを出した。
「これからか?」
「いえ、今日の放課後でどうです?」
「そうだな…」
フランクも学生証のボタンを押してウィンドウを出し、承認のパネルに指を伸ばした。
「ちょっと!今日は私の買い物に付き合ってくれるっていったじゃない!」
前を歩いていた女子生徒が戻って来てフランクを止めた。
「ああ、分かってる。でも決闘に1時間もかかるわけじゃないんだからいいだろ?」
「私が先に約束したのよ」
「だから買い物には付き合うって。時間は少し遅くなるけど」
「時間の問題じゃない!」
もう一人の女子生徒はあわあわと様子を伺っていた。リベンはタイミング悪かったなと思い、明日でもいいと言おうとしたが、その前にフランクが口を開いた。
「あのなあ、俺たちはユリブラン学園の生徒で、俺はランキング入りしている生徒の一人なんだ。だから決闘を軽んじることはできない。分かってくれ」
フランクは決闘申請を承認し、決闘が成立した。
「あの、明日でもいいですよ」
「マジ?そっか…でも今日にしようぜ」
「いいんですか?」
「いい。ここで変えるような心構えでは決闘に対して不誠実だ」
フランクは眠気が覚め、真剣な眼差しでリベンを見た。決闘に対する真摯さ、決闘の邪魔になるものは捨てる覚悟を感じられた。
「分かりました。では場所はこの広場で」
リベンは地図のウィンドウを出して指で突いてフランクに渡した。
「おう。いい勝負をしようぜ」
フランクは微笑み、ウィンドウを閉じて考えながら歩いて行った。2人の女子生徒は通り過ぎたフランクの真剣な横顔を見て、キュンとして痺れていた。彼女たちはこれじゃ文句言うのは野暮だと思い、それ以上何も言わないことにした。
そしてその日の授業が全て終わり、決闘の時間がやってきた。
リベンが広場に行くとフランクはまだおらず、一桁台同士の決闘を見に生徒が集まって来ていた。5分程経つとフランクがやってきた。
「待たせたな。さあ、始めよう」
「はい」
マーカーが周囲に引かれ、生徒たちは線の外に出た。2人は目元に仮面をつけ、雪剣を起動し準備を整えた。
フランクは脇を締めて剣を右手に持ち、左手はバランスを取るように軽く握って拳を作って構えた。対してリベンの構えは両手で正面に持ち、剣を突き出すようにやや倒し気味の構え。それは前方からの攻撃を守りつつ、素早く振り下ろせる構え。
「3」
「2」
「1」
「0」
両者はじりじりと距離を詰めていき、今にも飛びかかりそうな緊迫した空気が支配した。
先に動いたのはリベンだった。腕を前に突き出し、相手にめがけて突いた。フランクは横にかわし、前へ踏み出して剣を持った手を殴りつけるように突き出した。このまま行けば伸ばしたリベンの右腕に刃が当たる。
しかしリベンは地面を強く踏み、体全体で勢いを付けて後退し、相手の刃を自分の刃で受けて防いだ。腕だけで突き、すぐに下がれるようにしていたためできた。そして横に円を描くように押しのけ、踏みとどまって横むきに斬りつけた。
フランクは右肩に刃が触れるすんでのところで、体を捻ってギリギリかわした。しかし、姿勢を崩したために反撃できず、一時後退して姿勢を立て直すことにした。
リベンの斬撃は後退直後だったため、前へ踏んでも勢いが乗らずが足りなかった。これで決めるつもりだったため姿勢が崩れ、こちらも姿勢を建て直しにかかり、仕切り直しとなった。
今ので決められなかったか…。同じ手が通じるとは思えない。だが、相手が警戒するようなら動きを制限できる。
両者最初と同じ構えで再開した。先ほど同様、リベンの突きで仕掛けるが、腕だけで足は踏み込んでこないことから、フランクは横に避けるだけで距離を保っていた。
リベンが横に斬りつけると、フランクは後ろに下がり、追撃の逆向きの斬りつけもかわした。そしてその勢いが残り、伸ばした腕ですぐには剣が戻せない隙を見て、前に踏み込み、再び殴りつけるように剣を持った腕を突き出した。
だが隙では無かった。リベンは腕を伸ばしたまま高い位置で剣先を斜め下に向けて振り下ろし、捩じるように相手の剣を押しのけ、その右腕に剣先を刺して下へと斬りつけた。
フランクは右腕が麻痺して剣を落とし、防ぐ手立てが無くなり、斜め下から斬り上げられた。そして体が麻痺し、膝をついた。
決闘が終わり、勝者リベン・クースと表示され、2人の名前の前についていた数字7と8が入れ替わった。リベンは勝利して7位の座を手に入れたのだ。
「よし!」
「やった!」
観戦していたトモイたちはリベンの勝利を喜び、跳ねたりハイタッチしたりしていた。
フランクは体術に優れ、剣術にもその面影がある。だから体術を意識することになるが、実は鎗術の理論が有効なのだ。
彼は剣を振る動きもあるが、得意とする動きは剣を固定したまま距離を詰めて最短で剣を押し付ける直線の動き。これは拳の動きに剣を握って加えたもの。確かに体術の面影がある。しかしそれだけではなく、武器を持ち腕を振り回さない直線の動きといえば鎗の突きと似たところがある。捩じりのある突きと、雪剣の刃を押し当てるのとでは異なるが、固定してスピードを上げた直線の動きというのは同じ。
ただし雪剣と鎗は違うため、鎗相手の戦い方が参考になっても、雪剣用に調整を必要とした。それも押し当てるだけで相手を麻痺させられる雪剣の特性を活かした動きで、摩擦を用いて切る一般的な剣とも違う。一般的な剣技とは違う想定が必要だった。
リベンはクース家の道場で剣術と鎗術、弓術を学び、体術も少しだが学んだ。鎗術が一番得意で、叩く動きを最も得意とする。それゆえ応用が利かせられ、有効な鎗術を用いた特訓をしてそれを有効活用できた。
「俺の負けか。おめでとさん」
フランクはまだ麻痺の残る体で膝をついて動けずにいたが、僅かに動く口で激励の言葉を送った。
「ありがとうございます」
リベンは雪剣の刃を消してホルダーに仕舞い、仮面を取って礼をした。その後、地面に転がっているフランクの雪剣の刃を消して彼の前に置いた。
「さ、早く仲間のところへ行ってやれよ。俺だって結構悔しいんだぜ。お前にいつまでもいられたら落ち着いて悔しがれない」
「はい。ありがとうございました」
リベンはその場を離れ、トモイたちのところへ行き、7位昇格を祝われた。
フランクの周りには彼女たちと思われる女子生徒たちが集まって彼を支えた。勝っている時はもちろん、負けている時にも離れなない仲間というのはとても大切なものだ。
トモイたちと話しているリベンのもとへ決闘を見ていたシュロンとミクロナがやってきた。
「ベンちゃん、おめでとう。これでシロちゃんと順位が連続したね」
「待っていたよベン」
「ようやく戦えるな」
シュロンは嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。
「だけど今日はよそう。あたしとしては、7位戦のついでなんて味気ない。また別の日に6位戦がやりたい」
「俺も疲れているし、その方がありがたい」
「じゃあ近いうちにやろう」
「ああ」
シュロンは肘を曲げて顔の高さに掌を出し、リベンも同じように手を出して握手して約束をした。その後、満足して去っていき、ミクロナがついて行った。
こうしてリベンは一度はフランクに負けたものの再戦して勝利し、ランキング7位に昇った。ランキングに挑むということが徐々に彼の新しい居場所として定着しつつあった。




